中村雅俊４０周年の記念アルバム発売　被害者へ思いこめ「ワスレナイ」

　中村雅俊（６３）が７月１日にデビュー４０周年の記念アルバム「ワスレナイ〜ＭＡＳＡＴＯＳＨＩ　ＮＡＫＡＭＵＲＡ　４０ｔｈ　Ａｎｎｉｖｅｒｓａｒｙ」を出す。オリジナルとしては１５年ぶり。故郷の宮城県女川町を含む東日本大震災の被災地で生きる人たちへの思いをこめた力作だ（初回限定盤はセルフカバーとの２枚組）。９月からのコンサートツアーでは、初めてバンド編成と少人数編成の２通りのステージに挑戦する。

　発売日は、デビュー曲「ふれあい」が世に出てから丸４０年となる記念日だ。

　女川町で遠く広がる海をながめ、外交官になる夢を抱いて上京した中村が、いくつかの偶然が重なって、日本テレビ系のドラマ「われら青春！」で主演デビューしたのが１９７４年４月。熱血教師役で人気沸騰、挿入歌の「ふれあい」はミリオンセラーとなり、たちまちスターの座をつかんだ。

　「いきなり一等賞だからね、どう考えても続かないのが普通。一発屋になる要素大だな、と思った」と中村。決して浮かれることなく、当時所属していた文学座とドラマのかけもちはしないと決めた。

　途中、どうしてもやりくりがつかず、映画、正月ドラマ、レコーディングが重なり、体調を崩したこともあったという。それでも、「今やってる仕事に全力投球。その繰り返しで、オレの場合、ラッキーで長くやってこられた。武田鉄矢さんじゃないけど、思えば遠くへ来た。４０周年というのは、ちょっと感慨深いものがあるね」と振り返った。

　順風満帆に見えるが、レコードが売れない時期もあった。「役者の割には売れたんだから、と自分を慰めたり、もう売れないのかな、と思った」時に、火が付いたのが「心の色」（８１年）だった。発売から３カ月以上をかけてチャート１位を獲得。「しみじみうれしかった」と明かした。

　東日本大震災によって、自身の活動も大きく変わった。すぐに女川町に救援物資を届けたほか、地元の友人らと復興支援のチームを立ち上げた。昨年１０月からは、ＢＳ朝日「いま日本は」（土曜午後６時５４分）のキャスターとして、ほぼ毎週被災地を訪れ、独自の視点でリポートを続けている。

　歌で被災者を励ますこともたびたびあり、自然に曲がたまった。自作のタイトル曲「ワスレナイ」では、「諦めることに慣れるな　まだ早い　うつむく心を捨てようぜ」と勇気づけ、「Ｓｍｉｌｅ　Ａｇａｉｎ」では、「君の笑顔も誰かを照らす光なんだよ」と寄り添う。２つの小学校が統合して誕生した東松島市立鳴瀬桜華小学校から依頼されて作曲した校歌「花になろう」も収録した。

　「３年前の出来事ってどうしても風化するんで、忘れないっていうか、忘れさせないということを、微力だけどやっていくことが大事だと思ってる。全国の人、世界の人にとっても他人ごとじゃないんでね」と力を込めた。

　毎年欠かさず続けてきたコンサートは１４００回以上になる。「お客さんが来てくれなきゃできない。自分なりに誇れる数字」と胸を張った。もう一つ、主演した連続ドラマが３３本というのも自慢していい数字だ。

　９月２７日の東京公演から始まるツアーでは、バンド編成と少人数編成のステージと２通りのコンサートに挑戦する。同じ曲でも違う表現で伝える試みと気軽に地方に行けるように、との思いからだ。

　少人数版の最初は、１０月４日の石巻公演。女川から３年間通った石巻高校がある“地元”で１６年ぶりの本格コンサートになる。懐かしい同級生の顔を思い浮かべながら、「じゃまだからホントは避けたいんだよね」と言って顔をほころばせた。

　「４０周年は決してゴールじゃない」という口ぶりは、確信に満ちていた。今回のアルバムには、「同世代への後押しになれば」との願いも込められている。若々しい６３歳は、今まさに働き盛りだ。（本庄雅之）

＜中村雅俊（なかむら・まさとし）＞　１９５１（昭和２６）年２月１日生まれ、宮城県女川町出身。石巻高校、慶応大学経済学部卒。在学中、英語で演劇を上演するＥＳＳに所属。友人の付き添いついでに受けた文学座に合格。「われら青春！」の主演に内定していた先輩の松田優作（故人）が、萩原健一の降板にともなって「太陽にほえろ！」に出演することになり、松田らの推薦で「われら−」主演が決まった。「俺たちの旅」などドラマのほか映画は「夜逃げ屋本舗」シリーズなど。シングル、アルバム合わせて８０作以上をリリース。元女優の五十嵐淳子との間に一男三女、三女はタレントの中村里砂。