今日からTIME Inc.(タイム・インク)がタイムワーナーからスピンオフされ、取引されはじめました。ティッカーシンボルは「TIME」です。これを書いているザラバで$22.65で取引されています。

同社は雑誌社としては全米最大の購読者数を誇っています。

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プリント広告収入のシェアでも最大です。

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TIME Inc.のルーツは1923年に遡ります。同社は1936年にLIFEを買収します。LIFEは迫力ある写真でニュースを視覚的に伝える先駆者でした。戦場カメラマンという職業が成り立つきっかけになったのはLIFEのような雑誌が存在したからです。

一方、TIMEは大衆に世界で何が起こっているかを伝える雑誌として確固たる地位を築きました。同社は「歴史のドラフトを最初に掲載する」メディアを自認していました。一例としてWorld WarⅡ、つまり「第二次世界大戦」という名称はTIMEが名付けたのです。

TIMEは常に中立の立場を貫きました。その公正さ、客観性に対し読者の信頼は大きかったです。唯一、アメリカで公民権運動が荒れ狂った時だけは報道の中立を棄て、変革に向けて大きく舵を切ったことで有名です。

このようにTIMEは文句なしに印刷メディアの王者の地位に君臨していたのですが、最近ではインターネットの登場により同社の得意とするストーリー・テリングの手法がirrelevant になりました。

TIME誌はスカスカの内容の、薄っぺらで、いかにも貧相な雑誌に成り下がっており、広告主が出稿する「場」としても、もはや昔の魅力はありません。



TIME Inc.は95のブランドを擁しています。それらは:

TIME 週刊ニュース雑誌 第一位
Sports Illustrated スポーツ雑誌 第一位
InStyle 女性ファッション誌 第一位
People 芸能誌 第一位
Fortune ビジネス雑誌 第二位
Travel + Leisure 旅行雑誌 第一位
ESSENCE 黒人向け雑誌 第一位


を含みます。

しかし「ピープル」は過去5年間にニューススタンドでの販売が半減するなど、苦戦していますし、「スポーツ・イラストレーテッド」、「フォーチュン」なども昔ほどの輝きはありません。


TIMEは1989年にワーナーブラザーズと合併します。その際、パラマウントから横槍が入り、三つ巴の買収合戦となり、結果として出来たタイムワーナーは多額の負債を背負い込むことになります。

タイムワーナーは本当にM&Aが下手で、2000年にはドットコム・バブルの頂点でアメリカ・オンラインを1,600億ドルで買収します。その後、すぐにドットコム・バブルが弾けて、AOLはとんでもないお荷物になります。結局、2009年にタイムワーナーはAOLを別会社としてスピンオフします。

今回のTIME Inc.のスピンオフは、ある意味で2009年のAOLの分離の手法を踏襲しているとも見ることが出来ます。つまり税金対策の見地からで、単にTIME Inc.を第三者に売却することは不利なので、タイムワーナーの既存株主にTIME Inc.の株式を割り当てるという仕法を使ったわけです。TIME Inc.株を手にした投資家は、各々の判断で場でTIME Inc.株を処分すればいい……そういう含みがあります。

新会社はタイムワーナーの負債、約13億ドルを継承しており、格付け機関ムーディーズは「ジャンク債」の格付けを与えています。TIME Inc.の売上高はジリ貧を辿っています。

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利益も年々下がっています。

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つまり今日のTIME Inc.の門出は新しいはじまりではなく、デスマーチに他ならないのです。


(文責:広瀬隆雄、Editor in Chief、Market Hack

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