――今度は、ソーシャルメディアの使い方についておうかがいしたいと思います。
東浩紀 (以下、東) 2000年からの10年間を考えると、数年単位で中心的なプラットフォームが変わってきましたよね。僕も最初はHTMLでホームページをつくって、つぎに Movable Type をインストールして個人サイトでブログをつくって、そのあとはてなが運営する「はてなブログ」に移行して、もちろんmixiも登録して、その後Twitter、Facebookが続く、という感じです。
――もはや懐かしいものもありますね。
東さらに、ここに2ちゃんねるなどいろいろなサービスが重なってくる。もしかしたら忘れてしまったサービスもあるかもしれない。次から次へと数年で、メインのコミュニケーションの場が変わっていった時代です。
――新しいものができると、前に流行っていたものは人がいなくなりましたね。。
東その移動は、新しいプラットフォームに新しい情報があるという前提で成り立っていたんですよね。新しい情報を得るためには、mixiにいないといけないらしい、次はTwitterにいないといけない、その次はFacebookに……という変遷があった。でもそれがもう一段落して安定しました。いまの若い人は、LINEに登録したら、あと5年はそれでいけちゃうんじゃないでしょうか。
――たしかにそうかもしれません。
東振り返れば、この20年が異常だったんですよね。情報技術革命というのは、数世紀に1回の大きな転換だった。そんな嵐のような時期は長くは続かない。
――テレビや新聞などのマスメディアが、ネットによって数年後にはなくなるというようなことが言われていたこともありました。
東実際にはそうはなっていないですよね。出版も続くし、テレビも続く。テレビとネットの関係なども、国ごとにちょっとずつ違うんだろうけれど、だいたい安定してきました。僕はこれ以降、メディアの力関係や生活スタイルはしばらく変わらないんじゃないかと思います。
――劇的な変化はもう起こらないと。
東もっと便利にはなるだろうと思います。例えば、街のいたるところに充電スポットみたいなものができて、近くにいるだけで携帯電話が自動的に充電できるようになるとか。あるいは無線LANが完全無料開放されるとか。都市部を歩いている限り、世界のどこにいてもまったく料金がかからない状態で情報をシェアできて、連絡できて、というようになるかもしれない。
――それは便利ですね。
東でもそれだって、いま僕達がしている議論の延長でしかないですよね。
――政治の世界はどうなるんでしょうか?
東そこはこれから変わるでしょうね。もともと慣性が大きいところなので、なかなか変わらなかった。情報技術革命のインパクトが表れるのが、20〜30年遅れている。でも最終的に、投票の仕方も変わるだろうし、国会の議論の仕方も変わるでしょう。『一般意志2.0』で書いたように、国会にネットが入り込むのも時間の問題でしょう。これらの変化は、日本みたいな国よりも、シンガポールや北欧などの国から始まって、じわじわ波及するというプロセスをたどるでしょうね。
――なるほど。
東それでも、見たことがない世界が出現するわけじゃない。これからの変化はいまの世界の延長線上にある。これまでは、コミュニケーションの齟齬があったからできなかったことというのがたくさんありました。そして、ネットによってコミュニケーションは以前より緊密になった。けれどいまでは、コミュニケーションを緊密にしたからって、すべての問題が解決するわけではないということもわかっている。
――時代の変化そのものが一段落しているんですね。
東まあ、それは僕が42歳になったからそう思うのかもしれないですけどね。自分の人生が一段落したから、社会も一段落したように感じているのかも(笑)。
――これからが本当の社会変化がくる! と言っている人もいるかもしれませんね(笑)。
東そちらのほうが多数派なんじゃないかな。たとえば3Dプリンタなどにその期待を寄せている人はいますね。でもどうだろうな……。
――家でマグカップを壊してしまったとき、3Dプリンタがあればその場で新しいものがつくれる、みたいなことなのかと思っていたんですが……。
東それは物質製造機ですよね。SF小説のような世界の出来事です。それができたら本当にすさまじい革命ですけど、今のところ3Dプリンタでは、プラスチックなど決められた素材でシンプルな模型がつくれるだけだから。新しいマグカップをAmazonで買ったほうが早いかもしれない(笑)。
全4回 次回6月17日更新
執筆:崎谷実穂、撮影:森川陽介