10年大会で優勝したスペインは7試合でわずか8得点しか挙げていない Agence France-Presse/Getty Images
得点がたくさん入るスポーツが好きな米国人は、サッカー・ワールドカップ(W杯)で多少欲求不満に陥っても仕方ないかもしれない。
この4年に一度のサッカーの祭典を観戦するたびに興奮する機会が減っているように感じているとすれば、あなたは正しい。サッカーはそもそも点が入りにくいスポーツだが、W杯となればなおさらで、しかも毎回ゴールの難易度が増している。
4年前の南アフリカ大会では出場32カ国の1試合の平均得点はわずか2.27。1990年イタリア大会の2.21以来の低い数字だ。次の94年大会では平均得点は2.71となり、再び盛り返したかに見えた。しかし、98年は2.67、02年は2.52、06年は2.3と減少し続けている。54年のスイス大会の平均得点は驚くべきことに5.4。今シーズンのイングランド・プレミア・リーグでさえ1試合の平均得点は2.76だ。
こうした現象を最も顕著に物語っているのが10年大会で優勝したスペインだ。7試合でわずか8得点しか挙げておらず、決勝トーナメントは4試合全てを1-0で制した。スペインのプレースタイルは「ティキタカ」と呼ばれる相手を寄せ付けない素早いパス回しが特長で、芸術的なサッカーを好むファンにとっては美しいものかもしれない。しかし、観戦者のほとんどが見たいのは、90分間(延長の場合は120分間)に何度もボールがゴールネットを揺らす場面だ。
最も攻撃的なチームと言われるブラジルとドイツでさえ前回大会での得点数はさほど多くない。ブラジルは5試合でわずか9得点。ドイツは決勝トーナメントの4試合で11得点を挙げたものの、グループリーグの3試合ではわずか5得点だ。
確かに02年大会ではドイツがサウジアラビア相手に8得点を挙げ、10年大会ではポルトガルが北朝鮮戦で7得点しているが、これらはかなり珍しいケースだ。過去3大会で1つのチームが1試合に5得点以上挙げた試合は他に2つしかない。
そこで次の疑問が浮かんでくる。近年のW杯でこれほどまでに得点するのが難しい理由は何だろうか。
明確な理由が1つある。それは、ゴールのサイズ(縦105メートルx横68メートル)がはるか昔からずっと変わらないことだ。ゴールキーパー(GK)は体が大きくなり、スピードや運動能力が増しているにもかかわらずだ。身長196センチのイングランド代表GKジョー・ハートや身長193センチのドイツ代表GKマヌエル・ノイアー相手にゴールをこじ開けるのはそう簡単ではない。
もう1つ考えられる大きな理由は、複雑なディフェンスプランを用いた戦術のグローバル化だ。今や世界中の選手が世界のビッグクラブに所属している。例えば、「レ・エレファンツ(象)」の愛称で知られるコートジボワール代表のミッドフィールダー(MF)ヤヤ・トゥーレは過去7年間バルセロナとマンチェスター・シティーでプレーしており、そこで得たサッカーの知識をレ・エレファンツに伝えることができる。
代表戦で通算30得点を挙げた元米国代表選手のブライアン・マクブライド氏は「チーム自体の質が純粋に上がっている」とし、「チームの力学や敵からの守り方などを理解し、技術的に向上している」と指摘する。
マクブライド氏は1世代前のW杯の試合のビデオを見るよう勧める。当時の試合はボールを持つ選手とディフェンダーとの1対1の対決を繰り返しているように見える。対決に勝ったアタッカーは往々にして再び別のディフェンダーとの対決に遭遇するか、ペナルティーエリアに向かって独走するかだ(こうしたチームディフェンス崩壊の最たる例が1986年のディエゴ・マラドーナ対イングランド代表の対決だ)。現在ではそうした状況はあまり起こらない。マクブライド氏は「今はポジションの入れ替えが頻繁に行われる」とし、「(グループステージの)米国対ポルトガル戦ではクリスティアノ・ロナルドがボールを持てば、必ず誰かがディフェンスのカバーに入るだろう」と話す。
戦術知識の普及以外にも、トップリーグでプレーする選手の国際色がますます豊かになっていることも攻撃の組み立てを難しくする一因だ。異なるクラブでプレーする攻撃の選手同士はもちろんのこと、自国内でプレーする選手同士であっても迅速に切り替え、代表チームが求めるプレースタイルに合わせる必要がある。
元米国代表のストライカー、エリック・ウィナルダ氏は米国と同グループのベルギーは一見手ごわい相手に見えると話す。エデン・アザール、ロメル・ルカク、アドナン・ヤヌザイの3人はそれぞれプレミアリーグのチェルシー、エバートン、マンチェスター・ユナイテッドの主力選手だ。しかし、それぞれ完全に異なるシステムでプレーすることに慣れた3選手を組み合わせても必ずしもうまく機能するとは限らないという。
「代表チームは無理やり作られた友人関係のようなものだ」とウィナルダ氏。
(スペインとドイツの近年の成績を見れば確かに納得がいく。トッププレーヤーのほとんどが国内の2つのクラブに所属する両チームは、戦術のすり合わせという問題がない)
その結果、過去30年の主要な国際試合ではフリーキックやコーナーキックなどのセットプレーがますます多用されるようになっている。06年W杯の全ゴールの約37%がセットプレーから生まれ、86年と比較して50%も増えている。10年はこの割合が大きく減ったが、これは使用された公式球がコントロールの難しいボールだったことと、各チームがセットプレーのディフェンスに力を入れ始めたためだ。
そしてもう1つの理由が、国際サッカーにはもはや秘密は存在しないということだ。25年ほど前までは、アフリカやアジアはもちろんのこと、一部南米のチームでさえさまざまな試合映像を手に入れるのが難しかった。しかし、今やW杯参加国のほぼ全ての試合が生中継されるか、録画放送されている。米国と同グループのガーナは12年6月にザンビアのヌドーラで行われた試合で0 -1でザンビアに負けたが、米国は間違いなくその試合でガーナの弱点を研究したはずだ。
さらに、ブラジルの開催都市の多くは蒸し暑い気候のため、激しい攻撃は体力を消耗する公算が大きい。
ウィナルダ氏は「現地の気候はオープンスタイルには適さないだろう」とし、「クローズドスタイルで戦うことになるだろう。今は守備的な発想が重宝されている。それが現状だ」と指摘する。