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20年近くサッカー見ているけど、初めての体験だった。

本当に、本当に、不思議な瞬間だった。

試合終了のホイッスルが鳴り、スタジアムは時間が止まったような静寂に包まれた。
どんな状況でも諦めず声援を送り続けるサポーターズグループ琉球グラナスさえも声を失い、
肩を落としながらピッチ上で整列しようとしている選手達を見つめていた。

私も同じだった。

声が出ないというより、かける言葉が見つからない。
写真を撮るのを止め、必死に頭を整理しようとしたその時、

FC琉球!FC琉球!

メインスタンドからFC琉球コールが聞こえてきた。子供達の声に聞こえる。
ハッと我に返ってメインスタンドに視線を向けると、
メインスタンドからの琉球コールに呼応するように、
バックスタンドの琉球グラナスの反対側のほうから
子供達のFC琉球コールが聞こえてきて、
それがバックスタンド全体に伝染し、大人達も琉球コールを始めた。

バックスタンドがFC琉球コールに飲み込まれ、
我に返った琉球グラナスが、周囲の声に飲み込まれるようにFC琉球コールを始めた。

整列し挨拶する選手達に、
ヤジもブーイングもなく、ただただFC琉球コールを繰り返すバックスタンド。

私も、バックスタンドの雰囲気に飲み込まれる様に琉球コールに加わった。
第3者視点を常に持ってなければとか、主観・他観のバランスとか、
この時ばかりはそんな理性みたいな物は吹き飛び、
説明できない衝動にかられて、涙が溢れそうになるのを必死に堪えながら夢中で声を出していた。

何かの大会に優勝した訳じゃないし、何かを達成した訳でもない。
これは、6-0の大敗で起こったバックスタンドでの出来事だ。



以下、続きます。

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この日は全島サッカー1万人祭りという集客イベントだった。
結果は4,362人と、試合内容も含めて大惨敗だったけど、
チームが下位に低迷している事や、
大箱である沖縄県総合運動公園陸上競技場が使えない事、
伝え聞く県協会からの協力が得られない状況で達成した、
4,362人という数字は胸を張って良い事なんじゃないかと思う。

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屋台も多く出店しスタジアムグルメも大いに楽しめた。
車で来場した私にとっては「沖縄県初上陸」というマッドクロックのような、
ノンアルコール飲料の販売はとても嬉しかったし、
売り切れで食べられなかったのは残念だったけど、
美崎牛バーガーのようなご当地メニューの登場は嬉しかった。
後は「本場」の沖縄そばやタコライスが出店してくれれば文句無しだ。

今回のイベントだけを見れば、
年1回の集客イベントでCM等々プロモーションにかなり力を入れていたし、
球団として街角やスーパー、役所や、学校へのビラ配り等々、
過去2年の1万人祭りより、丁寧で地道な営業をやっていたように思う。

成績が低迷する中でも5000人近い人を集められるという事実を示した訳だし、
仮にFC琉球が上のカテゴリーに行きたいと言うなら、年間通してリーグ戦で、
この1万人祭りと同等のイベントを継続できる体制を作って行かなければいけない。
 
J2への昇格条件の一つに、年間平均観客動員3,000人というのがあるけど、
JFL時代の2011年、前期1位でJFLシード権を獲った時でさえまったく動員が振るわなかった
過去があるのだから、強ければ無条件に客が集まるなんていう幻想はいい加減止めるべきだ。

目の前にいる、今日来てくれた観客としっかり向き合い、
もう一度来たいと思わせ、また来た時に楽しい場所である事。
これを継続して行く事が何よりも大事な事だと私は思う。

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試合についてまず最初に言いたいのは、
J22が、組織や戦術が変わって、
劇的に「チームとして良くなっていた訳じゃない」事。

前半はJ22が1-0でリードして終了したとはいえ、
FC琉球の方がチャンスは多かったと思うし、
内容としてはイーブンか6-4で琉球だったと思う。

ただ、明らかに違ったのは、個の質。

今季の初戦で見たJ22は、個で輝いてたのは3人くらいで、
後はニッキが「でかい」くらいの印象しかなかった。

今回は違う。
大げさでは無く、全員が良い選手で、さらに前線はスペシャルクラス。

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FC琉球が、組織的にサイドを崩してクロスを上げたとしても、
体が強く高さもある西野、植田にはね返される。
FC琉球のDFが縦を切って、連動しながら挟みこもうとしても、
身体能力、テクニックの違いで野津田、石毛にちぎられる。
喜田、前田の両ボランチ、佐藤、伊東の両SBは、
連動が稚拙な組織を補うように豊富な運動量で動き回る。

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FC琉球が攻めてはいるが、
攻守に渡って局面の1対1でまったく勝負にならない前半。

物が違うというのが、前半の感想。

後半に入ると、FC琉球もリスクを背負って攻撃に出る。

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友利に代えて展開力のある田辺、
小寺に代えて琉球のゴンこと中山を投入するが、
守備に長けた小寺がいなくなり、攻撃重視で重心を前に置いた事で、
スペシャルクラスの前線を最終ラインだけで受け止めざるを得ない状況になる。

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それでもギリギリのところで堪え続けるが、3失点を取り返そうと、
さらに攻撃に長けた屋宮を投入すると、
最終ラインがスペシャルクラスを受け止め切れなくなり崩壊。

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河端のファールでPKを与えたところで勝負あり。

私の集中力も崩壊。

一応試合は見ながらも、戦術云々とかを考えるのは止めてしまったし、
スコアボードが小さくて見え辛いのでやってる得点のカウントも、このPKの所で辞めてしまった。

その後は、後半ATに松村、矢島にゴールされ試合終了。

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FC琉球の失点は先制点とPKを除けばカウンターだ。

前がかりになっている琉球がボールを獲られると、
後半野津田に変わって矢島が攻撃の起点になり展開する。
人数が足らなくても、2、3人で何とかしてしまう。

組織で崩されたなんてシーンは無かったので、
FC琉球からすれば、何回攻めてもはね返されてカウンターを喰らい、
淡々と、1点、1点、積み重ねられた結果が6得点という結果だった。

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そして、冒頭で書いた、試合後の風景。
 
これだけやられて、野次やブーイングはなぜ起きなかったのか。

バックスタンドはピッチと近い。
指示の声、息使い、体が当たる音、ボールを蹴る音が良く聞こえる。
選手は、皆、最後まで声を出していたし、がむしゃらに走ってた。
あきらめずに何とかしようとしていてたし、必死にもがいている。

必死に抗っている。

そんな選手達の姿に「何か」を感じ、スタジアムから起こったFC琉球コール。


昨日、お会いした琉球グラナスのリーダー池間さんと、この時の話になった。

試合終了のホイッスルが鳴った後、リーダーである池間さんは、
バックスタンドに向かってくる選手をどう迎えるか必死に考えていたそうだ。

この結果を受けて、厳しい言葉をかけるべきか、それでも下を向くなと励ますべきか。

そんな時に起きたFC琉球コールは、
メインスタンドから風に乗ってバックスタンドに届き、伝染し、琉球グラナスを飲み込んだ。
選手も、自分たちも含めて励まされているように感じて、
泣いてしまいそうだから、最後まで後ろを振り向けなかったそうだ。

また、リーダーの近くにいたサブリーダーは、
声を出したら泣いてしまいそうだから、手拍子するのが精一杯だったとのこと。

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この結果に厳しい声がある事も、何甘い事言ってんだという意見があるのも承知している。

でも、このバックスタンドにいた人々が感じた「何か」に、
町に、我が町に、クラブチームが存在する意義や意味があるんじゃないだろうか。

この「何か」を愛と表現するのかは分からないが、それに近い物がある気がする。
 
少なくとも私にとっては、スタジアムに行った経験の中で3本指に入る感動の瞬間だった。
それも試合に大敗したのに感じたこの感動は、また一つ私の固定概念を壊してくれた。


人の心をポジティブに動かす敗戦もある。


これだから、これがあるから、サッカー観戦はやめられない。


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