特報フロンティアトップ > これまでの放送 > これまでの放送詳細
高騰し続けるウナギの価格。原因は密漁や環境悪化による稚魚の激減とみられる。養殖業者やかば焼き加工会社などの一部は廃業の危機に追い込まれている。さらに、東アジアに生息するニホンウナギの絶滅が危惧されるなか、ワシントン条約に基づいて輸出入が規制される可能性も…。日本市場をねらう中国など各国は、新種ウナギに新たな活路を求め始めている。激減し続ける“天然資源”の実態と、過熱するウナギ争奪戦の行方を追う。
ゲスト
鹿児島大学水産学部教授 佐野雅昭さん
放送した内容すべてテキストでご覧いただけます
日本人に馴染みの深い、ウナギ。学名、「アンギラ・ジャポニカ」。今月初め、国際自然保護連合が、絶滅危惧種の指定に向けて検討を始めました。
乱獲や環境破壊で、ウナギの稚魚が急速に減り続けています。稚魚が手に入らず、養殖業者は廃業の危機に直面しています。
養殖業者
「(養殖池が)空っぽということは、営業を続けられるかどうか。死活問題ですから。」
料理店では、値上げを余儀なくされています。
料理店員
「最悪の場合、ウナギ屋さんがこの世から消えて無くなる。」
一方、赤道直下の国、インドネシア。いま、うなぎの稚魚の豊漁に沸いています。
減り続ける日本のウナギに代わる新たな資源として注目を集めています。
私たちの飽くなき食欲が引き起こす、うなぎの稚魚争奪戦を追いました。
特報フロンティアです。今、うなぎの減少が深刻です。私たちが食べているウナギ、各地の養殖場で育てられています。ただ、うなぎの養殖では卵から孵す完全養殖は実用化されておらず、川から採ってくる稚魚を育てることでしかできません。その稚魚が今、激減しているんです。
こちらは水産庁が発表しましたうなぎの稚魚の漁獲量をまとめたグラフです。50年前の1963年には年間232トンでしたが年々減り続け、今年は5.2トン。90%も激減しました。この背景には乱獲や、環境破壊があるとみられています。
こういった稚魚の激減を受けて、今月5日、国際自然保護連合は、日本うなぎ、学名「アンギラ ジャポニカ」を絶滅危惧種に指定する検討を始めました。日本うなぎは東アジア全体に生息していて、日本で養殖されるものの半分近くは、台湾や中国から輸入されています。仮にレッドリストに載った場合、ワシントン条約で国際取引が規制される可能性が高くなり、日本のうなぎ市場は大きな影響を受けることになります。うなぎの稚魚が急速に減る中で、今、何が起きているのでしょうか。
日本有数のウナギの産地、鹿児島県大隅半島。ウナギの養殖を始めて30年になる松延一彦さんです。出荷量が最盛期の5分の1まで落ち込んでいます。
松延さん
「今は何とかやっていますけれど、先はもっと不透明な気がするもんですから。すごく我々養殖業界にとっては不安ですよね。」
稚魚の減少で仕入れ価格が高騰し、苦しい経営を強いられています。
松延さん
「これが私が買ったシラスウナギの単価なんですけれども」
4年前の稚魚の価格は1キロ20万円。それがおととしには、1キロ105万円、5倍に跳ね上がりました。
松延さん
「当時は100万円って言うのはもう、清水の舞台から飛び降りたようなつもりで私は買ったんですけれども。」
「そらもう、仕入れの段階を超していますね。」
その後、稚魚の価格はさらに高騰し、1キロ200万円を超えました。松延さんは、開業以来初めて、稚魚の購入をあきらめました。養殖池は空っぽです。
松延さん
「池はたくさん持っているけれども、入れる魚がない。まぁ、残念な事態です。稚魚が手に入らなければ、休業か廃業か、どちらかを選択しなければならない。」
かつて、うなぎの稚魚の漁が盛んに行われていた、大分市の大野川です。稚魚が減ったことで、10年以上前から漁は禁止されています。ところが、稚魚の減少に拍車をかける深刻な事態が起きています。密漁です。
インタビュアー
「切っているんです?竹を?」
警察官
「竹を切って道をつくっている」
警察の取り締まりに同行しました。夜間、川を遡上する稚魚を狙う密猟者を探します。これは、密猟者が身を隠す小屋。水面を照らすライトのバッテリーも見つかりました。しかし、暗闇で密漁者を検挙することは、簡単ではありません。
警察官
「犯行現場をおさえるのにですねやはり地形的なところとか、やっぱり気付かれやすいからですね、どうしても足音とかだったりしたら聞こえてしまうんで、そういう難しさはあると思いますね。」
私たちは、大野川で密漁を繰り返していたグループに接触しました。
密猟者
「電気を消してぽっとあんた、ガス灯なんかも消してあんた、寝っ転がっている訳だから、なんぼ警察がうろうろしたって、側にいききらんわな。」
インタビュアー
「密漁やっている意識は皆さん有るんですか?」
密猟者
「いや、それはあるけど、お金になるけんな、あはは。」
稚魚の価格をつり上げているのは、全国から稚魚を買い集めている業者です。インターネットの掲示板には、稚魚を求める業者の書き込みが溢れています。ある業者に、話を聞くことが出来ました。
稚魚を買い集める業者
「やっぱり(稚魚は)宝石だと思うんですよね。」
「密漁で取ってきたものであろうが、どこであろうが、僕たちには分からないものなので。」
「需要があるから高くなったとしても商売が出来る。鰻重2000なんぼ3000なんぼという形になったとしても、日本人はうなぎが好きなんですよ。」
国際自然保護連合は、世界各国の研究者の意見を確認したあと、早ければ年内にもニホンウナギを絶滅危惧種に指定する見通しです。
ゲスト
鹿児島大学水産学部教授 佐野雅昭さん
スタジオには水産資源の養殖や流通に詳しい、鹿児島大学水産学部教授の佐野雅昭(さの・まさあき)さんにお越しいただきました。よろしくお願いします。
よろしくお願い致します。
うなぎの蒲焼きが値上がりしたっていうのはよく聞いたんですけど、業界全体が今大変なことになっているという中で、価格高騰など、ああいう状況になっているのはどうしてでしょうか。
その背後にはうなぎという食べ物をめぐる、特殊な産業の構造、特徴があると思います。
特殊な産業…構造があると…
特殊な食べ方があると言いますか、うなぎという一つの魚、また、かば焼きという一つの食べ方、このような非常に狭いもので、大きな一つの産業ができている…。非常に珍しい食べ物なんです。
他にそのような業種、産業はないわけですね。
中々他には見当たらないと思います。だから他の物に代替できない、うなぎじゃなきゃダメだ!という産業があるということなんでいくら高くてもうなぎを買わざるを得ない、と。
例えば他の飲食店などで言えばどういうことが言えるのでしょうか。
例えば他の外食産業でありますと、牛肉が使えない、という時にですね、豚肉を使う、鳥肉を使うという形で、メニューの内容を変更するなど、柔軟な対応ができます。これがうなぎとなりますと、うなぎの専門店でうなぎを出さない、こんなことはあり得ないわけですね。どうしてもうなぎ屋さんはうなぎを使わなきゃ仕方がない。このような食べ方を我々ずっとしてきました。流通、生産、これもずっと一本でやってきたと。中々この構造を変えることは難しいという状況があります。
うなぎというものの特殊性から、どんどん高くなってきてしまっているということなんですね。
ですからうなぎの養殖業者さんも、これを使われるうなぎ屋さんもですね、高いから買わない、というわけには行きません。高いものを買うか、それとも廃業するか。こういった状況ですからどうしても価格が上がってしまうんだと思います。
ただですね、4,5年前で、キロ210数万円に上がっていると、誰が買うんだろうと、思うんですけれども。
これはやはり我々日本人がですね、うなぎが好きだと、どうしてもうなぎじゃなきゃダメなんだというような食文化がありますから。我々一人一人がこういう価格の高騰に、影響をもたらしているんだろうと思います。
それは食べたいというニーズがなければこういうことは起きない、という点で私たちも関係していると…
そうですね、我々一人ひとりずつ責任を感じる必要があります。
また後ほどお伺いします。
異常な重要が資源の枯渇をもたらしています。稚魚が足りない事情は今に始まったことがありません。国内で消費されるうなぎの半分以上は中国から輸入していますが、その多くは日本うなぎではなく、ヨーロッパや北アフリカで取れる、ヨーロッパうなぎという別の種類なんです。
この稚魚が中国で養殖されて、主にかば焼きに加工され、日本に輸入されています。しかし、このヨーロッパうなぎを取り過ぎてしまったため激減し、4年前からワシントン条約で国際取引が規制されました。現在は規制前に養殖が始まったヨーロッパうなぎが出荷されていますが、来年以降は大幅に減ることが予想されています。うなぎの稚魚の枯渇が世界的に広がる中、輸入業者は新たなる道を探し始めています。
中国から、ウナギの蒲焼きを輸入している佐々木行夫さんです。
佐々木さん
「これは、ヨーロッパの加工品。」
「年内の分はなんとかなるでしょうけど、 春以降はないでしょう。ヨーロッパ種」
ヨーロッパのウナギが手に入りにくくなったことで、中国の取引先は、次々と休業に追い込まれています。今月届いた取引先からのメール。アメリカ産のウナギを扱ってみないかと打診がありました。
佐々木さん
「ヨーロッパじゃなくてもなんでもいいんですよ。ウナギであればいいんです。次の、第3世代のウナギが成功することを祈るしかないです。(神頼み)するしかないです。」
ニホンウナギやヨーロッパウナギに代わる新たな資源はあるのか。今、アメリカや東南アジアに生息するウナギが注目されています。インドネシア、ジャワ島。
熱帯地域原産の“ビカーラ”という種類のウナギです。4年前、インドネシアで、ビカーラの養殖に乗り出した石谷寿康さん。ビカーラの魅力は稚魚が豊富に取れ、価格が日本の10分の1以下と安いことです。
輸入加工業者 石谷 寿康さん
「日本がない、中国もない、どこもないっちゅうと、もうインドネシアしかないと思うんですよ。このアジアでウナギをビジネスにできるというのはね。すごいビジネスだとおもいますけどね。」
新月の夜。河口には、稚魚を取るために地元の人達が続々と集まってきます。このところ、石谷さんのような養殖業者が、こぞって稚魚を買い取るため、値段はこの1年で2倍になりました。漁は明け方まで続き、その場で業者に売り渡します。この男性は月に4万円を稼ぎます。通常の漁師の3倍の収入です。
地元の男性
「うれしいです。たくさんとれば、それだけ儲かります。」
石谷さんは大量の稚魚を確保するため、地域の失業者や農民を雇っています。石谷さんは熱帯産のビカーラを、日本人が食べるウナギの味に近づけようと検討を続けています。
石谷さん
「どういう飼い方、どういうエサが一番美味しくいただけるかというのも、みんなで考えてやっているわけですよ。生エサやった方が良いのか何がいいのか。探さなきゃいけない。その辺が苦労しているとこ。味に対してね。」
先月ようやく日本に向けてかば焼きの出荷がはじまりました。インドネシア政府も、ウナギの養殖を国の成長産業と位置づけています。
インドネシア海洋水産省 スラマット スビヤット 養殖局長
「養殖業者や加工業者が増えれば、輸出が伸びる。経済成長は、ますます加速する。」
「うなぎ養殖のさらなる成長を期待しています。」
今年、日本のウナギ輸入業者の組合はビカーラなど新しい種類のうなぎを積極的に活用していく方針を打ち出しました。輸入業者の佐野 讓二さんも今年からビカーラを 仕入れることに決めた1人です。
輸入業者 佐野 譲二さん
「年間5、600トンは入れたいなと思っています。」「いま回転ずしなんかほとんどウナギが消えている。でも安かったら回転ずしの上にもウナギが回ってくる」
佐野さんは、フィリピンからビカーラを仕入れる計画です。まずフィリピンの養殖場で、稚魚を15センチ以上の「クロコ」に育てます。
フィリピンやインドネシアでは資源保護のため、稚魚の輸出が禁止されているからです。「クロコ」はビカーラの養殖技術が進んでいる韓国に輸送。成長させ、日本に輸入します。しかし佐野さんは、意外なことに気付きました。
佐野さん
「シラス(稚魚)ですね。間違いなく。」
韓国で撮影された写真を入手したところ、輸出が禁止されているビカーラの稚魚が映っていたのです。
佐野さん
「フィリピンで養殖して3ヶ月くらいたったものを韓国に持ってきて成鰻(成長したうなぎ)にしているというのが普通じゃないかと思いますけど。わからないですね。チェックのしようがないので。」
稚魚を求める動きが過熱するなか、資源保護のルールが守られていない疑いが出てきました。日本に大量のウナギを輸出している中国。取材を進めると、ビカーラの稚魚が堂々と養殖されていることがわかりました。広東省の養殖業者で作る組合の会長、周添雄さんです。去年、フィリピンのビカーラの稚魚を、組合全体で1億匹以上仕入れたと言います。
インタビュアー
「稚魚を輸出することを、フィリピンもインドネシアも禁止していると…」
公東省養鰻協会 周 添雄 会長
「そもそもフィリピンうなぎと言うが、実は中国南海うなぎだ。ビカーラの稚魚がいるのは、(フィリピンではなく)中国の南海だ。正確に言うと(フィリピン産ではなく)中国南海産の稚魚だ」
周さんはビカーラのことを「中国南海うなぎ」だと繰り返し主張。稚魚を手に入れたいきさつについては、触れませんでした。
周さんは2年続けてビカーラの養殖に失敗。ほとんど死滅させました。気候が合わなかったことが原因だと見ています。
周さん
「(ビカーラの稚魚は)10〜15パーセントくらいしか残っていない。かなりの損失を出した。ここではビカーラの養殖に未来はない。」
「次は、アメリカ種の稚魚でやるつもりだ。うなぎ業界をつぶすわけにはいかない」
ゲスト
鹿児島大学水産学部教授 佐野雅昭さん
この周さんの動きなんかをみていますと、言わば「世界中での飽くなき うなぎ資源開発」という言葉が浮かんできましたけれども、どう見ましたか。
我々日本の消費者の在り方、これが大きく影響しているという風に考えます。うなぎというものは本来高級品で、そう簡単に食べられるものではなかったんですけれども、これを安くたくさん食べたいという我々の欲求もありまして養殖というものが発展してきたわけです。養殖が発展するとですね、どうしても商品としては安いもの、大衆化が進みます。それを我々が要求していったわけです。その結果、安く沢山食べられるということで、我々にとってはありがたいのですが、天然の稚魚という点からみますと、どうしても無理が出ざるを得ない。
まあ、乱獲という点に繋がると…
そうですね。まあ完全養殖というものが出来ていれば、安くたくさん食べたいというようなことも受け入れられるんですけれども。やはり天然の稚魚というものに依存している以上ですね、これが日本国内では中々調達できない。そうなるとこれを次はヨーロッパに求め、また中国、台湾にも求めていって、それぞれの国で稚魚が入って行ったと。そしてとうとう今、こうやって東南アジア諸国の稚魚を調達するという状況になっております。この様はまさに、その場しのぎの解決法としか思えません。うなぎを輸入する一方で、乱獲を輸出するということに…こういう風に言えるんじゃないでしょうか。
乱獲だけでなく、乱獲というものを輸出してしまうという事態までいっていると。当然環境に良いわけがないんですけれども。
今後、こういった事態になった中で、どのように向き合っていくべきだとお考えでしょう。
かば焼きというものをみる前に、まずうなぎという魚自身のことを、我々が理解するべきだと考えています。そもそもうなぎというのは川という非常に狭くて壊れやすい環境の中で成長する魚です。ですからそもそも資源量がそれほど大きくなりようがない。そういった魚を我々は利用しておりますので、そんなに安く食べられるようなものではないのだと。そこをしっかり理解して、良質の商品を求めていかないと、ということだと思います。