2014年03月29日
＜土曜特別連載＞◎「壇ノ浦」で発揮した海戦の才能 ９
※兵法書『六韜（りくとう）』
＜土曜特別連載＞
成吉思汗＝源義経だったこれだけの理由
◎「壇ノ浦」で発揮した海戦の才能 ９
おそらく義経は、屋島攻めまでの段階では源氏が真っ向から平家に対して海戦を挑んでも破れる危険性が高いと判断していたと思います。それは直感や当てずっぽうはなく、独自の情報収集網を保持していたためと考えられます。実際、義経が先行して屋島攻略と志度合戦（しどかっせん）を勝ち抜いたおかげで、景時（かげとき）らが率いていた源氏主力軍は戦力を100パーセント温存したまま、海上へ敗走した平家船団を西方へ追撃することができました。その結果、九州へ先回りしていた範頼軍の存在価値が高まり、平氏を瀬戸内海に封じ込めたまま挟み討ちにする作戦が可能になったわけです。こうした西国全域を舞台にした軍事展開を源平勢力のなかで誰よりも冷静沈着に予測していたのが義経だったと、私は確信しています。
そして屋島の戦いから1月余りが過ぎた3月末、義経率いる源氏軍は平家の船団を最終拠点の彦島へ追い込み、壇ノ浦の戦いに至りました。この海戦で源氏の勝利を決定付けた要素として、かつては平家方だった熊野水軍を寝返らせるなど、多くの味方を獲得したことが挙げられます。そうした政治的な駆け引きを必要とする工作活動については、弁慶などの腹心たちが奔走したと伝えられています。さらにいえば、義経主従と日本各地の水軍や海賊たちとのコネクションは平泉時代に藤原氏の仲介によって構築されたという見方もできます。とにかく、義経が5艘の小船団で源氏本隊を離脱して強引に阿波勝浦をめざした経緯には、独自の秘密交渉によって協力を取りつけた熊野水軍に対する、パフォーマンスの意図もあったと思います。瀬戸内の海況を知り尽くした水軍だけに、真冬の荒天を押し渡って合流場所へ漕ぎ着けた義経の勇敢な行動を大いに意気に感じたことでしょう。
しかも義経は、この平家追討の総仕上げの戦いで、それまでとは大きく異なる武将の側面をみせます。壇ノ浦の戦いといえば義経の「八艘（はっそう）跳び」が有名ですが、陣頭で戦い続ける一方で、大海戦の推移を的確にとらえて号令を下す大軍の将の任務も全うしています。その最たるものが、潮の流れを見極めた戦闘でした。壇ノ浦の強い潮が東に流れている間は義経らしからぬ逃げと守りに徹していましたが、それが西向きの流れに転じるとみるや、いっきに攻勢へ転じました。そして、敵船の船頭と舵取りを一斉に狙い撃ちして操船を妨げるという、中世の日本ではいささかアンフェアな命令を下したといいます。ともかく、ひとたび攻撃を始めたら手をゆるめず自軍に有利な戦況へ誘導し、速やかに勝利する。そうした義経らしい戦いぶりで、平家打倒の大戦は幕を閉じました。
1184年正月「宇治川の合戦」、同年2月「三草山（みくさやま）の夜討ち」「一ノ谷合戦（いちのたにのがっせん）」。1185年2月「屋島合戦」「志度合戦」、同年3月「壇ノ浦海戦」。
あらためていえば、源九郎義経（みなもとのくろうよしつね）という武将は、これら2年間のうちの6回の合戦と、それぞれに付随した幾つかの戦闘を通して日本史に名をとどめました。いいかえれば‘百戦錬磨’と呼べるほどの実践の場数は踏んでいないわけです。しかしながら、すべての戦いで圧倒的な勝利をおさめた事実は、決して偶然的な功名では説明がつきません。しかも壇ノ浦の海戦を除いて、どの戦いも義経が指揮官でなければ敗北に終わっていた公算が大なのです。壇ノ浦海戦についても敵船の操舵（そうだ）をマヒさせる義経の奇策がなければ、なお多くの平家の軍船が九州方面へ逃走して戦局を長びかせる結果になったでしょう。
こうした諸事情から総合判断すると、義経の武将としての資質に対する評価は真っ二つに分かれてしまいます。すなわち、�，靴腓擦鵝�奇襲戦法がまぐれ当たりしただけの時代のアダ花のような武将。�△匹寮錣砲弔い討皹圓ぞ�況分析で勝利を獲得したまさに天才と呼ぶにふさわしい武将。
さて、読者はどちらの評価に賛成されるでしょうか。いわずもがな、私は自信をもって�△鮖抻�しますが、もちろん、それには確固たる根拠があります。まず、核心部分から述べましょう。義経は、12世紀当時には最高水準の兵法知識を習得していたのです。それは彼が7歳から身を置いた鞍馬寺の修行時代にまでさかのぼります。前述のように、仏門修行に励む牛若の周囲には、源氏頭領の御曹司という立場ゆえに、多くの年長者たちが家来として参集してきました。武蔵坊弁慶しかり。鎌田三郎しかり。これらの人々は、いずれ平家打倒の大儀を果たす日に向けて、牛若を武人に育てる役割を担ったようです。
なかでも、義経の軍事的素養に大きな影響を及ぼしたと伝えられるのが‘鬼一法眼（おにいちほうげん）’でした。この人物は陰陽師だったといわれ、牛若が鞍馬寺にいた頃に武術を伝授しましたが、相当な高齢に達していたため他の家来たちのように奥州へ同行することはありませんでした。しかし、京の一条に館を構えていたという伝承は、同じく洛中に大邸宅があったとされる奥州の豪商・金売り吉次との結びつきもうかがえます。
『義経記』によると、この鬼一法眼は『六韜（りくとう）』という兵法書を介して義経と関りがあったといいます。古代中国で編纂された漢文体の『六韜（りくとう）』は「文韜」「武韜」「竜韜」「虎韜」「豹韜」「犬韜」6巻に分かれ、各巻が戦に関する極意を説いた実用書でした。それらを義経は鬼一法眼から奪い取り、しかも「虎韜」以外は焼き払ってしまったことが「虎の巻」の語源になりました。それはともかく、まだ12世紀の日本では兵法の研究は盛んではなく、『六韜（りくとう）』は中国からの舶来経典と同じく入手困難な書物だったと推定されます。そうした貴重な兵法書を鬼一法眼の何らかの便宜で読むことのできた義経は、武家として千載一遇のチャンスを得たといえるでしょう。
さらにいえば、12世紀の中国国内でさえ希少だった『六韜（りくとう）』を読める立場にあった義経は、『孫子（そんし）』『呉子（ごし）』『司馬法（しばほう）』などの有名な中国兵法書にも通じていたに違いありません。そのような武将は当時の日本国内では皆無に等しく、義経と中国兵法書との関りの背後には貴重な書物を大陸から入手し得た特別な環境があったと考えられます。それは、奥州藤原氏が築いた平泉文化だったとみて間違いないでしょう。
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この記事へのコメント
1. Posted by 弥生 2014年03月29日 00:19
>壇ノ浦の戦いといえば義経の「八艘（はっそう）跳び」
陣頭で戦い続ける一方で、大海戦の推移を的確にとらえて号令を下す大軍の将の任務も全う
数々の映画やドラマで描かれるこのシーン
ですが、やはり兵法を学んでいたことがうかがえます。
陣頭で戦い続ける一方で、大海戦の推移を的確にとらえて号令を下す大軍の将の任務も全う
数々の映画やドラマで描かれるこのシーン
ですが、やはり兵法を学んでいたことがうかがえます。
2. Posted by 歴男 2014年03月29日 00:21
＞西国全域を舞台にした軍事展開
このことを可能にしたのはやはり「義経は、12世紀当時には最高水準の兵法知識を習得」していたとしか思えない。
このことを可能にしたのはやはり「義経は、12世紀当時には最高水準の兵法知識を習得」していたとしか思えない。
3. Posted by ASUKA 2014年03月29日 00:22
＞壇ノ浦
ここには「平家ガニ」が出ると聞いたことがありますが、本当でしょうか？
ここには「平家ガニ」が出ると聞いたことがありますが、本当でしょうか？
4. Posted by 主任教授 さえこ 2014年03月29日 11:40
＞さらにいえば、12世紀の中国国内でさえ希少だった『六韜（りくとう）』を読める立場にあった義経は、『孫子（そんし）』『呉子（ごし）』『司馬法（しばほう）』などの有名な中国兵法書にも通じていたに違いありません。
兵法を学んでいた義経は無敵の存在だったとわかります。
頼朝は、義経の強さに嫉妬していて、それに火をつけたのが、北条政子だと思います。
当然、義経が頼朝の後継者と考えますが、北条政子は自分の子を跡取りにしたかったのでしょう。
権力を持った女は怖いですね。
孫子の兵法は、中杉博士より学んで知っていましたが、『六韜（りくとう）』は初めて聞きました。色々な兵法書があり、それをすべて鞍馬山の修行時代に学んでいたのが義経ですね。
軍事の天才だったとわかります。
5. Posted by 教授・神田美代子 2014年03月29日 12:39
皆さんこんにちは。義経＝ジンギスカンもどんどん面白くなってきましたね！
今日の城ヶ島講習会ではよろしくお願いします。
長女のゼミが終わり次第急いで駆けつけます！
皆さんにお会い出来るのを楽しみにしています(^_^)
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6. Posted by 教授 レイ 2014年03月30日 19:32
義経が平家との戦いで、兵法を使っていた事がわかりました。
政治的面で裏での根回し、そして兵法を用いた戦法、義経は優れた武将であったという証拠ですね。
南無妙法蓮華経
7. Posted by 参照数 2014年03月30日 22:50
ただいま４０６！
8. Posted by 室蘭の男 2014年03月30日 22:53
＞西国全域を舞台にした軍事展開を源平勢力のなかで誰よりも冷静沈着に予測していたのが義経
悲運の英雄というより、冷静沈着な大将の器であったことが分かります。
悲運の英雄というより、冷静沈着な大将の器であったことが分かります。
9. Posted by 副主任教授C.Sasaki 2014年03月30日 23:04
＞西国全域を舞台にした軍事展開を源平勢力のなかで
誰よりも冷静沈着に予測していたのが義経
兄の頼朝はこのことに気づいていたのではないでしょうか。
以前、博士は「歴史常識論」について講義されましたが、この「歴史常識論」から考えると、あれだけ嫌われ、遠ざけられてことも、この「恐れ」が原因であったことが分かります。
義経はその血統、生い立ちに加えこれらの「兵法」を理解していたからこそ、日本史で最も輝く英雄として語り継がれ、まさに無敵となっていったことが分かりますが、本日のご講義は、義経の歴史的盲点がまた１つ明らかになったと思います。
10. Posted by うっちゃん大将軍 2014年03月30日 23:07
皆さん、講習会ではお疲れ様でした
また次回お会いしましょう。
今日のブログランキングは７位！（※携帯は４位）
皆でこのブログを１位にしよう！
僕も頑張るぞ
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僕も頑張るぞ
11. Posted by 教授 城ヶ島花子 2014年03月31日 14:54
ひとたび攻撃を始めたら手をゆるめず自軍に有利な戦況へ誘導し、速やかに勝利する。ということは凄いことだと思いました。