2014年04月12日
＜土曜特別連載＞◎奥州藤原氏と清和源氏の関係 １１
※征夷大将軍・阪上田村麻呂
＜土曜特別連載＞
成吉思汗＝源義経だったこれだけの理由
◎奥州藤原氏と清和源氏の関係 １１
弱体化するどころか、年を追って対決姿勢を強める蝦夷軍に業を煮やした桓武天皇は、延暦8年（789年）に5万人を越える大軍を胆沢方面へ差し向けました。たぶん、アテルイの本拠地を力づくで叩きつぶそうとしたのでしょうが、その思惑はまったく裏目にでてしまいました。この対決でもアテルイは北上川の水運を最大限に利用し、神出鬼没（しんしゅつきぼつ）の陽動作戦で侵入者たちを分断してから集中攻撃を加える戦法をとりました。
なかでも北上川支流の衣川では、退路を断たれた数万の朝廷軍が川に追い込まれ無惨に溺死しました。生き残りの朝廷軍兵士たちも完全に戦意を失い、指令も待たずに勝手に現地解散したと伝えられています。ところで、読者もお察しのように、この「衣川の戦い」の舞台地こそ後年に奥州平泉文化が展開した地域なのです。それは決して偶然の一致などではなく、古代・中世の奥州における北上川流域が戦略上きわめて重要なエリアだったからに他なりません。もし本当に義経の館が北上川と衣川の合流点近くにあったとしたなら、それもまた軍事上の必要性が大きく関係していたとしか考えられません。
ともかくここでは、奥州藤原氏の台頭へとつながっていく蝦夷と中央政府の戦いの経過説明を先に片づけておきましょう。「衣川の戦い」で惨敗しながらも桓武天皇は決してあきらめることなく、792年と801年にもそれぞれ10万人以上の大軍を奥州へ送り込みました。さすがの蝦夷軍も圧倒的な兵力差に抗（こう）しきれず指導者のアテルイは征夷大将軍・坂上田村麻呂に投降し、802年に平安京へ連行されて斬首の末路をたどりました。37年間にわたって切れ目なく対大和戦争を指揮し続けたアテルイが、まだ相当な戦闘力を保持したまま簡単に降参した理由には諸説がありますが、朝廷軍の攻撃の矛先が蝦夷の非戦闘員たちに向けられたため徹底抗戦を断念したという見方が有力です。
戦いに破れた蝦夷の民たちは朝廷の俘囚（ふしゅう）＝捕虜となり、さまざまな奉仕労働に使役されました。朝廷に対して協力的な蝦夷の族長のなかには、官位や生活物資を与えられ、蝦夷が生業としてきた狩猟・漁撈・焼き畑などの管理を任される者もいたようです。しかし、アテルイ亡き後も抵抗を続けた蝦夷たちは過酷な運命をたどり、家族ともども奴隷として全国各地へ強制連行され二度と陸奥の地を踏むことはなかったのです。なかでも本州から海を隔てた四国と九州には多くの蝦夷の民が送られ、結果的にそれぞれの移住先で土地開墾や産業振興に大きな功績を残しました。たとえば、弘法大師空海を輩出した四国の佐伯氏なども蝦夷の古い家柄だといわれています。
こうして9世紀から東北地方の蝦夷たちは生まれながらに俘囚（ふしゅう）という屈辱的な身分を強要され続けましたが、本来は彼らこそが先祖代々からの山河の継承者に他なりません。朝廷の支配に置かれながらも、時が経つにつれて俘囚長として大きな勢力を有する蝦夷系の在地勢力が現れました。その最大の氏族が、11世紀中頃までに現在の岩手・秋田・青森県の広い面積にまたがる奥州六郡（岩手、志波、稗貫、江差、胆沢、和賀）を支配下に置いた‘安倍氏’でした。また、南部東北地方の出羽（山形）にも俘囚長として支配権を確立した‘清原氏’がいましたが、何を隠そう、この清原氏こそ後の奥州藤原氏の前身だったのです。そして、これら二つの蝦夷系在地豪族だけでなく源氏の勢力を交えて、11世紀後半の奥州では大戦乱「前九年の役」（1051〜1062年）と「後三年の役」（1083〜1087年）が勃発しました。
その1世紀前にも東国では平将門が‘新皇（しんのう）’を名乗って朝廷に反逆し、藤原秀郷（ふじわらひでさと）と平貞盛によって平定されました。それ以後の平氏は主に西国での覇権獲得に力を入れ、代わって源氏が関東以北への進出に意欲を燃やし始めたのです。それに加えて朝廷も、平将門の反乱以後の東国と奥州の動向には神経をとがらせていました。桓武天皇在位期の奥州出兵で少なからぬ人的経済的損失を被った朝廷は東北および九州地方を治めるにあたって、いわゆる「夷（い）をもって夷（い）を制す」という古代中国の辺境政策を見習うようになりました。
要するに、蝦夷の有力者や在地の武士団同士の対立抗争に際しては、院宣（いんぜん）や勅命などを発して朝廷に利がある方向へ誘導していく、楽で実効性の高い方法です。「前九年・後三年の役」についても、強大化した安倍氏が反乱行動を起こしたので清原氏と源氏が成敗したという構図ですが、その背景には朝廷の思惑も絡んだ三つ巴（どもえ）四つ巴（どもえ）の陰謀術数が渦巻いていたようです。事実、同じ蝦夷系氏族の安倍氏と清原氏には縁戚関係にある者もいて、源氏の介入がなければ安倍氏は滅びなかったかもしれません。しかも、清原氏と結託して安倍氏を滅ぼし東国の全覇権を掌握するつもりでいた源頼義（みなもとのよりよし）と長子・義家の期待は、完全に裏切られます。朝廷は、後三年の役は源氏内部の‘私闘’の性格が色濃いという見解を示し、源頼義は伊予守（いよのかみ）、義家は出羽（でわ）の守（かみ）に任じられただけでした。それに対して、清原氏の当主・武則は旧安倍氏の広大な所領も管理する立場となり、従五位下鎮守府将軍の地位を得て胆沢城に本拠を移しました。朝廷は、源氏の不服を重々承知していたに違いありませんが、奥州の覇権はあくまでも蝦夷系勢力にゆだねた方が安全だという高度に政治的な判断を下したのでしょう。
その後も清原氏内部では源氏の介入でお家騒動が起きますが、最終的には安倍氏の血をひく清原清衡（きよはらひでひら）が勝ち残って藤原姓を名乗ります。そして清衡を一代目として、基衡（もとひら）、秀衡（ひでひら）、泰衡（やすひら）と、奥州藤原氏四代の繁栄を迎えたのです。前九年・後三年の役から約1世紀後、藤原秀衡（ふじわらひでひら）は蝦夷系在地豪族としては清原武則（きよはらたけのり）以来の鎮守府将軍（ちんじゅふしょうぐん）に任じられましたが、その際、都の右大臣九条兼実（くじょうかねざね）は日記『玉葉（ぎょうくよう）』のなかにこう記しています。
≪…奥州の夷狄（いてき）秀衡、鎮守府将軍（ちんじゅふしょうぐん）に任ず。乱世の基なり…≫
平泉の地に絢爛（けんらん）たる仏教文化を開花させた奥州藤原氏も、朝廷貴族からみれば地の果ての夷狄（いてき）＝異民族でしかなかったわけです。そして確かに、因縁浅からぬ源氏の御曹司を迎え入れたことが、後に頼朝率いる10万余の征討軍を呼び込む口実になってしまいました。
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この記事へのコメント
1. Posted by 地獄村 2014年04月12日 00:10
たむらまろのちんぽは、臭かった…
2. Posted by 教授 城ヶ島花子 2014年04月12日 15:13
＞年を追って対決姿勢を強める蝦夷軍に業を煮やした桓武天皇は、延暦8年（789年）に5万人を越える大軍を胆沢方面へ差し向け力づくで叩きつぶそうとしたのでしょうが、その思惑はまったく裏目にでてしまいました。この対決でもアテルイは北上川の水運を最大限に利用し、神出鬼没（しんしゅつきぼつ）の陽動作戦で侵入者たちを分断してから集中攻撃を加える戦法をとりました。
ここではアテルイの強さが際立っているのが分かります。
3. Posted by 参照数 2014年04月12日 23:55
ただいま４０４
4. Posted by 歴男 2014年04月13日 00:07
>アテルイは征夷大将軍・坂上田村麻呂に投降し、802年に平安京へ連行されて斬首
博士ご著書「謎の日本古代史」でも学びましたが、田村麻呂将軍は、朝廷にアテルイの助命嘆願をした、武勇だけなく、武士の情けも深い名将でありました・・・
博士ご著書「謎の日本古代史」でも学びましたが、田村麻呂将軍は、朝廷にアテルイの助命嘆願をした、武勇だけなく、武士の情けも深い名将でありました・・・
5. Posted by ASUKA 2014年04月13日 00:09
阿弖流為は、凄く強かったのですね。
以前、NHKで阿弖流為ゆかりの地の田園に「アテルイのさと」と似顔絵（想像画？）をミステリーサークルのように刈り込んだ青田を見たことがあります。
以前、NHKで阿弖流為ゆかりの地の田園に「アテルイのさと」と似顔絵（想像画？）をミステリーサークルのように刈り込んだ青田を見たことがあります。
6. Posted by 弥生 2014年04月13日 00:10
＞本州から海を隔てた四国と九州には多くの蝦夷の民が送られ、結果的にそれぞれの移住先で土地開墾や産業振興に大きな功績を残しました
私は九州某県出身ですが、アテルイ、蝦夷の血を引いているのかもしれないですね。
私は九州某県出身ですが、アテルイ、蝦夷の血を引いているのかもしれないですね。
7. Posted by 副主任教授C.Sasaki 2014年04月13日 00:21
＞四国と九州には多くの蝦夷の民が送られ、結果的にそれぞれの移住先で
＞土地開墾や産業振興に大きな功績
九州ご出身のある方が、「我々九州人は、かつて元寇に立ち向かい見事撃退、また幕末から明治期にかけて空前絶後の活躍をしたのも、あの勇者・阿弖流為、蝦夷の血をひく勇猛さに由来するのではないだろうか」とおっしゃっていたことを思い出しました。
8. Posted by 秋桜 2014年04月13日 08:36
今後がますます楽しみです
9. Posted by 副主任教授C.Sasaki 2014年04月13日 23:00
朝廷とアテルイの戦い、かつて幕末における薩長と徳川との戦い、大東亜戦争における日本と西欧列強（偽ユダヤ）との戦いと同様に、兵力差がその勝敗を決定しましたが、義経もまた、兵力差で頼朝に勝ち目はなく、新天地に旅立ちました。
以前、博士は「悪もまた神の属性」（ご著書・日本原理公論、日本人の使命）と教えられている通り、蝦夷の方々のご尽力により、現在の四国・九州地方が開かれ、大東亜戦争を戦うことにより、アジアの植民諸国は全て独立、この神国日本の歴史とは、神の大いなるご意志が働いているのだと思います。
以前、博士は「悪もまた神の属性」（ご著書・日本原理公論、日本人の使命）と教えられている通り、蝦夷の方々のご尽力により、現在の四国・九州地方が開かれ、大東亜戦争を戦うことにより、アジアの植民諸国は全て独立、この神国日本の歴史とは、神の大いなるご意志が働いているのだと思います。
10. Posted by うっちゃん大将軍 2014年04月13日 23:02
博士の新刊書「日本建国の謎に迫る」が発売されました。
とても素晴らしい本です！
僕も勉強しています！
とても素晴らしい本です！
僕も勉強しています！
11. Posted by 歴男 2014年04月13日 23:06
＞朝廷軍の攻撃の矛先が蝦夷の非戦闘員たちに向けられたため徹底抗戦を断念
アテルイは勇猛であっただけでなく、
このことから知将、名将であったことが分かり、
あの田村麻呂公も、その武勇と知略を惜しみ、
助命嘆願をしたのだと思う。
やはり、人物は人物を知る・・・
アテルイは勇猛であっただけでなく、
このことから知将、名将であったことが分かり、
あの田村麻呂公も、その武勇と知略を惜しみ、
助命嘆願をしたのだと思う。
やはり、人物は人物を知る・・・
12. Posted by 参照数 2014年04月13日 23:07
ただいま４２５