時論公論 「農協 何が問われているのか」2014年06月11日 (水) 午前0:00~

合瀬 宏毅  解説委員

TPP環太平洋パートナーシップ交渉などの進展で農業の競争力強化が求められる中、農協改革が議論の焦点になっています。政府の規制改革会議は先日、JA、農協の改革案を提言。安倍総理も改革を断行する姿勢を示しています。
一方でJAは組織の解体につながるとしてこれに強く反発、昨日自民党も独自の改革案をまとめました。
今夜は農協に何が問われているのか、議論を整理して改革の行方を見ていきます。
 
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農協改革に注目が集まるのは、これが地域農業の立て直しに密接に結びついているからです。
全国の農協数は703、主な事業は、農家に苗や肥料など農業資材を販売し、技術指導するとともに、そこで出来た農産物を主に市場に出荷することです。

しかし農協の事業はそれにとどまりません。農協は農協法よって設立された民間組織ですが、金融事業や保険などの共済事業を扱うことが許されるなど、様々な特典を与えられ、さらにはスーパーマーケットやガソリンスタンド、それに病院などを経営する、まさに農村を支える存在となっています。
 
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そもそも農協は農家が集まり、大手取引先に搾取されないよう、これに対抗して組織化したのが始まりでした。しかし業務を拡大するうちに組織は肥大化。メガバンクや大手保険会社と肩をならべる金融部門を持つ、巨大事業グループを形成するまでになっています。

ところが組織が大きくなるにつれ、批判も強くなってきました。金融や共済部門が肥大化したことによって「組合員のため」というより、「組織の維持が目的」になってはいないか。農家の利益が忘れられていないかというものです。
 
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そして今回、農業の成長産業化を掲げる安倍内閣です。農家の所得を増やすためには、農協改革は不可欠として、政府の規制改革会議が検討を進めてきたというわけです。
焦点となっているのは中央会制度の取り扱いです。

全国703の農協をとりまとめるのは全国農協中央会、JA全中です。地域農業から賦課金を集める一方、地域農協の経営指導や監査を行うことが法律で定められ、経済事業を行うJA全農や、金融事業を行う農林中央金庫、それに共済事業を行う全共連とともに、地域農協を支える役割を背負ってきました。
 
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しかしTPPに対する反対運動や、補助金獲得などの農政活動、それに政治への影響力を強める全中の姿勢は、しばしば政権と対立してきました。

規制改革会議はまず、中央会制度の廃止を提言しました。そしてグローバル市場における競争に対応するため、全農を株式会社化。
さらに地域農協が農業活性化に全力投球できるよう、信用事業や共済事業は農林中央金庫や全共連に移管し、自らは農産物販売などに専念するように提言しました。

全中が行う全国一律の指導を廃止すれば、地域農協が自由に経営を行うことができ、その結果農業の発展を促すというのが理由です。
 
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しかしこの提案に対するJAグループの反発は大きなものがありました。組織つぶしだとしてこれに反対。選挙で農協からの支援をうける自民党としても、とても認められるものではなかったようです。

昨日纏まった自民党案では、まず中央会制度について、廃止という文字を消し、JA内部での議論を経たうえで、新たな制度を検討するとしました。
また全農の株式会社化は、前向きに検討するとしたものの、判断は全農に任せ、金融や保険業務の委託についても、地域農協の選択が可能な制度にするとしました。

つまり農協組織が自ら選択できるとしたうえで、JAに時間をかけて議論するよう求めた内容となっています。

さてこれをどう考えれば良いのでしょうか?
確かに農協は農家が自主的に作った民間組織ですから、国の関与には限界があります。自民党がいうように農協の自主性に任せざるを得ない面は大きいと思います。
しかし、いまの農協のあり方がいびつであることも確かです。

例えば、組合員の数です。1000万人いる組合員の半分以上は農家ではない、准組合員と呼ばれる一般の人たちです。農協の職員数をみても、22万人のうち、農産物の販売や農業指導を担当する職員は全体のわずか14%。金融部門より少なくなっています。
この結果、一組合当たりの経済事業は赤字が2億3000万円にのぼり、それを信用事業と共済事業の黒字で、穴埋めしている状態です。

これでは規制改革会議のメンバーから、農協が地域の農業振興に熱心に取り組まず、信用や保険事業の黒字にあぐらをかいていると受け取られても仕方ないでしょう。
 
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一方で、農協が地域の生活を支えているのも事実です。
農協の信用事業は採算の悪い山村や、離島にも店舗を置いており、農協以外に金融機関のない市町村も多数存在します。病院やスーパー、ガソリンスタンドなどは地域に多くの雇用を生み出しています。まさに農村のインフラとなっています。

ただ農協の役割はあくまでも、地域の農業振興です。
そのために農協には、一般企業に比べて法人税が安いことや、出荷施設などの固定資産税を免除されるなど、様々な優遇措置があり、金融や保険業務を行うこともゆるされています。
こうしたことを考えれば、農協として、もっと地域の農業振興に取り組むことが必要ではないでしょうか。
 
では農協は自らをどう変えようとしているのでしょうか。
JAも4月に、自らの営農・経済革新プランを公表しています。これまで農家から集荷し市場に出荷するだけだった販売事業を、今後は企業などと連携し、農家から買い取る契約取引や6次産業化を拡大。
また海外にレストランなどを展開し、2020年にこれまでの10倍以上にあたる400億円の農産物輸出を目標とする戦略を構築するとしました。
さらには他社に比べ割高とされていた肥料など農業資材の流通を見直し、コストダウンを図るとするなど、農家所得の最大化を目指すとしています。
 
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全国の農協の中には、北海道帯広市の川西農協の様に、特産のナガイモを台湾やアメリカなどに輸出し、高い利益を上げているところもあります。農家は1000万円をこえる所得を実現し、年々規模を拡大しています。
また伊豆の国農協では、高い所得を実現するミニトマト栽培のビジネスモデルを作り、一般企業などから転身する農家が相次いでいます。いずれも農協が経営を指導し、優秀な産地を作り上げています。

全国の農協もこうした優秀事例を参考に、横に展開を図っていこうとしているようです。
しかしJAが出した経済革新プランは、多くの項目でいつまでにやるのか具体的な工程表がなく、輸出の400億円にしても、相手国の検疫廃止などが前提だとしています。

JAは今後纏まる成長戦略をうけ、改めて組織内で討議を行い、工程表も含めた改革案を作成することにしています。もちろん地方農業の振興には国や県など行政にも責任があります。
しかし当事者である農協が農業活性化のカギを握っていることは間違いありません。組織の安定は必要ですが、それだけでは困ります。
国としても優遇措置などを条件に、JAの自主的な改革を迫る姿勢が必要だと思います。
 
(合瀬宏毅 解説委員)