さて、上記のような基準に基づき、裁判所は、原告著作物と被告映像との対比を一つ一つ行っていった。
原告が類似性を主張した点のうち、「ストーリー構成」や「衣装」等、多くの部分については、さすがに裁判所も著作権侵害を認めなかったのだが、
の2点については、「両映像の与える総合的な印象は相当に類似している」とした。原告映像の「立ち回りの桜吹雪披露シーン」と「被告映像の桜吹雪披露シーン及び被告立ち回りリーチ映像」
原告映像の「お白洲での桜吹雪披露シーン」と「飛行映像の桜吹雪披露シーン及び白洲リーチ映像」
例えば、多くの方が、ドラマで一度は目にしたことがあると思われる「お白洲」の場面については、
「原告松方映像6-1のお白州での桜吹雪披露シーン(略)及び被告金さん物語映像No.40の桜吹雪披露シーン(略)において,桜吹雪の刺青を見せる際に,(1)まず身体右側を画面前に向け,右腕を右袖の中に入れ,(2)身体右側を画面前に向けた姿勢で,右手の5本の指を開いた状態で右手の甲が外になる向きで,右手を右襟元から出し,そのまま右手を下ろし(被告金さん映像No.40の桜吹雪披露シーン(略)においては,下ろした右手を拳にしているか否かは画面上明らかでない。),(3)その後,左後方を振り返りながら,右腕を振り上げ,右肩及び右腕全体を着物から出し,前を向きながら,右腕を振り下ろして片肌を脱ぎ,右肩の桜吹雪の刺青を披露する,(4)人物(遠山奉行)の背景には,襖の不規則な斜め縞模様が映されており,人物の衣装は裃であり,カメラワークは,終始人物を中心に捉えている,という点は,見る者に相当強い印象を与える映像であり,この点の一致は,両者の与える印象の類似性に強い影響を与えている。」
「これらの映像表現は,脚本を映像化する映画の著作物の製作過程において新たに加えられた創作的な表現であり,原告東映の保有する原告松方映像6-1の著作権によって保護されるべき創作性ある表現の類似といえる。」
「「右手を右袖に入れ,襟元から出して右の片肌を脱ぐ」という動作は,他の映像表現においても見られるものであるが(略),上記の4つの特徴を兼ね備えた特徴的な映像表現が,本件松方作品製作前に存在していた証拠はない。」(70~71頁)
という判断が示されており、ここをパクッたらさすがにまずいだろう・・・という裁判所の思いが伝わってくる。
結論として、「被告映像全体が原告松方映像6-1全体の翻案であると判断することはできない」ものの、上記部分については、「原告松方映像6-1の上記部分の表現の本質的特徴を直接感得させるもの」であり、「被告映像のうち上記部分は、原告松方映像6-1の対応する部分を有形的に再製したものであって、複製したものと認められる」(74~75頁)ということとなった*3。
商標権侵害の成否について
それでは、もう一つの争点である商標権侵害の方はどうなったか。
商標的使用の争点については、「被告標章は,被告商品に内蔵された被告映像の題号(略)を離れて,パチンコ機である被告商品の商品名を示す標章として被告商品に付され,また被告商品に被告標章を付したものが譲渡され,商標的に使用(商標法2条3項1号,2号)されていることは明らかである。」(76頁)とあっさり肯定*4。
また、類否判断についても、
「原告商標と被告標章とは,外観,称呼において類似しない点があるものの,歴史上の人物である「遠山金四郎」,及び時代劇等で演じられる「名奉行として知られている遠山金四郎」との観念を生じる点において類似することから,商品の出所につき誤認混同のおそれを生じさせるというべきである(知財高裁平成23年2月28日判決・略)」(80頁)
と、審決取消訴訟の判断も引用しながら、裁判所は肯定した。
こうなると、争う余地は、商標が無効なものと言えないかどうか、という一点のみとなる。
被告らは、「原告商標は周知・著名な歴史上の人物である遠山金四郎の著名性に便乗する行為であって,社会公共の利益に反し,又は社会の一般的道徳観念に反するおそれがある商標であるから,原告商標は商標法4条1項7号に該当し,46条1項1号又は5号により無効となるべきものであるから,39条,特許法104条の3により,原告らは権利を行使することができない」(80頁)という主張を行い、裁判所も、一般論としては、
「商標法4条1項7号は,商標登録を受けることができない商標として,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」を規定しているところ,同項には,出願商標の構成自体が矯激な文字や卑猥な図形等である場合だけでなく,その指定商品について使用することが社会公共の利益に反し,又は社会の一般的道徳観念に反するような場合も含まれるものであり,周知,著名な歴史上の人物名からなる商標について,特定の者が登録出願したような場合に,その出願経緯等の事情いかんによっては,何らかの不正の目的があるなど社会通念に照らして著しく社会的相当性を欠くものがあるため,当該商標の使用が社会公共の利益に反し,又は社会の一般的道徳観念に反する場合が存在しないわけではない(知財高裁平成24年11月7日判決・判時2176号96頁[北斎事件])。」(80~81頁)と、一応理解を示したものの、本件に関しては、
といった点を指摘し、「本件商標権の登録査定時である平成15年6月27日における著名性には,原告東映が昭和25年から昭和40年にかけて製作してきた映画シリーズ,昭和45年から基準時である平成15年まで放映してきたテレビシリーズが,かなりの程度寄与しているものと認められる」(81頁)
「原告東映は,本件商標権について第9類及び第28類で多数の指定商品を指定しているが,上記遠山金四郎ゆかりの観光地において,「遠山の金さん」の名称を付した商品が販売されているか否かは明らかでなく,原告東映の本件商標権により,おもちゃ,人形などに「遠山の金さん」の名称を付すことができなくなり,各地域における観光事業や文化事業において土産物等の販売に支障を生ずる懸念がないとはいえないとしても,その支障は限定的なものにとどまるというべきである。「遠山の金さん」の名称を付した商品としては,原告著作物の原作である(甲13,88)陣出達朗の「名奉行遠山の金さん」シリーズ(略)をはじめ,多数の書籍がある(略)が,原告東映の本件商標権は,書籍や観光パンフレットなどに「遠山の金さん」の名称を用いることを何ら制限するものではない。」
「原告東映は,実在の遠山金四郎と関わりのある者ではないが,遠山金四郎を題材とした本件金さんシリーズを1950年代から製作,放映し,「遠山の金さん」の著名性の増大に寄与してきた者であり,「遠山の金さん」の名称が付された商品や役務が無制限に流通すれば,場合によってはその出所を原告東映と誤認混同されかねない立場にある者である。原告東映による原告商標の出願について,公益的事業の遂行を阻害する目的など,何らかの不正の目的があるものと認めるに足りる証拠はないし,その他,本件全証拠によっても,出願経緯等に社会通念に照らして著しく社会的相当性を欠くものがあるとも認められない。」(83頁)
として、 4条1項7号を否定した。
(これらの判断については、概ねスタンダードなものとして、自分はそんなに違和感はない。)
損害賠償請求の可否及び損害額
結局、本件では、著作権侵害、商標権侵害がいずれも認められることになった。
もっとも、差止めについては、被告サンセイが完売宣言をしたことや、部品を全て廃棄したことなどから「差止めの必要性は認められない」としており、そうなると自ずから「損害賠償」に主要な争点が移ることになる。
このうち、著作権侵害については、原告東映に関し、
「原告東映は,原告東映が著作権を有する橋幸夫主演のテレビシリーズ「ご存じ金さん捕り物帳」の著作権を,原告BFK,原告大一商会を通じてパチンコ機に利用していたのであるから,原告著作物を含む本件松方作品についても,パチンコ機に利用して利益を得られる蓋然性があり,被告らによる著作権侵害行為がなかったならば,原告著作物をパチンコ機に利用して利益が得られたであろうという事情があったものと認められる。」(85頁)
と、114条2項の適用を認める一方で、原告BFK、原告第一商会の主張に対しては、「独占的利用許諾を受けていると認めることはできない」として、請求を否定した。
これに対し、商標権侵害については、被告東映がライセンシーを通じて本件商標を使用していた、ということを認定し、商標法38条2項の適用を認めたほか、原告BFK、原告大一商会についても、今度は、「独占的な通常使用権が設定されたと考えるのが自然」として、原告らの主張を認め、法38条2項の適用を認めたのである。
このあたりは、著作権と商標権の性質の違いが如実に表れたもの、といえるだろうし、賠償金の額についても、著作権侵害分が1億6664万9166円、商標権侵害が7億5214万6386円と、本件の事案に照らす中での、各権利の性質の違いが反映されたものだといえる*5。
なお、巨額の賠償請求が認容されだとはいえ、原告側にとっても納得できない部分は多々あるように思われることから、おそらく第2ラウンドでも、双方ともにまだまだ戦う余地はあるはず。そして、仮に再び判決まで行くことになった場合には、そこで新たな切り口からの判断が示されるのかどうか、再度見守る価値はあるのではないか、と個人的には思うところである。
*1:第29部・大須賀滋裁判長、http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20140528171824.pdf
*2:商品については、紹介ホームページhttp://www.sansei-rd.com/products04/kinsan/top.htmlを参照のこと。
*3:原告著作物があまりに有名な作品であったがゆえに「依拠性」は半ば当然に肯定され、結果として著作権侵害の成立が認められた。
*4:もっとも、ここでの理由づけとして、被告が「名奉行金さん」を商標登録していたことに言及するのは、いささか言い過ぎのような気もする。
*5:残念ながら公開されている判決文では、貢献度等、数字の多くが黒塗りになっており、完全に有利損得をここで評価することはできないのだが・・・。
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