(2014年6月10日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
米国のアトランタ市は以前、ここは「忙しくて憎む暇もない」都市だというキャッチフレーズを創り出した。アジアの国々は過去30年間、このスローガンを非公式に採用して大陸全土に広めていった。1970年代の終わりからアジアの大きな国々は戦いを忘れ、豊かになるという重要な事業に没頭してきた。その成果は実に見事なものだった。
ところがここへ来て、東アジアのいくつかの大国は新しい危険な優先課題を追求し、怒れるナショナリズムや領土を巡る対立にエネルギーを注ぐという不穏な兆しが見受けられる。
この地域での緊張の高まりは非常に明白になっており、今では有力な政治家も警鐘を鳴らしている。筆者が数日前に参加した「平和と繁栄のための済州フォーラム」では、韓国のユン・ビョンセ(尹炳世)外相が、アジアでの緊張の高まりは「パンドラの箱が開けられつつあるように見える」ことを意味していると警告していた。
アジアの緊張の高まりを示す不穏なリスト
尹外相は自説を主張するために、ここ1カ月間に起きた不穏な出来事を列挙してみせた。
これによれば、中国の戦闘機と日本の偵察機が空中で衝突しそうになるという「近年なかった事態」が生じた。南シナ海ではベトナムの船と中国の船が実際にぶつかるという、1979年に両国が戦った時以来の出来事が起こっている。さらには北朝鮮が韓国の船を砲撃したり、4回目の核実験を「誰も想像したことのないやり方で」行うと脅迫したりしている。
シンガポールで開かれたアジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)で講演する米国のチャック・ヘーゲル国防長官〔AFPBB News〕
確かにこのリストは見る者に不安を抱かせるが、すべての事例を網羅しているわけではない。ここ1カ月間には、ロシアと中国が海軍の合同演習を行っており、米国とフィリピンも海軍の合同演習を行っている。
また、韓国外相が上述の警告を発した数日後には、日本の首相と米国の国防長官、そして中国軍の副参謀総長がシンガポールで開催された「シャングリラ・ダイアログ」で演壇に立ち、対決姿勢を隠さない演説を行った。
米国のチャック・ヘーゲル国防長官は中国の「威嚇と威圧」を非難した。これを聞いた中国側は、米国と日本が「中国に対する挑発的な行動や挑戦」を行っていると返した。
日本の安倍晋三首相は国際法による支配の必要性を説いたが、あまりに力強い話しぶりだったため、ある参加者は「これほど攻撃的な調子で平和を擁護する人をみるのは初めてだ」ともらしていた。