2014年05月10日
＜土曜特別連載＞◎日本列島脱出は予定行動だった！ １５
※義経をかくまった奥州平泉
＜土曜特別連載＞
成吉思汗＝源義経だったこれだけの理由
◎日本列島脱出は予定行動だった！ １５
当然ながら、水軍・海人族（あまぞく）といえども四六時中船上で暮らしていたわけではなく、十三湊のような陸上生活拠点が必要不可欠でした。また、日本列島および海外にも同族の人々が居住する複数の寄港地を確保していました。中世の日本列島には安東水軍の他に、熊野、村上、九鬼、宗像（むなかた）などの水軍勢力が割拠し、時として為政者たちの争いに巻き込まれて対立することもありましたが、基本的には共存共栄の関係を保っていたと考えられます。海難事故に際しては利害関係を越えて誰もが救助活動に参加するという日本の善き伝統は、古代・中世から培われた海洋国家ならではの相互扶助精神のあらわれなのでしょう。
ともかく、第一期平泉滞在時代の義経主従は、全国に張り巡らされた水軍のネットワークと深い関りをもったと考えられます。何よりの証拠に、壇ノ浦の戦いで源氏の勝利を決定づけた熊野水軍の参加も武蔵坊弁慶の交渉によって実現しました。さらにもうひとつ、平家に勝利した後に伊予守（いよのかみ）に任命されて京にとどまり続けていた義経が文治元年（1185年）にとった行動も注目されます。
この年の10月には鎌倉幕府が放った刺客・土佐坊昌俊（とさのぼう しょうしゅん）に襲撃され、いよいよ頼朝との関係修復が不可能になったことを悟った義経主従は11月6日に摂津大物ヶ浜（尼崎）から船で瀬戸内海へ脱出しました。しかし、神戸沖にさしかかったあたりで荒天のために航行不能となり、難波津まで漂流して辛くも命拾いをしました。そして、しばらく紀州に潜伏してから山伏姿に身をやつして密かに京へもどったと伝えられています。右大臣・九条兼実（くじょう かねざね）の日記『玉葉（ぎょくよう）』の11月7日の項にも次のように書かれ、当時多くの都人たちも義経の行動に強い関心を抱いていたことが分かります。
≪夜に入り人いわく、九郎義経（くろうよしつね）、新宮十郎行家（頼朝の叔父）ら、豊後国（ぶんごのくに）の武士に誅殺（ちゅうさつ）せられ云々。あるいは逆風のために海に入る云々…≫
つまり、一時的に義経一行は死んだという誤認情報が広がり、結果的には一行が生き延びる上で有利な展開につながったわけです。それはともかく重要なことは、この逃避行の針路が西へ向けられていた事実です。義経たちは、一体どこへ行こうとしていたのでしょうか？もし奥州へ逃れるつもりなら、最初から紀伊水道を南下して東海沖を東進したはずです。あるいは若狭湾から脱出すれば、もっと迅速に日本海経由で奥州へ移動できたに違いありません。そうなると目的地は、四国、九州方面、あるいは源為朝（みなもとのためとも）が渡ったという伝説も残る琉球国だったのでしょうか。しかし、文治元年当時これらの地域では平家の残党狩りが盛んに行われ、鎌倉幕府の敵となってしまった義経にとっても安住の地ではなくなっていたと考えられます。
そこで、これまで誰も口にしなかったもうひとつの仮説が浮かんできます。この時点で早くも義経は、日本国内ではなく国外への脱出を敢行しようとした可能性があるのです。
西日本はむろんのこと、奥州へ逃げ延びても遠からず鎌倉幕府が討伐軍を差し向けてくることは目に見えていました。かといって、頼朝と真っ向から対決できるだけの軍勢を奥州藤原氏から借りられるかどうか、義経も自信はなかったでしょう。要するに、国内にとどまったところで八方塞がりの状況に陥ることは明らかでした。脱出先は、中国、高麗、沿海州などが想定されますが、おそらく、日本海沿岸の安東水軍の拠点地を経て日本列島から離脱しようという目論みだったのでしょう。ただし日本と国交のあった中国（宋）と高麗への入国は避けた可能性が高く、やはり奥州藤原氏と安東氏の影響力が及ぶ沿海州が有力候補地だったと推定できます。
そして、この文治元年の時点での海外逃避行が成功していたとしたら、やはり義経はモンゴル草原へ進出して大王の地位に昇りつめたに違いありません。むしろ、そのことが公然の事実として後世に伝えられ、「兄の頼朝と決別した源義経はユーラシア大陸へ渡り、遊牧民の部族を統合して巨大帝国・元の礎を築いた」と、歴史教科書に明記されることになったかもしれません。しかし歴史というものは、ほんのわずかな歯車の回転差で全然違った方向へ動いていきます。実際には、文治元年11月6日の天候状態のせいで、義経の生涯はきわめてミステリアスなものになってしまいました。
前述のように紀州を迂回して密かに京へもどった義経は、機内各地の寺社などを転々とした後、文治3年（1187年）2月に北陸道を経て奥州へ逃亡したと伝えられてきました。つまり、畿内での潜伏生活は14ヵ月の長きに及び、この辺から義経の行動には謎がつきまとうようになるのです。どうやって鎌倉方の厳しい探索をかわしたのかもさることながら、どんなルートで平泉へ落ち延びたのかもはっきりとわかっていないのです。大体、朝廷の支持も満足に得られない状態で京都周辺に1年以上も潜伏していたとは考えにくく、すでに文治2年の後半には奥州へ旅立っていたとみる歴史家もいます。
いずれにしろ、義経が7年ぶりに平泉を訪れたことは疑いようがなく、いよいよ次章からは、奥州と蝦夷地に残された義経の足跡をたどりながらユーラシア大陸の覇者・成吉思汗へと変貌していった史実を検証していきましょう。
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この記事へのコメント
1. Posted by 古都 2014年05月10日 15:59
2. Posted by 夢子 2014年05月10日 22:54
奥州にいってみたくなりました。
3. Posted by 参照数 2014年05月10日 23:46
ただいま４２７
4. Posted by 教授 城ヶ島花子 2014年05月11日 10:51
どうやって鎌倉方の厳しい探索をかわしたのか、どんなルートで平泉へ落ち延びたのか非常に興味があります
5. Posted by 花音 2014年05月11日 13:38
6. Posted by 弥生 2014年05月11日 22:29
>兄の頼朝と決別した源義経はユーラシア大陸へ渡り、遊牧民の部族を統合して巨大帝国・元の礎を築いた」と、歴史教科書に明記
かつて台湾の教科書にこのように書かれていたことがあった、と台湾からの留学生から聞いたことがあります。
かつて台湾の教科書にこのように書かれていたことがあった、と台湾からの留学生から聞いたことがあります。
7. Posted by 参照数 2014年05月11日 22:33
ただいま４３９
8. Posted by 副主任教授C.Sasaki 2014年05月11日 23:20
＞海難事故に際しては利害関係を越えて誰もが救助活動に参加する
＞日本の善き伝統は、古代・中世から培われた海洋国家ならではの
＞相互扶助精神のあらわれ
この「伝統」ある日本に対し、今回の韓国船沈没事故では、朴大統領は人命より「見栄」を重んじ、日本などからの救援申し出を拒否、救援要請が早ければ多くの命が救われたはずであり、日本を見習うべきだと思います。
＞この文治元年の時点での海外逃避行が成功していたとしたら
＞やはり義経はモンゴル草原へ進出して大王の地位に昇りつめたに違いありません
このことは初めて博士が明らかにされ、博士の教えられる「歴史常識論」から、次々と新事実が解明されていますが、文献や常識にとらわれている学者などでは思いもよらないことだと思います。