記事

ウナギを食べ続けたいなら、ワシントン条約を歓迎すべきである

ニホンウナギがIUCNの絶滅危惧種に指定されて、ワシントン条約で規制される可能性が高まってきた。日本のメディアは、「ウナギの値段が高くなる」と危機感を煽っているのだが、本当にそうだろうか。そもそもウナギが高くなったのは、十分な規制が無いまま漁獲が拡大し、日本人が食べ尽くしてしまったからである。つまり、無規制の結果なのだ。無規制の状態が今後も続けば、漁獲は更に減少し、値段は高くなるだろう。もし、ウナギ資源・食文化の存続には、何らかの規制が必要なのは明白である。

ワシントン条約でウナギが食べられなくなるのか?

ワシントン条約には、付属書I、II、IIIがある。
付属書Iは本当に危機的な状況にある種(ジャイアントパンダやゴリラなど)を守るための枠組みで、学術目的以外の輸出入は原則禁止。ということで、ここにカテゴライズされると、輸入ウナギは食べられなくなるだろう。しかし、ニホンウナギがいきなり付属書Iに掲載されるとは考えづらい。ニホンウナギが掲載されるとしたら付属書IIだろう。ヨーロッパウナギも付属書IIだ。ワシントン条約の付属書IIに掲載されると、輸出には輸出国の許可書が必要になる。逆に言うと、輸出国政府の許可書があれば、自由に貿易できるのだ。

(参考)貿易手続きに対する詳しい情報
http://www.jetro.go.jp/world/japan/qa/import_11/04A-010911

(参考)付属書に掲載されている動物の一覧表はこちら
http://www.trafficj.org/aboutcites/appendix_animals.pdf

付属書IIに掲載されても、輸出国政府が、正当に捕獲されたと認定して、輸出許可書を発行すれば輸出できる。フランスはシラスウナギの捕獲を行っているし、今でも輸出している。それらが中国を経由して、日本に大量に入ってきている。ワシントン条約で規制されると、ヨーロッパウナギが食べられなくなると煽ったメディアの報道は不正確だったのだ。

(参考)中国経由で日本が輸入するヨーロッパウナギ
http://togetter.com/li/536088

付属書IIの効果は、政府が許可しない密漁品の貿易を抑制することである。河口に集まるシラスウナギは、素人でも捕獲ができる。その上、単価が高いので、ブラックマーケットが形成されやすい。付属書IIに掲載されたら、違法に漁獲されたシラスウナギは出荷しづらくなる。つまり、各国政府が連携をして、密漁を予防しやすくなるのである。ワシントン条約付属書IIに掲載されれば、日本に入ってくる違法漁獲ウナギは大幅に減るだろう。それによって、一時的に価格は上がるかもしれない。違法操業が減ることで、ウナギ資源の保全が大きく前進することを考えれば、長い目で見ればそっちの方が良いに決まっている。「値段が高くなるからワシントン条約付属書IIに反対」という主張は、「違法漁獲されたウナギを安く食べられればそれで良い」といっているようなものである。

ワシントン条約付属書IIに効果はあるか

付属書IIの実効性は、漁獲国の政府が十分な規制をするかどうかにかかっている。輸出国政府がバンバン輸出許可書を発行した場合、ワシントン条約付属書IIは意味が無くなる。中国・台湾が、単独で実効性のある厳しい規制を導入するとは思えないので、現状では付属書IIの影響は限定的だろう。ワシントン条約付属書IIが意味を持つには、日中台で連携してウナギ資源を管理するための枠組みが必要である。今後、国際的な資源管理の枠組みをつくらなければならないのだが、仮に枠組みが出来たとしても、漁獲規制に強制力が伴わなければ、単なる努力目標で終わるだろう。現状では、強制力をもった貿易規制の枠組みは、ワシントン条約ぐらいしかないので、これを活用しない手は無い。

ワシントン条約付属書IIへの掲載がきっかけとなり、日中台で資源管理の枠組み作りが進めば良いと思う。そして、ワシントン条約を利用して、違法漁獲を押さえ込み、持続的な漁業を実現していくのが、ウナギ資源・食文化を未来に残すほぼ唯一の希望である。逆に、今回、ワシントン条約に掲載されずに、各国が問題の先送りを選択したばあい、ウナギ資源は取り返しの付かない事態になりかねない。

ワシントン条約で規制の網がかけられるかどうかは、ウナギ資源の未来に重大な意味をもつ。日本のマスメディアは、ちゃんと取材をして、ワシントン条約の意味を理解した上で、まともな記事を書いて欲しいと切に願う。

あわせて読みたい

「うなぎ」の記事一覧へ

トピックス

記事ランキング

  1. 1

    加藤茶の異変に驚き 芸人引退もありでは

    いいんちょ

  2. 2

    もがいても浮上できないマクドナルドの苦悩

    大西宏

  3. 3

    STAP騒動以前からある"その場しのぎの嘘"

    小野 昌弘

  4. 4

    仕事と家庭の両立 目指すのやめたらどう?

    Chikirin

  5. 5

    民度の高すぎる日本

    池田信夫

  6. 6

    なぜ尖閣にこだわるのかー中華思想の研究

    文藝春秋SPECIAL

  7. 7

    うなぎの価格高騰ばかり報じる日本メディア

    勝川 俊雄

  8. 8

    突然の"五輪会場計画見直し"表明に疑問

    おときた駿(東京都議会議員/北区選出)

  9. 9

    韓国はなぜ民度が低いのか

    池田信夫

  10. 10

    1人当たりGDP、本当に韓国に抜かれるのか

    小笠原誠治

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

意見を書き込むには FacebookID、TwitterID、mixiID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDまたはYahoo!IDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。