オリンピックはもはや「観るだけ」から「参加する」ものへ:チームラボ・猪子寿之が見据える東京五輪が未来的すぎてヤバい

チームラボ

J-WAVEJAM THE WORLD』の2014年6月10日放送分よりピックアップ。

 

みなさんはこちらのCMをご覧になったことがありますか?

 こちらは、株式会社チームラボのデジタルアート『憑依する滝』と呼ばれる作品です。

コンピュータ上の空間に岩を立体的につくり、その岩に水を落下させる。

水は、無数の水の粒子の連続体で表現し、粒子間の相互作用を計算している。滝を物理的に正確な水の運動シミュレーションとして構築しているのだ。

そして、全体の水の粒子の中からランダムで選んだ0.1%の水の粒子の挙動によって、空間上に線を描く。その線の集合で滝を描いている。

つまり、無数の線の裏側には、その1000倍もの水の粒子が存在し、それら全体の相互作用によって、線の曲線が決まっているのだ。

Universe of Water Particles / 憑依する滝 | teamLab / チームラボ

このテレビCMを見てハッとした方も多いのではないでしょうか。

ぼくもその一人で、なんとなくテレビを見ていたときにこの作品が映し出され、食い入るように見入ってしまいました。チームラボの作品の魅力は、多くの人の心を一瞬にして掴むところにあると思います。それは日本だけではなく、これまで遥か海を超えた多くの国々で高い評価を得てきました。

そんな、日本のデジタルアートの最先端を突っ走っているウルトラテクノロジスト集団・チームラボの代表である猪子寿之さんが今回のゲストです。

彼は、誰もが認める「変人」なのですが、やはり例に漏れずこの放送でも猪子節が炸裂します。どうぞお楽しみください。

株式会社チームラボ/teamLab 

 

【しゃべるひと】

 

「ジャパン、ヤバいよね」と言われたい

津田大介:実は2年前の201年の4月にご出演いただいたんですが、当時もすごかったんですがチームラボはあれから2年で活躍の場がさらに拡大しまして、台湾の国立美術館で個展を開催されたり、シンガポールでも話題になったり、猪子さんは情熱大陸に出られて、なかなか話題になったんじゃないですか?

猪子寿之:ありがとうございます。

津田:それだけでなくて、日本の空の玄関口である成田空港に常設の展示があったり、どんどん世界に羽ばたいているチームラボなんですが、こういう形でアートや自分たちの表現が世界に出て行くというのは、チームラボ設立当初から考えていたんですか?

猪子:アートかアートじゃないか、っていうこだわりはそんなにないんですけど自分たちが作ったもので世界中の人たちが感動してくれて、その結果「ジャパン、ヤバいよね」って感じになったらいいな、っていう思いは設立当時からありまして。

津田:実際に世界に出てみて、「こんな反響があるだろうな?」と事前に予想していたものの通りだったのか、それとももっと意外な反響だったのか、予想とはどうでしょう?

猪子:いや、そんなに何にも考えてないんですけど(笑)

反響は、特にアートに関しては海外のほうが良かったので、そちらの方が先にウケていろんなチャンスをもらったという。

津田:日本の反響と海外の反響って、一番違うのはどういうところですか?

猪子:普通の人(お客さんとして見に来た人)はそんなに変わらないんですよ、反響って。でも、決定権をもっているような人、偉い人の反応は海外の方が強くてよりいいチャンスをもらえる、みたいなことが。

津田:じゃあ、話がうまく転がっていく速度が早いということですか?

猪子:そうですね。

 

 『憑依する滝』に見る、日本人の空間認識

津田:最近の代表作、『憑依する滝』を見て頂ければお分かりになると思うんですけど、あの作品は空間認識という点ではどういうコンセプトが内包されているんですか?

猪子:すっげー、マニアックなんですけど(笑) 

冒頭に話してもらったAudiの車のやつでいうと、車の3Dデータをコンピュータ上に立体で再現して、ほんとにコンピュータ上で水をぶっかけるんですね。

いま、東京都現代美術館でやってる作品だと、実寸の人工衛星をコンピュータ上の空間に再現して、同じように水をかけて滝を再現するんですけど。

水のシミュレーションって、水を小さい粒子の集合と見立てて、物理計算をするんですけど、それで滝のシミュレーションを再現したあとに水の一個一個の粒子の運動に線を引いていってるんですね。

その線で滝を作ってるんですけど。

津田:これって、いわゆる普通のCGで滝と表現するのとも違うアプローチなんですか?

猪子:それとよく似たアプローチですね。その過程の中で計算に使う水の粒子の運動で線を引いてるんですけど。

なんでそういうことをやったかというと、人間が見るという行為は瞬間瞬間に目に映ってるモノだけで見ているわけではなくて、人間の目というのはフォーカス範囲がすごく狭くて浅いので、実際ちょっと過去まで遡っていろいろ脳で見ているものをなんとなく脳で合成して、全体を見ているつもりでいるんです。

津田:なるほど。

猪子:で、いろいろ自分の中で過去の日本の空間認識を紐解いているなかで、昔の日本人は西洋の人や現代人より空間認識に使っている時間軸がすごく長かったんじゃないかな?と思うんですね。すっげー直感的に言うと、カメラの露光時間が長いみたいな。

津田:あー、なるほど。そういう認識を日本人がしてた可能性がある、と。

猪子:はい、また直感的な話をすると、例えば北斎の雨って線ですよね。

北斎

浮世絵に見る東海道の宿場町

津田:はいはい。そっか、あの表現が点になってないんですね。

猪子:カメラの露光時間が短いと点になりますよね。

津田:露光時間を長くして星とか撮ったら棒状になりますもんね。

猪子:だから、合成に使ってる時間が長いんですよね。

すっげー雑談になるんですけど、人間の脳ってそんなに変わらないとぼくは思っているので、日本のほうが優秀と言っているわけではなくて、時間が長いということは、全体の情報量が一緒だと仮定すると瞬間瞬間の情報は雑っていうことになりますよね。

津田:時間としてはすごく長くやっているけど、密度は薄くなりますね。

猪子:雑っていうか、瞬間瞬間の情報は欠損すると思っていて。例えば、大和絵とかで雲を描くと隠れますよね?あれは欠損しているんじゃないか?って思っていて。よく「日本の美術は省きだ」って言いますけど、省いてるんじゃなくて欠損してるんだと思うんですよ。

津田:意図的な「省き」なんじゃなくて、無意識な「欠損」だと。

猪子:見えてない、というか。

 

「観る」から「体感する」オリンピックへ

津田:オリンピック、開催決定は猪子さん的にどうですか?

猪子:嬉しいですよね。

津田:クリエイターとしてはオリンピックに何らかのかたちで関わってみたいという思いはあります?

猪子:関われたらそれは幸せですよね。

津田:例えば、もし猪子さんに演出のオファーがきたら「こういうプロダクトを作ってみたい」というアイデアはありますか?

猪子:やっぱり、オリンピックってテクノロジーやメディアが変わることでオリンピックそのものが変わってきていると思うんですよ。

津田:インフラそのものが変わりますからね。

猪子:はい、例えばオリンピックの見方もテレビが無かった時代とそうでない時代で変わったと思うんですよね。

津田:地デジに変わったりもありましたしね。

猪子:いまって、これまでの20世紀までのメディアの違いとして、これまでの20世紀のメディアはテレビのような鑑賞するだけというのが中心だったと思うんですけど、例えばソーシャルメディアは自分たちが参加しますよね。

デジタルっていうものが出てきて、もう空間そのものがメディアになってきてるんですね。すっごい分かりやすいことをいうと、「プロジェクションマッピング」って空間そのものがメディアになってますよね。

津田:たしかにそうですね。

猪子:だから、見るだけというよりは体感するというようなメディアに変わってきているんですね。

津田:じゃあ、オリンピックを見ながら疑似体験なり新しい体験ができるようなオリンピックが可能なんじゃないか、と。

猪子:そうですね。

今までのオリンピックは鑑賞するもの、観るものだったんですけど、2020年にもし自分が参加できるんだったら、「観る」だけのものから「参加」したり「体感」できるようなオリンピックになったらいいな、と思っていて。

津田:「体感」のイメージって、具体的にはどんな感じですか?

猪子:いままでだと競技は会場に行って見るか、テレビを通して見るだけだったんですけど、例えば「ホログラム」みたいな技術があれば、競技そのものを街の中で実寸で再現したり。

津田:あー、例えば国立競技場とかで走り幅跳びがあったら、それがどこかの地方でのホログラムで見れるみたいな。

猪子:そうです。競技場だと豆粒みたいな感じだし、テレビっていっても体感とは違いますよね。

津田:そうですね、でもホログラムだと実際にぶつかるわけじゃないから、ぼくらが砂場に入って向こうからワァーって来て自分たちを追い抜いて飛び越した!、みたいなことができるっていう。

猪子:そうすると、例えばいまって日本がメダルを獲ったか獲ってないかみたいなところばっかりにフォーカスされてるじゃないですか、それが悪いわけではなくて一個の楽しみ方ですけど、それだけって勿体無くて、よく考えたら5〜60億人いてその中の最強の肉体の人たちが来てるわけじゃないですか。

そうすると、砂場にいて目の前で走り幅跳びとかで飛ばれたら、どこの国とか超越して「人間すげぇ、こんなに跳べるんだ」って

津田:だから、棒高跳びでいうとブブカって有名でしたけど、そういう選手がいたんだったら彼がGoProをつけて「こんな風になるんだ!」ってなるだけでも全然違いますしね。

猪子:それもそうですし、例えば渋谷の交差点にホログラムができて棒高跳びしたとしたら「何階に直接入れるんだ!?」みたいな。

津田:あーなるほどね!「Qフロントのここまで行ったか!」みたいな(笑)

猪子:「スタバ余裕で越しちゃうんだw」みたいな感じで。「人間すげぇ」ってなると思うんですよね。

津田:そうすると、我々のように日本人選手だけの動向しか見てなかったものが、「人間すげぇ」ってなって価値が新しくなるんですね。

猪子:全く新しい価値が生まれると思うし、ほんとに「体感」できるわけですよね。

それだけではなくて競技の生中継が終わったら、例えば100m走だったら参加して一緒に走れるわけですよね。これまでだと見るだけだったのが、実際に100mの決勝戦に自分も参加して走って、みたいな。ただ記念撮影して変えるわけではなくて、「記念オリンピックして帰る、みたいな(笑)

津田:それ、すごい面白いと思ったのが、オリンピックってものすごくいろんな競技があるじゃないですか。

そのなかでパッと見地味すぎて、テレビではあんまり放映されないよな競技がアイデア次第によっては最高に面白いものになる可能性もあるわけですよね。だから、クレイ射撃とかで自分が的になったり、アーチェリーで飛んでくる矢をサッと避けてみたり。いろんなことができますよね。

猪子:そうすると、参加したり体感するオリンピックに変わって都市でやる意味がより深くなるといか、ど真ん中でやる意味がより出てくる、というか。

津田:それで、ラウンドワンとコラボとかしたらめっちゃ盛り上がりそうな感じがしますもんね。なるほど。まだ、実際にオファーがあるわけでは?

猪子:いえいえ、ないです(笑)

 

「変人」が動きやすい環境が大事

津田:最近、それこそ「変人募集!イノベーションを活発化したい!」みたいなことがちょっと話題になったりもしたんですけど、猪子さん的にはそういうイノベーションみたいなものとか、日本のものづくりは「こうすれば活性化するんじゃないか?」ということで考えていることって何かありますか?

猪子「変人」っていうのは…、変人なんですよ(笑)

何が言いたいかと言うと、誰かを「可能性のある変人」って決めることってほとんど不可能だと思っていて、結果を出した人が、たまたま結果を出す前はただの変わり者として無視されてるだけだったかもしれなじゃないですか

津田:そうですね。

猪子:誰かがピックアップする時点で、究極的に言うと「変人」ではないわけですよね。

というかそういうことができればすごくロマンチックですけど、現実的には不可能だと思っていて、イノベーションというのは本質的に法の数を減らすとか、社会の寛容性を増やすとか、そういうふうにしていわゆる「いま理解できない変人」なり、いろんなわけわからないことをする人が動きやすい状態を作ることがとにかく、重要なんじゃないかと。

津田:そもそも、変人というのは10000人に1人とかで、、その割合って変わらないんだけどそれが活動しやすいかどうか、が重要ということですね。

猪子活動しやすいかどうかのみが重要だと思っていて、前もって可能性のある変人を見つけることは不可能で。

津田:意味もない、ってことですよね。

猪子:現実的に不可能なんじゃないかな?っていう。

津田:それを、日本で最も成功した変人の一人である猪子さんが言うんだから説得力もあるなぁ、と。

 

おぉ、ヤバい!「参加型」オリンピック、めちゃくちゃヤバいじゃないっすか!

ただテレビの前で座って見ていたものを、その場で立体的に感じることができるというのは、ただ「魅力的」というだけにとどまらずスポーツの祭典であるオリンピックの価値をさらに高められると思います。 これは誇張じゃなく、一般の人々にとって「全く新しい」オリンピックの見方、楽しみ方になることは間違いないでしょう。

「本来、5~60億人のトップが集まっているんだから、日本人の動向だけに注目するのは勿体ない」という根底にある考えも、まさにその通りですよね。オリンピックの本来の意義に立ち返ったときに、いまの日本人的な見方はやはり狭い範囲にフォーカスし過ぎているような気がしてなりません。これは他の国でもそうかもしれませんが。

個人的には、猪子さんがオリンピックの演出に携わるのは超賛成ですね。だって、ワクワクしませんか?ヤバいと思いませんか?世界中から引っ張りだこの「変人」猪子さんがプロデュースするオリンピック、ぜひ見てみたいものです。

 

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【書いたひと】

下津曲浩(@H_shimotsu

「ラジおこし」編集長。93年生まれの現在大学4年。好きなラジオ番組は『オードリーのオールナイトニッポン』、『ラブレターズのオールナイトニッポン0』です。お笑い芸人の単独ライブを見ることが生きがいです。

   


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