執筆:若松 義人
結果論で批判するほどリーダーとして見苦しいことはない
MRI装置
GEの伝説のCEOで、「20世紀最高のCEO」とも称されるジャック・ウェルチには、医療機器のMRIにまつわる悔しい経験がある。MRIはGEの得意とする分野だ。1990年代、ウェルチはMRI装置のトンネルを通過する際に閉所恐怖所になりそうだとして、トンネルを広げるべきだと事業部に提案したが、「考えておきます」のひと言で却下されてしまった。
1年後、日本の日立メディコが大きなトンネル型のMRIをつくって一気にシェアを伸ばしたため、GEは失ったシェアを取り戻すために2年の月日を要することになった。
この時、ウェルチは「だから言ったじゃないか」「私にはこうなることが分かっていたんだ」と言いたくて仕方がなかったが、何かが上手くいかなかった時、結果論で批判するほどリーダーとして見苦しいことはないとしてぐっと我慢したという。
ウェルチはこれまで何か悪いことが起きるたびに「あんなことをしちゃいけないと分かっていたんだ」と訳知り顔に言うリーダーやCEOをたくさん見てきた。「先見の明」を自慢することによって本人は気が楽になるかもしれないが、それで失敗が成功に変わるわけではないし、会社の損失が取り戻せるわけでもない。
もし本当に結果が見えていたのなら、そうならないように主張したり、手助けしたり、資源を投入すればいい。組織で働く以上、間違っても結果だけを見てこれ見よがしに批判する人間になってはいけないというのがウェルチの教訓だ。
そんなウェルチが会議で好んで使った言い方の一つに「私に向かってウォルター・クロカント語はやめてくれ」がある。ウォルター・クロカントは「CBSイブニングニュース」のアンカーマンを長く務め、「アメリカの良心」とも呼ばれた伝説のジャーナリストだ。
それほどの人物を引き合いに出すのはどうかという気もするが、ウェルチによればクロカントは悪いニュースを伝えるものの、その解決策を示していないという意味で「ウォルター・クロカント語」と言っている。
つまり、ニュースと違って、ビジネスの現場では問題がそこにあるのなら解決策を考えて、すぐに実行することが必要で、問題を指摘するだけの評論家に用はないし、問題が起きると思っているのならそれを未然に防ぐために努力するべきであり、結果論で批判する後出しの予言者などに用はないというのがウェルチの考え方だった。
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