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18時台の特集/バックナンバー
目次 › 2014年6月10日放送の18時台の特集/バックナンバー
“多重下請け”はびこる原発収束作業員の実態
福島第一原発事故の収束作業員を取りまく過酷な労働環境が明らかになり始めています。
低い賃金に不十分な安全管理。
その原因は、ひとつの仕事にいくつもの下請け業者が連なるいわゆる「多重下請」の常態化にありました。


福島第一原発で7カ月働いた東電ジョージさん(仮名)。
一次下請けの会社に所属していました。

【東電ジョージさん】
「メガネをかけた人がマスクを当てたとき、隙間がある。ここから内部被ばくしちゃう。内部被ばくを防ぐためにシールピースというのがあって、実は、東京電力の社員にしか配られない。何でこれをメガネをかけている末端の作業員に配らないのか。怒りがあります」

 

シールピースを使うと、マスクとの隙間が埋まって内部被ばくを防げます。
東京電力は「現場作業員に配布するよう元請に伝えている」と話しますが、ジョージさんが頼んでも元請は配ってくれませんでした。

【東電ジョージさん】
「労働者の身を守ることについて発注者だとか元請だとかそういうこと関係なしに、国が責任をもって労働者ひとりひとりを守るシステムを作ってくれないと…」

原発の収束作業員や除染作業員の大規模な宿舎もできています。

【東電ジョージさん】
「除染作業も収束作業もそうですけど、個室をもらえる作業員っていないですよね。ぼくも2人部屋に6人で居住してましたけど、現場と飯場の往復でしか生活できない状況」

求人票を見ると、収束作業でも日当1万円を割るところから始まります。
被ばくのリスクが待遇に反映されていません。

東京電力福島第一原子力発電所。
メルトダウンした炉を冷やし続けるとともに、汚染水の対策に追われています。
放射線に加え、足場の悪いところも多く、常に労災の危険にさらされています。

 

朝5時。
Jビレッジに続々と作業員が集まります。
ここで専用バスに乗り換えて、第一原発に向かいます。

 

【林哲哉さん】「多分、いま来てる人はサーベイとか早出だと思うんですけど」

長野県に住む林哲哉さん。
とび職の経験がある林さんは、収束作業の人手が足りないと聞き、6次下請けが出した求人情報を見ました。

 

日給1万3000円で寮費・食費無料、1年契約で被曝の少ない放射線測定の仕事と聞き、いわき市に赴きます。
ところが出迎えたのは5次下請け。
雇用契約は5次下請けと行うと告げられました。

【林哲哉さん】
「日当1万3000円だけど、そこから1日1660円の宿代引くからと。約月5万だったですけど、引くよと。食事は自腹でと。いや、話が違うじゃないですかと言ったんですけど、(5次は6次に)ちゃんと言ってあるよ、言ってあったんだけどな、みたいな責任のなすりつけ合い」

3次下請けからは、ウソの職歴が書かれた経歴書を配られました。

【林哲哉さん】
「これは何だろう。身に覚えのない会社と工事経歴が載ってて。車の中でみんな見せ合ったりすると。他の人にもそういうのがあって、『経験ある、素人ばっかりじゃないですよ』というアピールがしたかったんじゃないのかなって」

被ばくの少ない仕事と聞いていた林さんは、1次下請けの説明に驚きます。

【林哲哉さん】
「『みなさん承知してると思いますけど、今回線量が高いところの作業です』と。一瞬みんな凍りつくっていうか、えって感じで。『みなさんの健康のために酸素ボンベを用意してます。そこから直接空気が来るので被曝はしないですよ。大丈夫ですよ。不安があったら言ってくださいね』っていうんだけど、その時点で間に3社いるのわかってますから、言いにくいですよね。誰も言えなかったし」

元請からは最大9msv(ミリシーベルト)のアラームを持って入ると聞かされました。
年間の線量限度は20msv。
9msvも浴びたら、3日で仕事ができなくなると雇用主(5次)に詰め寄ると…

【5次下請の雇用主】
「(被ばく線量は)累積じゃないです。今日1msvとしますよね、8日間何もしなかったらゼロですから、最初の1msvは。働けなくなるとかはない。間違いない」

 

被ばく量がゼロになる…そんなウソをつく業者が人を集めていました。

【林哲哉さん】
「多重下請け、責任をなすりつけるのに都合がいい状態になってる。だから、東電も見て見ぬふりしてるし、元請も下に任してますよ。雇用関係ないから、関係ない、関係ない、全部下の責任にして、下は所在不明のような会社が人を集めてるっていうのは、彼らにとって都合がいいんじゃないかなって」

東京電力が現場作業員に行ったアンケートでも、1割以上が「賃金や作業内容が最初の説明と違った」と答えています。

【東京電力・廣瀬社長】
「我々から元請にこういうことでと作業全体のお値段決めるわけで、その中で労賃がいくら、何はどうしなさい、というところまで細かくできないのは、民民の契約ではある程度限度がある」

発注者としてできることには限度があると、東京電力は強調します。

3号機が爆発した8日後、緊急作業員として招集された男性がいます。

【2次下請に所属していた男性】
「使命感よりも仕事しないと、私ら日雇い人夫のようなものなので、仕事1日休めば給料ない。いやらしい話、少しはお金もらえるんだろうと」

元請の社員をリーダーに男性らは6人で3号機のタービン建屋に入りました。
線量計のアラームが鳴り響き、別の作業をしていた東電のチームはすぐに出て行きました。

【2次下請に所属していた男性】
「『退避』と(東電チームが)大きい声出しながら足早に3号タービンから出て行くのを見ていますので、何で私らのほうにも言わないのかと。私らが帰りましょうって言っても、元請がやりましょうというものを勝手に帰るわけにいかないんで」

結局、男性は20msvも被曝しました。(20.49msv 2011年3月22日〜31日)
この日の日当は1万4000円。半年後に危険手当1万5000円が追加されました。
そして1年後、2次下請けの社長から仕事がもらえなくなりました。

 

【2次下請に所属していた男性】
「それだけ被曝して緊急作業行ってくれって言われてもクビになるんですし、誰も行かない時にわかりましたと二つ返事で行ってるわけなんで、結局こういうようなこと明るみにならないと東電もわからないでしょうし、作業員がどういうふうに思っているか」

収束作業の命運を握る作業員たちが、重い口を開き始めています。
2014年6月10日放送
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