中国語ニュース翻訳の難しさ
翻訳者にとっての罠は困難な文章ではなく、平易な文章の中にこそ潜んでいる。困難な文章は全力で読解できるが、平易な文章はわかったつもりで訳してしまい、大事なニュアンスを落としてしまうからだ。
一つ実例をあげよう。
![マトリックス](http://megalodon.jp/get_contents/167686352)
中国外交部、「米国こそが『ハッカー帝国』だ、地球人はみな知っている」―中国メディア
http://www.xinhua.jp/socioeconomy/photonews/385435/
米国は被害者のふりをする必要はない。米国こそが『ハッカー帝国』だ。地球人はこの事実をみな知っている。だが、米国は反省もせず、理不尽に他国を非難し、攻撃している。このようなやり方は全く建設的ではない
原文:
美国不必把自己装扮成受害者,它自己就是“黑客帝国”,这是地球人都知道的事实。美方不思反省,不思检点,反而仍在无理指责和攻击别国,这样的做法不具任何建设性。
一見何の問題もないように見える文章だが、そこにこそ罠が潜んでいる。その罠がなにか具体的にわからなくとも仕方がない。ただし「ハッカー帝国」(黒客帝国)や「地球人」(地球人)ってなんか唐突じゃね?と違和感を感じられるかどうか、そこに翻訳の精度がかかっている。
では種明かしをば。実は「ハッカー帝国」は映画「マトリックス」の中国語タイトルなのだ。そして「地球人」だが、「日本のトイレの多機能っぷり半端ねぇ。こりゃ、地球人にはもはや日本人は止められない!」といった、中国ネット頻出の言い回しがある。日本でいうならば2ch用語をぶっこんだよううなものだ。
以上を知れば、中国外交部報道官が厳粛に米国を批判したのではなく、ギャグ満載で米国をおちょくったことがおわかりになるはずだ。そのニュアンスを組み入れれば、訳文は以下のようになるはずである。
米国さんは被害者のふりをすることはないんじゃないですか。米国こそ「マトリックス」的ハッカーのお国じゃないですか。そんなこと地球人なら誰でも知ってます。なのに米国さんは反省もせず、理不尽にも他国を批判するばかり。建設的なやり方とは思えませんね。
今回の件など「我が身を省みず他国をハッカー帝国呼ばわりするとは!」と怒るよりも、「ネタ回答はいいんですが、ハッカー=マトリックスって古くないですかね」とツッコむべきものなのだが、ちょっとしたニュアンスの違いで読者の感じ方は大きく異なってしまう。
なお余談だが、中国では公式タイトルが流入する前に海賊語版タイトルが普及してしまうケースもある。私が友人の家で見たマトリックスのタイトルは「殺人インターネット」であった。「なんというすごい映画があるのだ!」と大興奮した私は日本の友人たちに「殺人インターネット」の素晴らしさを力説したのだが、誰一人として理解してくれなかった。まあ「ハッカー帝国」でも通じなさはあまり変わらないかもしれないが。
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愛用している「黄皮肤」という漢方の軟膏があるのですが、最近は「地球人」という名前に変わったそうです。
黄皮肤時代のアオリ文句は「我们都是中国人,我们都是黄皮肤」という有名な歌の歌詞をもじったものでしたが、地球人になってからは「皮肤病的克星,地球人都知道」になりました。
何が元ネタなのでしょうか。