「ありがとうやろ!」
「あなた、それでも人間ですか!」
怒り心頭の高被告に、調理師は鬼のような形相で近づいた。高被告は殴られることを恐れ、持っていた包丁で調理師を威嚇。それでも調理師は歩みを止めず、包丁は腹に突き刺さった。
公判で検察側は、高被告の仕事が「鍋の盛りつけ」だったと指摘。灰汁取りは調理師が任される仕事だったとし、高被告に「被害者がアルバイトに鍋を触られるのを嫌うと分かっていたのなら、なぜ灰汁を取ったのか」と問いただした。
これに対し高被告は、以前にも同じような状況があり、鍋を無視していたら怒られたと主張。「灰汁取りは自分の仕事ではないけれど、緊急時だからした」と反論した。そして、事件を起こしたことを「申し訳ない」と反省しつつ、こんな本音ものぞかせた。
「助けたつもりなのに邪魔したと思われた。人間なら『ありがとう』と言うのが普通なのに…」
■日本語流暢な苦学生
実は2人の間には以前から確執があった。
ある日、高被告に調理師が残業するよう命じた。高被告は腰を痛めていたこともあり、「定時に帰らせてほしい」と訴えたが、調理師は業務優先を理由に我慢するよう言い、口論になったという。
調理師は“職人かたぎ”の厳しい人物だった。事件後もすぐ病院に行かず、包丁を刺された傷口に絆創膏を貼り、しばらく仕事を続けたほどだった。
口癖は「早くせえ」。高被告ら中国人アルバイトにも、調理技術や盛りつけ方を細かく指導した。高被告は公判で「(調理師は)自分も仕事が遅いくせに、私たちばかりせかすのが納得できなかった」と漏らした。