ソフトバンクは6月5日、「人の感情を認識する」パーソナルロボ
Pepper を発表しました。開発を手がけたのは、ソフトバンクグループでフランスに拠点を置く
ALDEBARAN Roboticsです。ALDEBARANのブルーノ・メゾニエCEOにインタビューの機会を得て、人型ロボットへの想いを聞きました。
Pepperには吉本興業の
よしもとロボット研究所が参画しており、我々が想像するロボットよりも高いコミュニケーション能力を感じることさえあります。Pepper の芸人のようなネタ動画もあわせてご覧ください。
Pepper インタビュー
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Engadget:Pepper発表会の記事はTwitterが2000件の投稿を超え、Facebookの「いいね」も2500を超えるなど注目されています。反響や手応えのようなものを感じてますか?
メゾニエCEO:実はそうやって数字で言ってもらったのは初めてなんですよね。発表会に参加してくれた人は好意的で、欧米の反応はもう少し遅れてやってくるかなと思います。見た人の感想はみんなポジティブなものですね。
Engadget:Twitterのコメントなどを細かく追っていくと、必ずしも好意的なものばかりではないようです。とくに、人の形をしたロボットへの恐怖感のようなものを感じている印象があります。これはヒューマノイドの宿命かもしれませんが、あえて聞きます。Pepperは人に似せた方が良かったのでしょうか。
メゾニエCEO:それは私の決断でした。コンパニオン型で人々とやりとりできるロボット、しかも「自分のロボットがカワイイ」と愛情がわくものしたかったのです。
自然なコミュニケーションは声が1つの手段ですよね。これはコミュニケーションの専門家なら誰でも知っていることですが、メッセージの2〜3割しか声によって媒介されないのです。伝達のもっとも重要な部分は仕草やボディランゲージなんです。
たとえば、優しく「No」と言った場合と怒って「No」と言った場合では意味が変わります。声ではYesと言っても、心の中でNoと思っていることだってあります。つまり、声だけ聞いていても誤って認識してしまうのです。ロボットと自然で直感的なやりとりをするために、ボディランゲージができるヒューマノイド型ロボットになったんです。
Engadget:だから上半身が人型なんですね。
メゾニエCEO:コミュニケーションの大半は頭と腕、胸の部分まで行います。コミュニケーションにおいて脚はそれほど大切ではありません。
ヒューマノイドだから怖いという感想についてですが、これは当然の懸念です。リスクがないわけではありませんから。ただ、これは人間の全ての発明についても言えることで、人間が火を使い始めたころから火傷を負った人は何人もいます。電気や自動車、飛行機といった発明もそうですね。それなりのリスクが伴うわけです。
だからと言って新しいものを全部やめるかという話にはなりません。問題は大人の目でしっかりとその状況を見て、必要な防御策をとることです。それさえしておけば、テクノロジーのメリットを充分に享受できると思います。
Engadget:Pepperの動きを見ると、とくに手の表情というか、表現力が多彩な印象を受けました。一つ一つの指にしっかり関節があり、まさしく人のボディランゲージといった感じを受けました。Pepperの開発で技術的に困難だった部分を教えてください。
メゾニエCEO:もちろん全てが難しかったと言えます。そうした中でもっとも困難だったのは、難しい要素を統合することでした。
たとえば、手にモーターを搭載し指を動かしているので、そのための電気回路が腕を伝ってるわけですよね。しかし、指や腕を動かしたり何度かすれば、この回路が切れてしまいます。我々のロボットは何百万回腕を曲げたところで切れてはいけませんから、それを1つのロボットとして統合していくのが非常に困難でした。
Engadget:発表会の質問にもありましたが、日本の住環境を考えるとPepperのサイズは大きいと思います。これは何か意図するところなのか、それとも技術的な制約なのでしょうか。小型化は考えていますか。
メゾニエCEO:まぁたしかに、日本人の皆さんがそう思うならば、そうなのかもしれません。ただそれは好みの問題もあるかもしれません。ロボットを置くなら小さめがいいという人と、どうせなら大きい方がいいという人もいます。
我々は、最終的にラインナップとしてそれに答えるものを提案しなければならないと思います。ただ仮にPepperよりも小さいロボットだとすれば、話し相手としての役割は難しくなると考えました。もうほんのちょっと小さい分には大丈夫かもしれませんが、あまり小さいとそばに立っている存在感がなくなってしまいます。家の中で動くことを考えると自分でドアをあけたり、テーブルの上にあるものを自分で手に取れなければなりません。そのためには一定の身長がなくてはならないと思います。
Engadget:来年2月の発売まで、まだしばらく時間があります。この間、何をしますか?
メゾニエCEO:まず存在を知ってもらわないといけません。生産についてはこれはもうクリアしていると考えています。OSもありますし、次の段階はアプリです。Pepperがソフトバンクショップのフロアマネージャーとなっていますが、そのためのアプリは開発済みです。その後は一般消費者向けのアプリを拡充する必要があります。そうじゃないと、使っていても欲求不満がたまります。
開発者は自分たちが思いついたことをどんどんロボットにさせる、そんなことを考えがちです。そこで9月の開発者会議では、一般販売に先駆けて何台かそうした開発者たちに販売する計画があります。開発には音のデザインやアニメーションを考える人が必要ですが、我々のNAOというロボットとPepperは互換性があるため、NAO用にアプリを開発し、それを少し修正するだけでPepper向けに配信できます。
Engadget:PepperとNAOに共通するNAOqi OS(ナオキ)ですが、このOSを利用してハードウェア、つまりロボットを開発できるものなのでしょうか? PCだといろいろなメーカーが作っていますよね。
メゾニエCEO:ありえないことではありませんが、それは非常に難しいと思います。PCも大きく2つのアーキテクチャがありますよね。ディスプレイやハードディスク、メモリ、OSとそれぞれが役割分担している場合と、それら全て統合されているアップルのような場合です。
ロボットはハードウェアがPCよりも大切になるため、ハードウェアの可能性を最大限に活かすのであれば、OSもハードウェアにごく近いものが求められます。
Engadget:最後の質問です。これまでは人が何かしてもらうためのロボット、産業ロボットなどがそうですが機能重視のロボットがほとんどでしたよね。ヒューマノイド型ロボットはそれとは役割が違うと思いますが、近い将来どんな進化を遂げるのでしょうか。
メゾニエCEO:まずヒューマノイド型ロボットのラインナップが充実していきます。それとともにロボットがさらに起用になっていき、表現する能力も高くなるはずです。たとえば眉や口の表現です。それからもっと柔らかい質感をもったロボットが登場するでしょう。ただ、そうなったとして人間に似せたいと思っているわけではありません。
あ、敏捷にもなりますね。たとえばこちらが一押しすると、ゴロゴロと転がりすっと立ち上がるようなものです。耐水になり外出も可能、滅菌もできるはずです。
そうなれば入院患者のケアもできます。大人であれ子どもであれ、何日も入院していればコンパニオンロボットが必要です。家族ともすぐに連絡がとれるようなロボットになるでしょうね。ロボットによって入院患者の生活はがらりと変わると思いますよ。
進化はソフトウェアの面でも当然あります。人間の感情の理解は深まるはずで、たとえば怒っている時です。たとえばアナタがおとなしい人間ではなくなり、本来と違う野獣のような側面が出た場合です。心理学者やカウンセラーは怒った人への対応がわかっていて、ロボットもアナタが冷静さを取り戻すような反応を返すのです。ロボットが人間としてあるべき姿になるよう助けてくれるんです。
Engadget:まるで鉄腕アトムのような世界ですね。ありがとうございました。