Unityで3Dのゲームを作っちゃおう!
増井:今日は、3Dゲームのエンジン/開発環境として、最近特に人気の高い、Unityを勉強することになっています。最終的には、3Dのゲームを自分で作り上げるまで、カッチリ教えてもらいましょう。
きゃんち:すごい!楽しみ!
増井:最近特に注目を集めているVRヘッドマウントディスプレイ「Oculus Rift(オキュラス・リフト)」。そのOculus Riftの開発環境としても、Unityは最適なんですよ。
きゃんち:最近、引越ししたいなって考えてて。Oculus Riftなら、前もってバーチャルに、新しい部屋の様子を作り上げて、調度品の色とかデザインとかを自由に変えて、それを部屋の中にいるみたいにして、確かめられるんですよね。うわあ、いいなあ。そういうの、作りたいなあ。
こうしてますますテンションが上がってきたところに、本日の講師登場。伊藤周氏、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社の「Unityエバンジェリスト」。Unityを語らせるならまさにこの人!という増井さんの人選。
増井&きゃんち:よろしくお願いします!
伊藤:ではまず、「Unityってどんなもの?」という概要から入りたいと思います。ひと言で言えば、それは、「誰にでも使えるゲーム開発環境」ということです。Unityは、平たく言えばゲームを“する”部分、Unityエンジンと、ゲームの開発を支援するUnityエディタから成っています。
もともとUnityはMac用に作られたものです。最初のうち、マイナーな存在でなかなか売れなかったんですが、転機は、iPhoneの登場でした。「Unityを使えば、iPhoneでも綺麗に3Dが表現できる」と評価され、多くの人が飛びついたんです。そして、今では「スマホ用で3DといえばUnity」とまで言われるようになりました。
増井:なぜそこまで多くの人がUnityに飛びついたかというと、それまでゲーム開発と言えば、何かのオブジェクトにしろ、動きにしろ、ひとつひとつプログラムを入力していたんですね。それがUnityを使えば、それぞれの構成材料を選んで一発でできちゃう。コツコツやらなくてもいいんですよ、というのが魅力だったんですよね。
伊藤:飛躍的に普及が進んだ原因としては、無料で使えるということが大きかったと思う。
きゃんち:確かに元手が無料で、誰でも今までより格段に簡単に3Dゲームが作れてしまうとなれば、我先に飛びつくのはわかります。でもなんで、無料でいいんですか?
伊藤:「個人版=無料、法人版=有料」という切り分けです。基本的な諸機能を備えた個人版はフリー。誰でも気軽にゲーム開発に手を染めることができる。一方で、より高度な機能を備えた法人(注1)版(Unity Pro)は有料。より高度な「商品」として大々的に売り出すようなものを作る際には、有料版を使って“還元”してください、という考え方なんです。
(注1:直前会計年度の総収益が US$100,000 以上の法人)
「3DならUnity」と言われる多くの理由
伊藤:これも絶対に触れておきたい特徴は、さまざまなプラットフォームに対応しているという点です。iOSやWindows Phone、BlackBerryなどのスマートフォン用OSに、PC用各種ブラウザ。XBoxやPS3、Wiiなどのゲーム機。この分野ではさらに、XBox OneやPS4、Wii Uなどにも今後対応していく予定です。
単にどのプラットフォームにも合わせて使えるというだけでなく、従来なら。それぞれ用に書かなくてはいけなかったプログラムを、一つ書けばあとはボタン一発でマルチ対応してくれるというのが、Unityの大きなメリットです。
また、先ほど、Unityはエンジンとエディタから成ると言いましたが、実は大きな構成要素がもう一つあります。それがコミュニティです。Unityが目標としているのは、「誰でもゲームを作れる世界を実現する」ということ。ちょっと格好を付けた言い方をすれば、「ゲーム開発の民主化」です。
きゃんち:本当に誰でもできるようになるんですか?
伊藤:例えば「女性のためのUnity勉強会」や、Twitter展開されている主婦でも使えるUnity講座「主婦ゆに」などがあります。
きゃんち:それ、いいですね。例えば、家事をしている合間のちょっとした時間でも、端末に向かって何か作ってみるなんてことができれば素敵。だから主婦の皆さんも、もっとPCに親しめばいいなと思うんです。……もちろん、私も頑張ります!
伊藤:グラフィックもプリミティブなミニゲームならまだしも、精緻な3Dのゲームともなれば、従来は、お金をかけて高機能なハードウェアやツールなどを整えなければ開発できなかった。必然的に、それは資金が豊富な、規模の大きいゲーム会社が独占する世界。
しかし、Unityが「誰でも使える、誰でも作れる」世界を目指し、実際に飛躍的にユーザー数を増やしたのは先述の通り。今や、そのユーザーは200万人以上に達するといいます。たくさん使われるということは、それ自体が大きな価値になる。その価値を加速することに、この会社は真剣に取り組んできたんですよ。
その一つが、Unityユーザー自身が、自ら開発したツールやモデルを販売しているバーチャルストアである「Unity Asset Store」。売られている“商品”には、キャラクターモデルや背景、テクスチャ、音楽などのゲームのパーツから、ゲーム制作ツールや拡張機能、チュートリアルなど、さまざまな種類のものが揃っています。
アセットストアで買ってきたものは、例えばゲームのパーツなら、それをそのまま自分のゲームの中に組み込んで使うことができる。作り手/売り手は、個人ユーザーもいれば、製作会社もあります。
ユーザーの中には、ゲーム全体の制作はサッパリなんだけどパーツは得意という人もいるわけですが、そんな人でも、自分の作ったものに価値を付けて売ることができる。もちろん、ユーザーの規模があればこそ、マーケットも成立するわけです。
価格は、フリー(無料)のものから200ドルくらいまでが普通でしょうか。一回買えば何回でも使え、商用利用も可能。現時点で、一番売れているのは、Unityの基本機能では不得意な、綺麗なグラフィックのボタン類などを簡単に作成できる、NGUIというプラグイン(GUI制作ツール)。
あるいは、状態の移り変わりを可視化する「playMaker」、いちいち細々と指定しなくても、光線の具合などを一括で指定でき、手軽に美麗な柄が作れる超リアルシェーダー「SkyShop」、Unityエディタ内で3Dモデリングできるツール「MXD Bundle」などが人気です。
ありとあらゆる動作のアニメーション、つまりモーションキャプチャのデータを販売しているのが「Mixamo」。これがあれば、手元のキャラクターを自由に動かすことができる。これは750ドルで1年間ダウンロードし放題なのですが、ひとつひとつの動作を、例えば5ドルといった価格でバラ売りもしています。
きゃんち:よーし!目指せ素材商人!大儲けした~い!(笑)
伊藤:ユーザー数の規模の大きさが価値になる2つ目は、ユーザー相互の情報交換。Unityを使っていく上で、何か不明な点があっても、「ググればわかる」情報がネット上に豊富に存在する。入門書から高度な解説書まで、書籍も次々に出版されています。
また、ユーザー数が多ければ、それだけ高度な使いこなしができる開発者を見つけやすくもなる。その結果、現在Unity Proを使って開発を行っている企業は600社を超えます。
さらに、Facebookには、Unity非公式、「Unityユーザー助け合い所」が開設されており、すでに登録ユーザー数は4000を突破している。これは、日本最大のUnityユーザーグループでもある。何か困ったことがあったらここへ持ち込めば、わかる人が易しく答えてくれる、そんな空間として機能しています。
もちろん、こうした特徴を持ったUnityは、3Dゲーム開発において大いに力を発揮しているのですが、非ゲーム分野でもさまざまな、面白い使われ方をしているんです。
チームラボさんが、バーチャルなコスプレショーや、あるいは子供たちの描いた魚の絵がバーチャルな水槽で、その場で泳ぎだす「Art Aquarium/お絵かき水族館」といったイベント用のシステムを開発したり、あるいは精緻に可動する3D人体骨格、「teamLabBody」を、専門家の方と共同開発したりしています。
<Sketch Aquarium / お絵かき水族館>
<teamLabBody / teamLab exhibition “We are the Future”>
きゃんち:この水族館、絶対楽しいですよね。面白いなあ。
伊藤:半球型のドームに建物の屋内の3Dデータを投影し、実際に部屋に入ったように建物を体験しチェックできる「visiMax」は竹中工務店さん、またヤマハ発動機さんでは無人車輌シミュレータなども開発されています。
Oculus Riftでも力を発揮
ここで、伊藤さん自身が作ったという「Hiyoshi Jump」のデモンストレーション。
小型カメラ「GoPro」を複数組み合わせ、360度撮影できるようにしたものをラジオコントロールのマルチコプターに吊り下げ、垂直に飛び上がらせて撮影した映像を、Unityで再生するというもの。360度の再生画像を見るとなれば、出てくるのはOculus Rift。
もちろん、漫然と360度画像を再生するわけではない。Oculus Riftをかぶって、自分自身の足でジャンプをすると、そのジャンプ力の強弱に従って、はるか上空まで、自分の視界が飛び上がるのだ。そしてその後に来るのは……自由落下。遊園地のフリーフォールやドロップタワーを、何の支えもなしに、自分の体ひとつだけで味わっているイメージだ。
伊藤:ちょっとその場でジャンプしてみて下さい。……もうちょっと高く。
きゃんち:きゃーーーー! こわいこわいこわいっ!
Unityを3Dアプリケーション開発の“共通言語”に
伊藤:今後は、自然言語における英語のように、Unityが3Dアプリケーション開発の“共通言語”になっていって欲しいと思っているんです。そこまで拡大し、「誰もがUnityを使えてあたりまえ」という時代になれば、ゲーム会社間のみならず、非ゲーム会社にもまたがって、優れた人材の流動化が可能になるのではないかと。
増井:他の技術分野だとピンと来ない人もいるかもしれませんが、もともとゲーム業界というのは、使っているツールもノウハウも、各社各様で、一つの企業で技術に習熟しても、それがほかの会社でそのまま通用しないという世界。それが、これまでの技術やノウハウがそのままほかで通用する、能力があればどこでも行けるというふうになるのは、なかなかスゴイことだと思う。
伊藤:そうなんです。さらに、先ほど紹介したように、非ゲーム分野での3Dの活用も進んでいます。でも、その時に、その3Dのコンテンツの操作などについては、例えば「ボタンを押した時、どう反応すれば心地よいか」などというのは、ゲーム業界のノウハウがものすごく進んでいるんですね。そうしたノウハウが非ゲーム業界にも広まっていけば、皆がハッピーになれる。
建築・住宅のほか、広告、医療など、3Dの活用が期待される分野は数多い。そして、そのなかで起爆剤の役目を果たすのではと考えられているデバイスが、先ほどから繰り返し登場しているOculus Rift。これ自体もまた、ゲーム産業のみならず、全ての産業に影響が及ぶのではと考えられます。
増井:実際にアメリカでは、寝たきりの人のために、その人が行ってみたい土地の映像を届ける旅行会社があるそうです。全方位カメラと、Oculus Riftがあれば、それを3Dで実現できる。まるでその場所に自分自身で立っているかのように、周りの風景を見渡すこともできるようになります。実際、現在すでにそうした映像を撮影する「オキュ旅」をやっている人もいるんですよ。
きゃんち:わあ、それ見てみたい!っていうか、自分でも作ってみたいです!
こうして一通り、「Unityとは何?」のレクチャーを受けたきゃんち。
次回はいよいよUnityを触っていきます。
【今回取材に協力していただいた皆さん】
今回の講師 伊藤周さん
Unity Technologies Japan合同会社
Unityエバンジェリスト
株式会社セガでアーケードゲーム「頭文字D」「ガンダムカードビルダー」やモバイルゲーム「三国志コンクエスト」を開発。その後、Unity Technologies Japan合同会社に転職。個人でもiPhoneアプリ「ScouterCam」を開発している。
Twitter:@warapuri
ナビゲーター 増井雄一郎さん
1976年、北海道生まれ。札幌大学経営学部卒業。大学時代に起業。2003年にフリーランスとなり、Ajax、Ruby on Railsなどを使ったWebアプリ開発や執筆で活躍するギークエンジニア。08年に渡米し、中島聡氏とともにアプリ開発会社を立ち上げる。10年に帰国し、Appceleratorの「Titanium Mobile」エバンジェリストとして活躍。
現在は株式会社トレタCTO。
Twitter:@masuidrive
レポーター 喜屋武 ちあきさん
きゃんちのニックネームで親しまれる。
職業はオタク>アイドル。グラビアアイドル復帰なう。アニメ・ゲーム・マンガ・活字が大好き。男装ユニット風男塾のリーダーでもある。技術とプログラミングを学び、ギークガールを目指す。
喜屋武ちあきオフィシャルブログ:きゃんちまいんち!
Twitter:@kyanchiaki
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