「なに灰汁(あく)取りしてんねん!」。そう叱責された中国人アルバイトの男は、豆腐を切る作業を突然止め、先輩調理師に包丁を突き立てた。大阪市中央区の「かに道楽道頓堀中店」で、調理師の男性を刺して重傷を負わせたとして傷害罪に問われた男の公判が5月、大阪地裁で開かれた。
事件の発端は男がカニをゆでていた鍋の沸騰に気づき、灰汁を取ったこと。かに道楽ではアルバイトが鍋を触るのはご法度で、調理師は規則に従ったまでだが、男の目にはその姿勢が理不尽に映ったらしい。トラブルの一因は日中両国間の仕事観の違いにある。日本で働く外国人が増えている今、同じような事態はいつ起きても不思議ではない。
■仕事は「鍋の盛りつけ」
「仕事を手伝おうとしたのに、気持ちを分かってもらえなかった」
中国人アルバイトの高爽(ガオ・ショアン)被告(24)は大阪地裁で開かれた初公判で、こう犯行動機を語った。
検察側の冒頭陳述によると、高被告は3月29日午後2時ごろ、かに道楽道頓堀中店で、調理に使う包丁を調理師(27)の腹に刺したとされる。
包丁は刃渡り18・6センチ。料理店らしく2~3日置きに手入れされていたため、傷の深さは8センチに及んだ。調理師は膵臓(すいぞう)を損傷し、全治1カ月の重傷を負った。
事件は地下1階の調理場で起きた。豆腐を切っていた高被告は、調理師が目を離した鍋から蒸気が噴き出しているのに気づき、火を弱めて灰汁を取った。
ところが、それに気づいた調理師は「鍋を触るなと言うたやろ!」。褒められると思った高被告は、予想外の反応に怒りを爆発させた。