June 9, 2014
笑いに病を癒す力があるというのは誰しも信じたい説だが、これを裏付ける科学研究は多くない。ほとんどの研究は小規模で、主観的評価に基づくものだ。
それでも、ゲラゲラと大笑いするのが健康に悪いとは思えない。笑いが喘息発作を引き起こしたという話はあまり聞かないし、脳卒中を引き起こしたという話はもっと聞かない。またこれは正式な研究結果ではないが、不適切な場面で周りの人が笑っている、例えば闘鶏を見て爆笑していたりする状況に置かれると、ストレスが増大すると考える研究者もいる。
しかし、実験によって笑いの一定の効果を証明した研究もわずかにある。
「大笑いすると、脳からエンドルフィンが分泌される」と、ボルティモアにあるメリーランド大学医療センターの予防心臓病学センター所長、マイケル・ミラー(Michae・・・
それでも、ゲラゲラと大笑いするのが健康に悪いとは思えない。笑いが喘息発作を引き起こしたという話はあまり聞かないし、脳卒中を引き起こしたという話はもっと聞かない。またこれは正式な研究結果ではないが、不適切な場面で周りの人が笑っている、例えば闘鶏を見て爆笑していたりする状況に置かれると、ストレスが増大すると考える研究者もいる。
しかし、実験によって笑いの一定の効果を証明した研究もわずかにある。
「大笑いすると、脳からエンドルフィンが分泌される」と、ボルティモアにあるメリーランド大学医療センターの予防心臓病学センター所長、マイケル・ミラー(Michael Miller)氏は述べる。
エンドルフィンの分泌は、心臓の健康に有益な一連の生物学的反応を引き起こす。快感をもたらす神経伝達物質のエンドルフィンは、血管内皮(血管の内面を覆う扁平な細胞の層)の表面にある受容体を活性化させる。受容体が活性化すると、一酸化窒素が分泌されて血管を拡張し、その結果、血流量が増加し、炎症が軽減し、血小板の凝集が阻害され、コレステロールのプラーク(粥腫:じゅくしゅ)の形成が抑制される。
ミラー氏は2005年の研究において、被験者20名に笑える映画と悲しい映画を見せ、前後の血流量を測定した。悲しい映画を観た後では、20名中14名の血流量が減少した。一方、笑える映画を観た後では、血流量は平均22%増加した。
「一番良いのは、涙が出るほどの笑いだ」とミラー氏は述べる。著書『Heal Your Heart: The Positive Emotions Prescription to Prevent and Reverse Heart Disease』(心臓を癒す:心臓病を予防、改善するポジティブな感情の処方箋)を9月にローデル社から刊行予定のミラー氏は、30分以上の運動を週3回以上行うことに加え、1日15分笑うことを推奨している。
◆大笑いすべし
笑いやユーモアに関する研究が得られる資金は非常に少ない。ウェスタンケンタッキー大学看護学部長のメアリー・ベネット(Mary Bennett)氏は、笑いが免疫系に及ぼす影響を研究しようと思い立ったとき、資金を集めるのに苦労し、他の研究室からガラス瓶などの実験用具を借りてこなければならなかったという。「笑いの研究を真面目に受け取ってもらうのは至難の業だ」とベネット氏は述べる。
しかし、2003年に発表されたベネット氏の研究では、健康な女性33名に笑える映画を見せた結果、ナチュラルキラー細胞の活性レベルが上昇し、病気と戦う細胞の能力が高まった。ただし、この効果は大声で笑った被験者にのみ生じ、静かに映画を楽しんだ被験者にはみられなかった。
そのほか同じく実験によって、関節リウマチ患者の血液中の抗炎症因子が笑いによって向上することを示した日本の研究もある。
しかし、笑いと健康に関する研究のほとんどは、科学的根拠ではなく主観に基づく研究であり、笑いが健康に良いとする説を否定する結果も一部出ている。うつ病の高齢女性70名を対象にした研究では、被験者の主観的な生活満足度に基づいて、ラフターヨガ(笑いとヨガの呼吸法を組み合わせたもの)には運動療法と同等の気分の改善効果があると結論づけている。また笑っている間に限られるが、ユーモアや笑いは筋肉の緊張を高めると考えられ、一部研究では、よく笑うとストレスホルモンが減少することが明らかになっている。しかし、それ以外の研究では、笑いはストレスホルモンに影響を及ぼさないとの結果が出ていると、ベネット氏は関連研究を調べたレビュー論文の中で述べている。
とはいえ、新聞のマンガや面白いジョークで笑ったり、「マルクス兄弟」のコメディ映画を観たりすることは、たしかに健康に良さそうな感じがする。しかし、もっぱら笑いを研究し、関連文献を読み漁ってきたベネット氏は、笑いに病気を治す、または予防する効果があるかとの問いに対して、きっぱり「ノー」と答える。
それでも、「実際の治療を助けるものとして笑いは有効だと思う。化学療法などのつらい治療を受ける間、正気を保つ助けになってくれるものは何にせよありがたい」とベネット氏は述べている。
PHOTOGRAPH BY JOEL SARTORE / NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE