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Listening:<社説>原子力規制委 中立公正さ損なう人事

2014年06月11日

 衆院本会議で、田中知・東京大教授と石渡明・東北大教授を原子力規制委員会委員にあてる国会同意人事案が与党の賛成多数で可決された。参院でも承認される見通しだ。

 だが、田中氏は原子力事業者との関係が指摘されており、規制委設置法がうたう「中立公正」や「独立」を尊重した人事とは言い難い。菅義偉官房長官は「ベストの人事」と強調するが、原子力規制行政への国民の信頼が得られるか大いに疑問で、野党全7党が反対したのは当然だ。

 田中、石渡氏は9月に任期満了を迎える地震学者の島崎邦彦・委員長代理と外交官出身の大島賢三委員の後任となる。任期は5年だ。

 田中氏は原子力社会工学が専門で元日本原子力学会長。福島第1原発事故後も、経済産業省の有識者会議で「一定規模で原子力を維持することが適切」と述べるなど原発推進を掲げていた。2010年から約2年間、業界団体の日本原子力産業協会理事を務めた。11年度に東電の関連団体から50万円以上の報酬を得ており、原発関連事業者2社から計110万円の研究費も受けていた。

 規制委設置法は、原子力事業者や関係団体の役員、従業員は委員になれないと定めている。民主党政権は規制委発足に際し、法の規定に加え、直近3年間に原子力事業者や関係団体の役員、従業員だった場合や同一の原子力事業者から個人として一定額以上の報酬を受け取っていた場合は委員になれないとするガイドラインを決めた。田中氏はこのガイドラインに抵触している疑いがある。

 石原伸晃環境相は衆院環境委員会で、今回の人事を巡り「民主党時代のガイドラインは考慮していない。自民党の政策としては作らない」と明言した。しかし、民主党政権のガイドラインは、規制委の中立公正や透明性の確保を徹底するためで、国会審議も踏まえて作られた。なぜ前政権のルールを破棄するのか。規制委の透明性をどう確保するのか。安倍政権には説明責任がある。

 島崎氏は、日本原子力発電敦賀2号機(福井県)の直下を活断層が通ると認定するなど事業者に厳しい姿勢で安全審査に臨んできた。このため、与党内や電力会社、経済界などには交代を望む声があった。

 東北電力は敷地内に活断層があると規制委の有識者調査団から指摘されている東通原発1号機(青森県)の再稼働に向け、安全審査を規制委に申請した。3・11から3年あまりで、申請は12原発19基になった。

 政府は規制委の審査に合格した原発は再稼働を進める方針だ。今回の不透明な人事は、再稼働に前のめりな安倍政権の恣意(しい)的人選とのそしりを免れないだろう。

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