イベントレポート

メッセージ機能を大幅に強化するなど充実を図る「iOS 8」

〜「Family Sharing」で、アプリ開発者にも転機

会期:6月2日〜6月6日(現地時間)

会場:米サンフランシスコ Moscone Center West

 iOSは、iOS 7においてユーザーインターフェイスの一新を図ったため、「iOS 8」では機能向上に重点がおいたバージョンアップを行なう。iOS 8のプレビューリリースは、登録開発者向けにWWDCの基調講演同日より提供されており、数回の更新を経て、今秋にエンドユーザー向けの正式リリースとなる見通しだ。

 iOS 8へバージョンアップ可能なiOSデバイスは、iPhoneであればiPhone 4s以降、iPadはiPad 2以降、iPod touchは第5世代製品となる。2010年に発売されたiPhone 4はバージョンアップ対象から外れ、iOS 7が最後の対応OSになる。iPhone 4とiPhone 4sは形状こそほぼ同じだが、そのスペックにはかなり隔たりがあるので、その時期が訪れたということだろう。Windows XPでも話題になったが、セキュリティ更新が終了したOSは、その後に明らかになった脆弱性などへの対応も行なわれなくなるため注意が必要だ。Appleの場合は、Microsoftのようにサポート終了時期を明示していないためユーザー自身で判断することも必要になる。

 iOS 8でも、「OS X Yosemite」と同様に「Notification Center」の機能強化が図られる。iOS 7までは、通知を許可したアプリケーションからのプッシュ通知が表示され、ロック画面からでもスワイプ操作で該当のアプリケーションを起動することができた。iOS 8では、もう少しインタラクティブに通知に対応できるようになる。

 「Interactive Notification」と呼ばれるこの機能では、アプリケーションを起動することなく、メッセージへの返信や、スケジュールへの参加依頼への返答などを簡単に行なうことができるようになる。加えて、ウィジェット機能をNotification Centerに統合する。Androidとは異なり、iOSではホーム画面にライブ表示が可能なウィジェットを配置できないため、ライブ表示の可能なウィジェットをここにまとめることにしたようだ。APIはサードパーティ向けにも公開されるため、開発者は上部からのプルダウンで表示できる通知レイヤーに、任意の情報を表示させることができるようになる。

ロック画面に表示されるカレンダー上のスケジュールへの参加依頼。iOS 7までは、ここでスライドすると、アプリケーションが起動していた
iOS 8では、そのままスケジュールへの参加、不参加を表明できる
音楽の再生中に通知されたFacebookへのタグ付け通知にも、“いいね”やコメントの入力をNotification Centerのレイヤーから行なえる
ホームボタンのダブルクリックで表示される起動中のアプリケーション一覧画面では上部に、頻繁に利用される連絡先のアイコンが表示されるようになった
連絡先を選択することで、電話やメッセージを送信することができる
ウィジェットをNotification Centerで表示できるようになり、サードパーティアプリにも開放される。画面ではメジャーリーグの試合結果が更新されている

 標準アプリのメールやSafariもそれぞれ強化される。メールでは、左ペインのスワイプ操作で任意のメールを未読にしたり、あるいはフラグを付けたりできるようになる。Safariでは、タブブラウジングの一覧性を改善し、iPadではサイトごとにグルーピングするなど、複数ページを閲覧する際の操作性を向上させる。

 「Spotlight検索」も、先のレポートで紹介したOS X Yosemiteと同様に端末内に留まらず、インターネットの検索結果も合わせて表示するようになる。これまでのアプリケーションや、連絡先、メールなどに加えて、App Storeで配信されているアプリケーションや、Wikipedia、地図上のスポット情報などが含まれる。ほかにも、iTunesで配信されている楽曲や映画、そして映画のスクリーン情報などもSpotlight検索の対象となる。

メールでは左ペインのメッセージをスライドすることで、未読にしたり、あるいはフラグを立てたりすることができる
iPadのSafariはタブの一覧表示が改良され、同一サイトがグループ化されるようになったほか、同一のApple IDの他デバイスで開いているタブ情報も同期される
OS XのSafariと同様に、リーディングリストやTwitterのタイムライン上にあるリンクの表示などを左ペインで行なえる
Spotlight検索では、デバイス内のメッセージやアプリケーションのほか、App Storeに登録されているアプリの情報も表示されるようになる
Wikipediaの情報や、目的地までのターンバイターンナビゲーション情報なども検索対象となる
ほかにも、iTunesで配信されている映画と、ロードショー公開されている映画を同一の条件で同時に表示させたりできる

 文字入力機能も「QuickType」機能を追加して改善される。タイピングを行なう際に、返信対象となるメールやメッセージの文面から、記述する文章の候補となる単語を先読みする形で、推奨ワードが表示される。入力したい単語があれば、選ぶだけの操作でさくさくとタイピングが進むという機能だ。スライドで例示された内容では、「会議が」の後に続く言葉として、「キャンセルされた」、「リスケされた」などが推奨ワードになっている。

 この先読み候補は端末内の辞書だけで完結し、インターネットなどに依存しないため、入力した文章のプライバシーが保たれるとしている。当初は、日本語を含む14の国と地域の言語で利用できる見通し。

 文字入力に関するもう1つの大きなトピックスは、キーボード入力方式がサードパーティへも開放されることだ。サードパーティが任意のキーパッドや入力方式を使って、システムにテキスト入力を行なえるようになる。これまでは、この機能が開放されていなかったため、例えば日本語入力IMEであるATOKなどは、「ATOK Pad」というメモ入力アプリとして、その日本語変換エンジンを利用していた。

 キーパッド入力がどこまで開放されるかは、開発者向けの仕様書次第となるが、ATOKを開発するジャストシステムや、手書き入力のめたMetaMojiは対応に意欲を示している。特にWWDCでのデモでは、Android向けに先行して提供されている「Swype」を例にして入力方法に重きを置いたが、日本語環境においては変換エンジンや辞書機能こそが重要となってくるので、APIがどの程度までサードパーティに開放されるかが注目される。

「QuickType」機能。入力しようとしている情報に応じて、先読みして推奨ワードを表示。タイプ回数を減らす
「Look what I」のあとに続く単語として、「do」、「want」、「was」などが推奨されている
「映画とディナーのどっちに行く?」という質問には、映画、ディナーそれぞれの回答と、どっちでもないという回答が
同じ「The Meeting was」というフレーズの後でも、シチュエーションによって選択肢が変わる
候補はデバイス内で処理されるため、プライバシーは保たれるとしている
日本語を含む14の国と地域の言語からサポートを開始する
サードパーティにキーボード機能を開放する。Android向けに提供されているSwype入力なども利用可能になる模様
サードパーティ製のキーボード入力を利用する前には、利用許可を行なう必要がある

 iOSデバイスでもっとも利用されているアプリケーションは「メッセージ」だと言う。iOS 8では、このメッセージ機能も大幅に改良が加えられる。「Facebookメッセンジャー」や「LINE」などのいいとこ取りをしたように、「グループメッセージング」機能、「ロケーションシェア」機能、添付機能などがある。ほかにもボイスメッセージ、ビデオメッセージなどもメッセージアプリで利用できるようになる。メッセージアプリの起動中に右サイド、左サイドからのスワイプで、ボイスメッセージ、ビデオメッセージのインターフェイスがオーバーレイされる。いずれも便利な機能ではあるが、LINEが高度に発展し、SMSベースのチャットがさほど普及していない日本で、どれだけの影響があるかは未知数だ。

OS XとiOSの連携でもフォーカスされた「Continuity」
SMSメッセージを、iPadでも同様に送受信できる
iPhoneの着信を、iPadで受け取ることも可能
メッセージアプリには、Facebookメッセンジャーのような、グループメッセージ機能を追加する。スレッドに名前が付けられるほか、参加者の追加や削除も可能
スレッドの中で、ボイスメッセージを追加することも可能。右サイドからのスワイプ操作で、録音ボタンがオーバーレイされる
ビデオメッセージは、左サイドから
グループ内では、ロケーション情報をシェアして付加することができる
同一のスレッド内に、ボイスメッセージとビデオメッセージが混在している
「Family Sharing」。同じクレジットカードで決済することで、家族内で購入したコンテンツや写真をシェアできる

 ユーザーにとっても開発者にとっても大きな変更点となるのが「Family Sharing」だろう。iTunesやApp Storeで配信されるアプリや楽曲を家族最大6人までシェアできる機能だ。これはライセンス上の大きな変更になる。支払いを一本化して、同一のクレジットカードで決済する必要があるが、例えばお父さんがダウンロードした楽曲は、設定された家族内の端末であれば同様にダウンロードが可能。アプリケーションも同様である。これにはペアレンタルコントロールも含まれており、例えば子供がゲームのアプリが欲しい場合は、管理者である親の了解を得る必要があり、そのやりとりも相互の端末に表示される。

 Family Sharingは、コンテンツの共用だけに留まらず、スケジュールや位置情報の共有も含まれる。位置情報の共有はiOS 7までに提供されていた「友達を探す」が家族向けに最適化されたと考えるといいかも知れない。

 こうした機能をiOSに導入することで、家族内の端末を全てiOSデバイスにしてしまうモチベーションを高める狙いもありそうだ。

 こうして家族内でシェアされる情報として、写真は重要な位置を占める。アルバム機能もiOS 8で大幅な機能強化が図られる。1つは「Smart Suggestions」で、アルバム内の写真を条件に応じて自動的に分類する機能だ。条件には、撮影場所、人物、風景、時期などさまざまな要素が含まれる。検索機能も同様に、位置情報、タグ付けされた人物名など、さまざまな条件で検索が出来るようになる。写真の編集機能も強化され、アルバム内での簡易編集にさまざな機能が加わる見込みだ。別稿で詳しく紹介するが、撮影を行なうカメラ機能にも、サードパーティ製のフィルタなどが適用できるようになることから、撮影、管理の両面で大きな改良が期待できそうだ。

クレジットカードホルダーがマスターになり、最大6人まで家族を設定できる。家族内のアカウントからの購入は全て同一のクレジットカードから決済される
家族のスケジュールもカレンダーを共有して行なう
リマインダーも家族間で共有する
家族間の位置情報を共有。「Find my iPhone」の機能を、Family Sharingの規準で一括設定しているものと思われる
iTunes Storeで購入した楽曲や映画、書籍なども共有可能。アプリケーションも同様にシェアできる。開発者にとっても大きな変更点だ
ペアレンタルコントロールを兼ねたパーミッション設定。子供がアプリケーションなどを買いたい場合には、親の了解を得る必要がある。こうした問い合わせのプロセスをiOSのシステムレベルで管理する
iCloud Driveで、全ての写真をクラウド管理することができるようになるだけに、検索の仕組みはさらなる利便性向上が求められる
フォトアプリ内での編集機能も強化される
「Handoff」機能によって、ほかのiOSデバイスでも作業結果が同期される

 ほかにも、「Siri」の機能が全般的に向上する。これまでホームボタンの長押しで起動していたSiriだが、「Hey, Siri」と呼びかけることで起動できるようになる。そのほか、「Shazam」と連携した音楽認識機能や、iTunesのコンテンツ購入にもSiriが使えるようになる。言語として日本語はすでに対応済みだが、新たに22の国と地域の言語をサポートする。

 ヘルスケア分野とホームオートメーション分野で新しく加わるフレームワークである「HealthKit」と「HomeKit」については、別稿で詳しく紹介する。

Siriの機能強化。「Hey, Siri」と呼びかけてSiriを起動できる。果たして公の場で、明朗に「ヘイ、シリ!」と言えるかどうかはちょっと自信がない
中国向けの機能アップデート。ベクターベースの地図サポートや、ターンバイターンナビゲーション、そして旧暦のカレンダーもサポートされる

(矢作 晃)