2014-06-10
■親の遠慮にも配慮してほしいとは思うけれど
学校には連絡帳というものがある。仕事上、しばしば目にする。
自分が子どものとき、親と教師の間でどんなやりとりがなされていたのか、ほとんどもう記憶がない。いま小学校などで一般的にどんな使われ方をしているのかもよく知らない。それでも言えることとして、障害をもつ子どもの親にとって先生と交わす「連絡帳」の意義というのは、一般的なそれよりも大きなものではないかと思う。
なぜなら、帰宅後に学校での出来事を話せる子どもばかりではないから。そんな報告ができるのは、むしろ少数派だろう。報告やコメントというのは高度なスキルが求められる営みであって、とりわけ言葉をもたない子どもにとっては難しいコミュニケーションである。
学校でどんな授業があって、子どもがどう学んでいるのか。連絡帳に書かれている内容が親にとっての数少ない情報源となる。連絡帳は一方向的なものではなく双方向のものであるから、熱心な保護者は家での出来事を丁寧に小さな字でびっしり書き込んだりもする。もちろんその逆もあり、保護者記入欄がほとんど真っ白の家もある。先生として、どちらがうれしいのかはよくわからない。
さて、保護者は学校に対して何か物申したいとき、その連絡帳を活用することがある。学校での指導内容に不満があるとか、教員がどう考えているのかわからないとか、理由はいろいろある。
自分が保護者からよく相談を受けるのは、大ざっぱに言えば「学校に望むことを連絡帳に書いたら、期待に反した回答しかなかった」というものだ。まったくスルーされた、というパターンもある。
もちろん多くの保護者は、連絡帳だけで深いやりとりができるとは思っていない。学校に対してストレスを感じているときは、もっと別の方法でも教職員にアクセスしている。しかし、互いの顔を見て、声を聞いてのコミュニケーションを通じて合意形成を図れる機会は多くない。懇談や電話でも埋めきれなかった溝を埋めるチャンスも、直接対話でなされた合意形成を裏づけていくチャンスも、連絡帳にある。ひとたび親から向けられた「不信」を払拭するためのツールとして、その役割は大きい。
このチャンスを活かすどころか、むしろ溝を深めていくようなコミュニケーションをしばしば見かける。「こう書いたら、こんな返事が来た」という訴えを保護者から聞いてきた経験から、思ったこと。
・保護者は先生に「前向きに取り組む意思」と「その具体化」しか望んでない。「叩いたって意味がない」と思っている。
・保護者はあまり辛辣なコメントをすると「モンスター」扱いされるのではないかと恐れているので、やや遠回しな表現を用いる。「こうしてほしい」ではなく「先生はどう思うか」とか「私はこう思う」とか「家ではこうやっている」とか。
・自分に自信がない先生は、それらを「要求」として受け止めるものの「お母さんの希望するとおりにしたい」という反応をしてしまう。それは後ろ向きな態度と受け取られて、火に油を注ぐ。
・自分に自信がある先生はそれらを「意思表示」として受け止めない。ただ、親が「考えていること」として聞くだけなので、批判されていると気づいてさえいないこともある。もちろん自分のやり方は変えない。
・保護者からの遠慮がちなコメントに対して、先生が「保護者の思いを受けとめました」そして「プロとして、こう考えます」と連絡帳の中で示してくれればよいが、自信がありすぎてもなさすぎても事態は悪化する。
・目の離せない子どもを教室で見ながら、先生が連絡帳を書く時間はさほどとれないと思われるので、「プロとしての提案」を即座に返すのは難しく、余計に「そうですねー(大意)」という何を考えているのかわからない回答を書いてしまいがちだ。
・先生たちが「連絡帳の理想的な返信」を学ぶ機会があるのかどうか知らないが、保護者や自分のような支援者の立場からそのスキル向上に多くを期待するのは難しい。
・保護者に助言できることは「遠慮しながら書くと、その遠慮に対して配慮がないことに対して余計にフラストレーションをためてしまうので、要望ははっきり書く」「文章での回答には限界があるから、少しでも考えなければ返事ができなさそうなことについては、あっさりと連絡帳でのコミュニケーションはあきらめて直接の対話を求めるほうがよい」「先生も連絡帳で関係が悪化するくらいならば、忙しい中でも直接会って話せた方がよいと思っている」。
保護者が学校に対する不満を福祉事業所に対してぶつけるとき、1時間2時間という時間が簡単に流れていく。この時間とコミュニケーションに匹敵する機能が連絡帳に求められるのだとしたら、それはあまりに過大だ。昔よりも情報化は進んでいるのだし、学校はもうちょっと別の媒体の活用なども検討したほうがよいのではないかと思う。
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