セレブな人権活動家ソマリー・マムの辞職騒動(後編)

「人助けは快感である」 反人身取引運動の活動家ソマリー・マムの辞職騒動から“正しい社会運動”を考える

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2014.06.09
人助けは快感?“正しい社会運動”とは

人権活動家ソマリー・マム ツイッターより

>>【前編はコチラ】ヒラリー・クリントンも騙された…… 人権活動家ソマリー・マムの人助けは自作自演の行き過ぎた嘘だった

マム氏と AFESIP の活動に対しては、以前から多くの批判が寄せられていました。反人身取引運動を牽引している団体が出す性人身取引被害者の女性の数や年齢の統計や事例報告には、実は統計上あり得ないようなものがいくつもあります。マム氏もカンボジアでは3才の子どもが売春宿に囚われていると発言していますが、別の活動家はその信憑性に疑問を挟んでいます。

    「救出」ではなく「拉致」でしかない

更に、 AFESIP による「救出」の方法にも多くの活動家が批判を寄せています。この「救出」とは、警察による強制捜査に同行し、売春宿にいる女性を拉致するというものです。「救出」され「保護」された女性は、警察による尋問を受けます。警察が許可している強制保護期間が終わった後も、 AFESIP の判断で延長されることがあります。

保護について AFESIP は強制性を否定していますが、 AFESIP のシェルターから逃げ出した女性が多数いること、彼女らが不当に勾留されていたとして AFESIP に対して訴訟を起こしていること、 AFESIP を支持している米国政府に対し米国大使館前で抗議活動を行っていることなどから、 AFESIP にとっての「救出」と「保護」が女性らにとっては「拉致」と「監禁」でしかない可能性が高いことが、ジャーナリストやセックスワーカー、活動家たちから指摘されてきました。

また、 AFESIP と明言してはいませんが、リーラ・ニーナさんは「私は人身取引の被害者ではなく救出団体の被害者だった」と主張し、マム氏を名指しで批判しています。反人身取引運動のこうした「救出」「保護」のやり方については、ヒューマン・ライツ・ウォッチ、アムネスティー・インターナショナルなど人権団体も危惧を表明しています。

    性産業にいる女性は全員被害者?

これらの批判に対して、マム氏は一貫して、 AFESIP に来るような女性たちは「壊れている broken」のだと弁明しています。2012年7月に開催され筆者も参加した国際基督教大学でのワークショップでも、ゲストとして参加していたマム氏は、性産業にいる女性は全員被害者であり、自分を被害者だと思わない女性はその自覚が生まれないほど「壊れている」のだ、と主張していました。この論理によれば、女性たちによる抗議の声や AFESIP を去りたいと感じる女性の声は「壊れている被害者」の声であり、そのような女性の自己決定は尊重しない、する必要はないのだという主張が可能になってしまいます。

では AFESIP にとっての「教育」は、女性たちにとって何なのでしょうか。

AFESIP では「職業訓練」プログラムがあり、そこで裁縫やヘアメイク、機織りを学ぶことができます。決算報告によれば、 AFESIP は職業訓練プログラムで生産された物を販売し、収入を得ています。しかし、報告のどこにも、実際に生産活動をしている女性たちへの給与の支払いがあるかどうかは明記されていません。更に、労働条件の悪い衣料産業での仕事を辞めて性産業にやってくる女性が多い現状では、裁縫を教えることは性産業から抜け出すきっかけにはならないという指摘もされています。

    反人身取引運動は正しい運動なのか?

マム氏が財団を去ったことで、反人身取引運動の勢いは多少失速するかもしれません。しかしマム氏の失脚のきっかけは嘘が暴かれたことであり、長年抗議して来た女性たちの声が世間に届いたというわけではありません。性産業を汚らわしいものと考えたり、そこで働く女性を見下したりする私たちの強い既成概念がある限り、反人身取引運動はその過ちを振り返ることなく突き進んで行くでしょう。

私たちのほとんどは、人助けをすることに快感を覚えます。人助けしている団体を支持している自分も好きだったりします。ですが運動の中身をきちんと知り、背景に何があるのかをきちんと考えないと、人助けをしているつもりが逆につらい思いをしている人に追い打ちをかけることになってしまうこともあるのです。

そもそも人身取引という言葉が普及した背景には、米国の資本主義的かつ帝国主義的な利益があったという指摘があります(※)。強制移住や強制労働が「貧困や経済格差、グローバリズム、移民への不当な制限などを背景とする社会経済的な問題」だとしたら、政府は格差の解消や取り締まりの緩和をしなくてはなりません。

しかしそれが「薬物や武器の密輸と同じような国際犯罪事業」だとしたら、「解決のために政府がすべきことは警察権力の強化と拡張である」と政府に都合のいい主張ができます。トラフィッカーと呼ばれる人身取引加害者(業者や仲介人など)を「人々を売春に引きずり込む悪の根源」とみなすことで、自らの責任を逃れて得をしている人たちがいるということです。

発展途上国における人身取引の責任は、私たちにもあります。発展途上国に工場を建て低賃金で現地の人々を雇い、物価が上がり賃金水準が上がると別の地域に工場を移転して地域経済の破綻と貧困をもたらす日本企業や、その仕組みに支えられた日本経済とその恩恵を受けているのですから。自分の責任から目を背けて悪者に責任を押し付けたいという先進国の私たちの欲望を、反人身取引運動は満たしてくれているのでしょう。

マサキチトセ

>>【前編】 : ヒラリー・クリントンも騙された…… 人権活動家ソマリー・マムの人助けは自作自演の行き過ぎた嘘だった


            
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