中国の精神科病院の内部を記録したドキュメンタリー映画監督・王兵の新作「収容病棟」がまもなく日本でも公開されるようだ。私は先月、配給元から試写用DVDをいただいて観た。4時間近い長編で、BGMもなければ、ナレーションもない、クライマックスもない、いつもながらの王兵節なので、これを劇場で見るのは、よほど忍耐が必要かもしれない。
しかし、それでも、見て損はない、と言えるのは、中国の「精神科病院」は、中国社会の縮図であり、病棟内の患者の姿をありのままに撮影したこの作品は、中国社会の抱える矛盾、問題を鏡のように映し出しているからだ。閉ざされた病棟に暮らす人々は、いわゆる「心の病」の患者だけではない。中国当局の言うところの「社会不適合者、秩序乱す者」が収容される場所でもある。一人っ子政策を違反した者、政府に陳情行為を繰り返した者、宗教にはまった者。今回のコラムは、今の中国で社会問題となっている精神疾患の実態について、考えてみたい。
13人に1人が心の病、2分に1人が自殺
中国には精神疾患者が1億人以上いるとわれている。13人に1人が心の病という計算になる。何をもって精神疾患というかはあいまいながら、これは中国衛生部疾病コントロールセンターの推計だ。このうち重篤な精神疾患は1600万人をこえるという。また鬱病の生涯有病率は人口の4%で約5500万人。日本の生涯有病率は6.5%前後だから、もちろん日本の方が高い。
自殺者は多い。自殺大国と言われている日本よりも、比率は若干高いだろう。推計には諸説あるが、毎年9月11日の世界自殺予防デーなどで繰り返し報道されているのは、「2分ごとに1人自殺、8人が自殺未遂、1人自殺するごとに平均6人の家族・友人を直接的間接的に被害に巻き込んでいる」。2011年6月8日付のフィナンシャルタイムス中国語版に工人日報の編集者で人気コラムニストの石述思氏が寄稿した記事では「毎年自殺を試みるものは200万人(うち165万人が未遂で)年間35万人が自殺している」という数字が出ている。この数字について、中国の掲示板では「こんなに少ないわけがない!」という反応が多かった。