陛下との初対面
『側室合格者 メリア・シュナイダー』
渡された紙を呆然と見つめる。
メリア・シュナイダー?
確かにそこには“私の名前”が書かれてある。
うん。私だ。メリアは私の名前よね。
本当に、本当に?
有り得ない現実に思考が追いつかないまま、目の前の文官を見上げると可笑しそうに笑われた。
「おめでとうございます。メリア様」
“メリア様”
懐かしい呼び方に、あぁ本当に私が選ばれたんだと
体が感じた。
私が、国王陛下の側室ーー
*・*・*・*・*
「つっ……疲れたぁぁ」
ブホッとベッドに倒れ込み、私は呻きながら先程の事を思い出す。
『メリア様。今日からメリア様の侍女になりましたリナ・メイゼンと、アゼル・ハータンです。よろしくお願いします』
そう紹介された侍女達が、ニコリと私に微笑みかけて来た時は驚いた。
普通、側室に選ばれた者は家に帰った数日後に通達されるのだが、家がない私はすぐに城で住む事となった。内心、どうしようかと悩んでいたので、こっそりガッツポーズをしたのは秘密だ。
城を一通り案内してもらい(途中途中で迷子になりながら)部屋に案内されると侍女達が控えていた、というのが先程までの出来事である。
ーーそれよりも
「私が、側室に選ばれたわよーー!」
そう叫び、ビシリと天井に指をさした。
私の中では天井は叔母の顔に変換されているので、遠慮なく言わせてもらおう。
「今までよくも人を馬鹿にしたわね!!もう私は、あんたなんかに馬鹿にはされないわ!あんたに怯えて暮らす事もない!だって私は側室になったんだもの!」
そうよ、もう私は側室になったのよ。
その事実に顔が知らずに緩んだ。
「今度こそ、私は幸せになる」
小さく呟いた言葉をもう一度、今度は心の中で囁く。
ーー私はここで、幸せになる。
固く誓い、私は眠りに落ちた。
*・*・*・*・*
「メリア様、おはようございます」
朝起きるとやけに嬉しそうなリナが挨拶してきた。
「おはよう、リナ」
ぼんやりする頭で返すとニコッと微笑まれた。
何だかリナの笑顔は癒される。
「昨日はグッスリと眠れましたか?」
「えぇ。疲れもすっかり取れて元気いっぱいよ」
「それは良かったです。そう言えばメリア様、今日は陛下の謁見ですね!化粧して、沢山着飾って、綺麗になりましょうね!」
キラキラーーいや、ぎらついた目で私を見るリナに思わず仰け反ってしまった。
化粧~の所からやけに力が入っているのは気のせいよね?冷や汗をかきつつ、リナを見る。
「さぁ、メリア様。謁見までたっぷり時間がありますわ。私達が、隅々までメリア様を磨いてあげますので心配しないでくださいね」
ニコニコと笑いながらリナが近づいてくる。
癒される笑みの筈なのに、どうしてか今は恐怖を感じる。
後ろに下がるものも、いつの間にか数名の侍女が背後に回っていた。
その時、初めて私は逃げられない事を悟るのだった。
あれから隅々と色んな所を磨かれ、私の心は羞恥で折れそうだった。
あんな思いをするなら陛下に会わなくていいと、本気で思う。
ーーっと、いけない。
前を歩いていた兵が一つの部屋に止まった事で、どこかに飛びそうな思考を慌てて切り替えた。
「陛下、メリア嬢を連れて参りました」
「入れ」
低く威厳のある、命令する事に慣れた声。
あぁ、陛下だ。
「失礼します」
背を伸ばし、私は答えた。
よし、声はちゃんと出せてる。
そして、私は扉を開け、にこりと微笑みを浮かべる
筈だった。
が、ーーー出来なかった。
扉を開けた瞬間、視界に飛び込んだその人物に釘付けになってしまったからだった。
白い、陶器かと思うほどの肌。
朝日に輝く金色の髪がさらりとかかり、その向こうに見える切れ長の瞳は深い青色で。
これが、私達の国の王様?
ーーーこんなに美しい男だったなんて。
私は、初めて男が綺麗だと思った。
美形にはそれなりに免疫はある方だと思う。
だって、何故か私の周りには美形が多かったからだ。
叔父やレイファス、勿論憎い叔母だって美形だ。
見慣れてる筈なのに、なのに。
魅入ってしまうのは何故。
しっかりするのよ、メリア!
ハッとして自分に叱咤し前を見ると、私が見つめ過ぎたせいか眉を寄せた陛下がいた。
「…この女が俺の側室か?」
「そうですよ」
そう答える栗色の長い髪の男に、陛下はフンと鼻を鳴らし私を見る。馬鹿にされたのか、私。
陛下への好感度が下がる中、ふと何かが引っかかった。
ん?長い栗色の髪の男?
ーーーーは?
被っていた猫を殴り捨て、私は叫んだ。
「なッ、なんで、なんでレイファスが此処にいるの!?」
指をレイファスへと向け、ワナワナと口を震わせる。
当の本人、レイファスは、いつものようにその端正な顔を私へと向けた。
「いつから貴方は私の事を呼び捨てる様になったんです?」
「今日からよ!」
「…レイファス。何だこの煩いのは」
うんざりしたような陛下の声で我に返る。
ーー陛下が居たんだった…!
私は先程殴り捨てたモノを慌てて探すが、陛下の言葉によって遮られた。
「猫なんぞ今更被っても無駄だ」
ーー遅かった。
どうやら無駄な足掻きだったらしい。
ばれたならしょうがないと開き直る事にして、再びレイファスに問いただした。
「レイファス、文官じゃなかったの?」
「レイファスは最初から俺の宰相だが?」
それに答えたのは陛下。
驚きで硬直する私に陛下は畳みかけるように言った。
「いいか、メリア・シュナイダー。お前を側妃として迎え入れたのは、ジェラルド達に言われたからであって、俺の意志じゃない。俺はお前を認めるつもりも、側室として扱うつもりも一切ない。勿論、側室として迎え入れたからにはそれなりの贅沢はさせてやる。だが、俺には関わるな」
面倒くさそうに、冷めた目で言うそれはまるで牽制。
固まったままの私に、陛下は満足したように瞳を細めレイファスを連れ部屋を出て行った。
一人残された私は、去り際、囁かれた言葉に体を震わせた。
余りの嬉しさで。
『俺に愛なんてもの求めるなよ』
「勿論、求めませんわ!」
ーー寧ろ好都合だ!
…そういえばリナとお茶会をする約束があったんだ、と思いだした私はニヤニヤと緩んだ頬を抑え部屋を出る。
リナとのお茶会が楽しみね。
初めてのお茶会という事に思いを馳せながら、軽い足取りで自分の部屋へと向かった。
ーーーところで、ジェラルドって誰なの?
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