異世界の戦(後編)
この話にはグロテスクな表現が含まれます。
読むときには注意をしてください。
誤字・脱字修正しました。
俺は敵の包囲を突破するために、包囲陣の一角に向けて一気に間合いを詰めよるために脚に力を溜めた。だがそのとき、敵の方に予想外の動きがあった。
「? なんだ?」
先ほどまで油断なくこちらを見据えて構えていたはずの敵たちが、一斉に構えを解き棒立ちとなった。あまりに予想外の事態に虚を突かれ、包囲を突破するタイミングを見失ってしまった俺は、周囲の敵を油断することなく観察し始めた。
本来ならこの隙に包囲を突破する方が正しいのだろうが、予想外すぎるその動きに僅かに好奇心を刺激され動くことができなくなった。
『め、女神は……余の……め……めがみぃぃいいいい!!!!』
「なんだありゃ?」
敵が動かなくなると同時に、先ほどまで俺の進んでいた方向から一人の鬼の女が羽衣のようなものを纏ってやってきた。
その女の顔立ちは白亜にとても似ていた。
(あれが白雪なのか?)
白雪と思われる女は身長や体つきは白亜より大人びているが、確かに顔は白亜とよく似ていた。
ただ白雪の瞳には意志のようなものは感じられず、そこには狂ったような情念の炎が見て取れた。あの目は昔見たことがある、かなり逝ってしまったストーカーのそれと同じで、さらに先ほど白雪の口から出た声は明らかに男の声だった。
(どうなってんだ? 白雪は実は男? いやいやそれはないな)
おまけに先ほどから口を開けば「女神、女神」と同じ言葉を繰り返すだけだった。
ここに来る前に自我は失われていると聞いたが、この光景を見る限りその通りに思える。
(状況がよくわからないが、今のうちに親玉のステータスだけでも確認しておくかな)
《所有者特権=盗見》
Lv……――
HP……――(+50000)
MP……――(+300000)
STR……――(+40000)
DEF……――(+70000)
DEX……――(+20000)
AGI……――(+20000)
LUK……――(-20000)
スキル
狂化支配……自身の支配下の者を狂わせ支配する。支配強度は距離に依存。
自動防御……《衣》が攻撃に対して自動で防御を行う。
伸縮自在……自在に伸縮する。
自動硬化……衝撃を受けると自動で硬化する。
称号
狂った神具……本来の機能を失った神具。
「はあ!?」
俺はそのステータスを見て思わず声を上げてしまった。
桔梗の時も驚いたが今回は文字通り桁が違っていた。さすがは狂っても神具とでもいえばいいのか、このステータスを見る限りでは勝てる見込みが全くない。それともう一つわかったことは、俺は白雪のステータスを見たつもりだったがスキルや称号を見る限り、これは神具のステータスである確率の方が高い。つまり神具に乗っ取られると、元の体の持ち主の能力は使えなくなるようだ。
『めがみぃぃいいい!!! 余はぁぁああ!! 余はぁぁああああ!!! …………誰ぞ』
俺の叫び声に反応して、今まで意味不明なことを叫んでいた白雪改め《衣》が狂った目を俺に向けた。
『……誰ぞ? …………誰ぞ? 誰ぞぉぉぉおおお!!?』
眼球が気持ち悪いほどぐりぐりと眼孔の中で不規則に動き回る。
「うぇ……気色わりぃ」
気味の悪いことにそれほど激しく動いているにもかかわらず、その視線の先が俺を見据えていると確信できるところがさらに気持ち悪い。
『…………わかった……余の女神を盗むきか? ……………させぇぇえええええええええぬ!!!』
俺が何かを言う前に勝手に自己完結し、今までの不快ではあったが敵意のなかった視線から、まるで親の仇でも見るかのような激しい憎悪と敵意、そして殺意を孕んだ視線へと変わっていった。
「完全に逝っちまってるな」
俺は顔を顰めた。
元から狂っていると思ってはいたが、実際に狂った人など見たことがない俺は、ここまで話も通じないとは予想していなかった。
『めがみぃぃぃいいいは!!! 余のものだあああああああああ!!!!!』
「が!?」
油断していたつもりはない。相手が突っ込んで来たら絶対に迎撃できるように身構えてた。だがそれが仇となってしまった。
《衣》は隣にいた支配下にある自分の部下の頭を殴りつけた。そしてその頭はパァンと風船が割れるような音をあたりに響かせると同時に、西瓜が爆散するように弾け飛ぶとその頭蓋骨の破片が散弾のように俺に飛来してきた。
迎撃のためにその場で構えていた俺はその飛び散る脳漿や、頭蓋の破片をもろに浴びてしまい破片によりあちことに傷を負ってしまった。
『余の、余のものだぁぁああああ!!!』
ドシャ
頭を砕かれた敵はそのまま地面へと倒れこんだ。死んだためか体から狂化の影響が抜け、徐々に体が縮んでいった。そして体が縮みきった体を見た俺の中で、今まで感じたことがない何かがあふれ出してきた。
「……おい」
その声は自分でも驚くほど冷たく、低い声だった。
俺は声を《衣》に向けながらも、視線は頭がなくなりもはや顔も分からなくなった小さな体へと向けていた。
「まだガキじゃねえかよ……」
俺の視線の先にある体は敵の時の大きさが嘘のように小さくなり、その見た目は桜と変わらないものだったことに言いようのない怒りが湧いてきた。
「ああ。そうか。これは怒りか」
そのときになって自分の中にあった湧き上がる何かが、これまでの人生で感じたことがないほどがないほど大きな怒りであることを自覚した。
元の世界でも子供が殺されるなんてニュースはよく見かけた。親に殺されるなんてのも珍しくなくなってしまった世の中で、そんなニュースを見てもここまで感情が揺さぶられたことはない。だがこの世界では町で見かける人も、白亜や椿さんも子供をとても大切に思っているということがよくわかった。そんななか、この《衣》は訳の分からないことを叫びながら、あっさりと子供を殺して見せた。
「ああ、だから許せないのか」
腸が煮えくり返る。という表現を聞いたことはあるが、今の俺はまさにそれだ。
「死ねよ……ガラクタぁぁあああああああああああ!!!」
ステータスなんてもはや俺には関係ない。ただ目の前のガラクタを壊してしまうことしか、俺の頭の中にはなかった。
俺は雲切を手に、全力で《衣》に斬りかかった。このとき白亜の娘である白雪を助けるという考えは頭から消え、目の前の敵を斬るために持てる力すべてを雲切に込めるような勢いだった。
ギィン
《衣》との距離が近かったためか、先ほどまでのように操られている兵たちは動かず、俺の斬撃は白雪に迫っていった。だが俺の雲切は届くことなく、《衣》によって阻まれてしまった。そのとき俺の手に雲切を伝わり、凄まじい衝撃が走った。
「かってぇ!?」
その硬さはとても布を斬りつけたとは、思えないものだった。
『余のものだあああああああ!!!』
俺が驚愕しているのを隙とみてか、操られている白雪の体が俺に向かって拳を繰り出してきた。
その刹那、ステータスの差を思い出した俺は痺れる腕に無理やり力を籠め、雲切を防いで硬くなっている《衣》を壁代わりにして、自分の体を後方に押し飛ばした。
ゴゥ
目の前のギリギリまで迫った白雪の拳から凄まじい風圧が叩きつきられ、俺の体は自分の予想をはるかに超えて後方に吹き飛んで行った。
「っ!!」
あまりの速度の吹き飛ばされたため、受け身を取ることに失敗した。追撃に備えるため痛む背中を無視して起き上がり、雲切を構える。だが予想していた追撃がくる気配もなく、《衣》はその場から動こうとしなかった。
『…………おぉ、余の女神はいずこへ』
今度は先ほどまでと違い叫ぶことはなかったが、《衣》が何かを探すように俺を包囲していた敵たちを包み込んだ。
「……ああ、逃げるなら今のうちか」
冷静になってみると、先ほどの攻撃で包囲の外まで吹き飛ばされている今が逃げるチャンスなのだが、あれを放置するのはかなりマズイと俺の本能が告げる。さらに自分のなかの煮えたぎる感情が、目の前の敵から逃げることを拒否している。
『違う……ちがぁぁぁあああああううううう!!!』
「今度はなんだよ」
またも態度が一変した敵にいい加減嫌気がさしてきた。見ているだけでここまで不愉快になる相手というのは、生まれてこの方あったことがなかったが、一度会えば二度と会いたくない手合いだなと思った。
そんなことを考えていると、先ほどから周囲を包みこみドーム状になっていた《衣》が、突然激しく波打ち始めた。その動きはあっという間に全体に広がり、目の前にある《衣》のドームは巨大な生き物のように蠢いている。
そして次の瞬間、《衣》のドームの中から声が響いてきた。
『女神以外はいらぬ!!!』
その声が響くのと同時に、ドームの中からさまざまな音が響いた。
何かがブチブチと無理やり引きちぎられる音。
何かがバリバリと無理やり砕かれる音。
何かがブチュリと無理やり押しつぶされる音。
何かがバシャッと辺りに飛ぶ散る音。
「っ!」
その何かに数瞬遅れて気が付いた俺は、折角離れた距離を全力で詰めると《衣》のドームに向かって再び雲切を振り下ろした。
キィン
だが結果は変わることなく雲切は弾かれ、《衣》に傷をつけることはできなかった。
「っあああああ!!!」
それでも中からいまだに響いてくる、何かが壊れる音を止める一心で俺はがむしゃらに《衣》を斬りつける。
ブチブチ、バリバリ、ブチュリ、バシャッ
無情にもまるで機械のようにドームの中からは次々に音が聞こえてくる。そして音が聞こえなくなるまで、俺は雲切を振り続けた。
『余の女神はいずこ?』
音が鳴りやむと、ドームの中からは声が聞こえてきた。その声がしたのと同時に《衣》のドームは解除された。
そして先ほどまでいた敵は一人もいなくなり、ドームで包まれていた場所には真っ赤な池ができていた。池の中には白く硬そうな欠片や、赤黒く柔らかそうな固体が無数に浮いている。
そしてその光景を作り出し者は、この場に探している女神がいないと判断したのか、俺とは反対方向に進もうとしていた。
「おい、待てよ」
俺はそんな敵に声をかけたが、敵は俺のことなど眼中にないとでも言いたげで、その歩みを止めようとはしなかった。
「……女神は俺がもらったぞ」
とっさにそう口にすると、ピタリと敵の歩みが止まった。
『…………女神?』
「ああ! 俺がもらったぞ!」
もう一度声を大きく宣言した。
すると今まで眼中になかったという態度が、劇的に変わった。先ほどの勘違いのように俺に憎悪や敵意、そして殺意を向けてきた。
『女神。女神。女神。女神。女神。女神。女神。女神。女神。女神。女神。女神。女神。女神。女神。女神。女神。女神。女神。女神。女神。女神。女神。女神。女神。女神。女神。女神。女神。女神。女神。女神。女神。女神。女神。女神。女神。女神。女神。女神。女神。女神。女神。女神。女神。女神。女神。女神。女神。女神。女神。女神。女神。女神。女神。女神……余の女神いぃぃいいいいいい!!!』
敵は壊れたように女神と口にし始めると、伸縮自在の《衣》の端を地面に突き刺しスリングショットのように俺の方に飛んできた。
「らあ!!」
今度は先ほどとは違い、《衣》の動きからどういった攻撃方法で来るのか予想できたため、その軌道に合わせて左手を突き出した。
今までの攻防で硬化している状態の《衣》は俺の力では破ることができないのはわかった。だから俺は《衣》を破壊するのではなく、白雪の体から引っ剥がすことを選択した。
白雪の体を斬ることも考えたが、この《衣》が白雪の体にまとわりついている間はどうしても《衣》に邪魔されてしまうためだ。
パシィ
俺の狙い通りに、伸ばした左手は《衣》を捕まえることに成功した。予想通り雲切で切り付けたときとは違い、自動硬化は発動せず俺の手の中には布の感触があるだけだった。
そして俺は掴んだ《衣》を白雪から引きはがすために、全力で振り回した。
「おらあ!!」
ブォン
人一人をまわしているとは思えない速度で、白雪の体は弧を描いた。
「んな!?」
そして白雪の体からもう少しで《衣》が外れるというところで、俺の目にはあるものが映った。それは白雪の髪の一部が《衣》の一部に融合していたのだ。
俺の予想は裏切られ、《衣》は白雪の体から剥がれることはなかった。
トン
そして空中で体勢を立て直した白雪の体は、繋がっている《衣》を使い軽やかに地に降り立つと、今度は思いっきり《衣》を引っ張った。
まずいと危険を感じた俺は、慌てて《衣》から手を放そうとしたが、《衣》は俺の左腕に蛇のように絡み付きがっちりと固定していた。
先ほどのように白雪自身の体が空中にある時なら、体重そのものは軽そうな白雪を振り回すことはできるが、地に足がついてしまっている状態では力に差がありすぎるため俺には抵抗することもできなかった。
「がはっ!」
俺は勢いよく地面に叩きつけられた。
背中から叩きつけられた俺は肺の中の空気が押し出され、体がうまくいうことを聴かなくなった。
そんな俺を再び振り回そうと白雪が強く《衣》を握る。
「くっはっ」
何とか逃れようと動かない体に力を入れていると、俺の視界に尻尾が映った。
「ごめんね~」
この緊張した場面でも変わらずのんびりとした声は、謝罪を入れると俺の左腕に触れると一気に捻じった。
「いっ!!?」
あまりの痛みに思わず声が出そうになった。だが痛みの代償に、俺の腕は《衣》の縛りから抜けることができた。
「き、桔梗か? 今のは?」
「今のは~関節を~全部外したの~。痛かった~?」
にこにこと笑いながらそんなことを言ってきた。
「いや、助かった」
「……無茶しすぎです」
いつの間にか隣には楓もやってきていた。そして外れた俺の左腕に触れると、今度は一気にはめ込んだ。
「――――――!!!」
外したとき以上の激痛に、思わず声にならない悲鳴を上げてしまった。
どうやら先ほどの楓と部下を先に帰して、一人で残ったことを怒っているようだ。
「主殿は神具をなめすぎじゃ……しんでしまったらどうするのじゃ」
そして最後に白亜もやってきて俺へと苦情を述べてきた。
「……すまん。まさかここまでとは思わなかった……ほかの兵たちは?」
白亜たちが来たことで、他の兵たちも来たのかと周囲を見回した。正直なところ一般の兵では、《衣》相手には全くの無力だ。来ているのなら返した方がいいと考えていた。
「いないわ~。博牟が~周りの兵を~み~んな倒したから~必要なくなったの~」
桔梗がそう説明した。どうやらもともと神具と戦うのはこのメンバーの予定だったようだ。
「そうか」
これ以上無駄死にが出ないことにどこかほっとした。だが兵に被害が出ないとしても、このメンバーでも神具の相手は不可能に近い。どうすればいいのかと悩んでいると、桔梗の口から朗報が聞かされた。
「それと~さっきの攻防で~打開策が~思いついたの~」
その言葉に俺たちは、《衣》を警戒しながら耳を傾けた。
「それは本当かのう?」
白亜がそう尋ねると、桔梗は自信ありげにうなずいた。
「さっき~博牟が~白雪ちゃんを投げたとき~《衣》と~髪が~繋がってたでしょ~?」
「ああ」
そのせいで俺の目論見だった《衣》を剥がすことができなかったのだ。
「だから~白雪ちゃんの~髪をバッサリ切っちゃえば~いいんじゃないかしら~」
そう言って桔梗は髪を切る真似をした。その考えに俺たちは顔を見合わせた。たしかに繋がっているのなら切れば取れるのは当然だが、問題は切れるかどうかだ。
「さっきから《衣》を斬ろうとしてたけど、傷一つつかないぞ」
俺がそう口にすると、桔梗はそのことを予想していたとばかりに笑顔で答えた。
「当り前よ~《衣》は~仮にも神具よ~。でも~白雪ちゃんの~体は~神具じゃないわ~。もし白雪ちゃんも~神具と同等なら~防御なんて~必要ないわ~」
そう言われて見ればその通りだと思った。
「なら……くっついてる髪をバッサリやれば」
「神具は離れるわ~。それに~神具がいくら強くても~道具は~使い手がいないと~意味がないわ~」
それを聞いた俺たちの方針は決まった。
白亜と桔梗は妖術で牽制しながら視界を塞ぎ、楓は持ってきた苦無や手裏剣をつかい攪乱しながらの牽制、俺は攻撃力の高さをいかして白雪の髪を切る役目となった。
『……女神…………余の女神いぃぃいいいい!!!! お前たちは違うぅううううう!!!』
作戦を立てている間、全く動かないのが不気味だったが、どうやら新しく表れた白亜たちが、自分の女神なのかを品定めしていただけだったようだ。作戦が整い《衣》の方を向いた瞬間、違うことがわかるとまた叫びだした。
そのあまりの異常さに桔梗も白亜も楓も、若干引き気味になっていた。
「それじゃ~」
「うむ」
「……わかりました」
「ああ」
俺たちは散開した。
まずは桔梗が周囲に目くらましを兼ねて、大量の狐火を起こす。
「それ~狐火~」
言葉は相変わらず間延びしているが、威力はかなりあるようで弾かれて地面に落ちた狐火は爆発を起こし、地面に大穴を開けていく。
「鬼哭雷!」
白亜の方は鬼の角の部分に、バチバチと紫電が迸り周囲に雷の柱が立つ。そしてその雷の柱は轟音と共に天高く登ると、槍のように《衣》目がけて落ちてきた。こちらは貫通力が高いようで、地面に大穴を開けることはないが深々と突き刺さっていく。
「ふっ……はっ!」
楓は前の二人のように派手な攻撃ではないが、桔梗や白亜の攻撃から白雪を守るために動いた《衣》の隙間を狙い、そこにピンポイントで苦無や手裏剣を移動しながら投げていく。
俺はその様子を静かに観察し、隙をうかがっていく。そして新たにいくつかわかったことがある。どうやらステータスの数値はあくまで《衣》そのもののようで、白雪自身を厳重に守っているところを見ると桔梗の予想は正しいようだ。そしてよく見るとたまに白雪が攻撃しようとすると、攻撃を繰り出す腕に《衣》が巻き付いている。そうすることで、攻撃には《衣》をパワードスーツのように使い高い威力を出しているようだ。
しばらく同じような攻防を繰り返していくが、無限に伸びる《衣》の防御にはなかなか隙が生まれない。
「う~んだめね~。なら~これは~? 天鎚~」
進展のない状況に、桔梗が一手打つことにした。手のひらを合わせ、パンと鳴らすと乾いた音があたりに響くと、空から何かが降ってくるような音が聞こえてきた。
キィィィイン
ジェット機が近くを通りすぎる時のような風切り音が響いてくるが、そこには何も存在していなかった。だがそれは確かに落ちてきていた。
突然《衣》の周囲の地面が轟音とともに陥没し、クレーターを作り《衣》を地面に押さえつけた。まるで上から巨人のような圧倒的な重量に押さえつけられているようだった。おそらくはダウンバーストのように上から空気を叩きつけるような術なのだろう。
「あ、あら~これでも動けるのね~」
そんな状態であるにも関わらず、多少動きは鈍くなってはいるが、白雪も《衣》をすぐに動き始めた。
「桔梗殿そのままじゃ! 縛雷陣!」
白亜が懐から大量の符をあたりにばら撒くと、符は白雪を中心に囲むように陣を敷いた。そして白亜の声に命じられると、一枚一枚が放電の始め蜘蛛の巣のような形を地面に作っていった。
『ぉぉおおお!!? 余は……余はぁああああ!!!!』
先ほどまで白亜の放つ雷を防いでいた《衣》は地面の雷に吸い付けられるかのように引っ張られ、《衣》はそれに抵抗している。だが上から桔梗の術で押えられ、下から白亜の術で引っ張られている状況ではかなり動きが制限されてきている。
「ん?」
白亜が術を発動させてから、周囲に散らばっていた苦無や手裏剣が吸い寄せられていく。どうやら白亜の術は相手を帯電させて、符で地面を磁石のようにして動きを封じているようだ。
「そうだ! 楓!」
「……なんでしょうか?」
俺は楓を呼ぶと近くに来た楓に作戦を耳打ちした。
作戦を聞いた楓は難しそうな顔をしたが、俺が引き下がる気がないとわかると渋々了承した。
「頼んだ」
俺はそれだけ言って白雪に向かって駆け出した。
「あら~!」
「主殿!?」
俺の行動に二人が驚きの声を上げた。だが俺はそんな二人に現状を維持するように叫ぶと、白雪の背後へと回り込んだ。そして位置を確認した俺は桔梗の術で作られたクレーターに飛び込んだ。
地面が白亜の術で磁石と化しているため、先ほど桔梗に作戦を告げた時にもらった苦無を腕に巻きつけた俺は、一気に加速し白雪に迫る。その俺を止めようと鈍った動きの《衣》が迫る。だがその《衣》目がけてピンポイントで鉄製の鎖が落ちてきては、布に絡み付き動き阻害する。
それは上で待機していた楓が、着ていた鎖帷子を崩して投げたものだ。
「おっらぁあ!!!」
俺は受け身のことは考えず、とにかく白雪と《衣》をつないでいる一点に一直線に突撃した。
初めて戦闘らしい戦闘を書いた気がします。

+注意+
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