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若者が自信を失い続ける日本、その原因と対策

日本の若者は自分に自信がなく、将来に希望が持てない。
政府が3日に閣議決定した「子ども若者白書」で、海外と比べた日本の若者の姿が浮き上がった。
自信を取り戻すカギは、家庭や職場にありそうだ。
調査は昨年11~12月、日本、韓国、米国、英国、ドイツ、フランス、スウェーデンの計7ヵ国の13~29歳の男女を対象に実施。各国千人程度に自分や家族、社会に対する意識をインターネット調査した。
「自分自身に満足している。」と回答した人の割合は、日本が最下位で、45.8%、他国は全て70%を超えている。
「将来に明るい希望を持っている。」という人の割合も、日本の61.6%が最低で、他国は全て80%以上ある。
(6/4 朝日新聞)

日本人の若者の「自分に不満足」で、「将来に希望を持てない」心理状態、言い換えれば「自信のなさ」は、少し前から教育・医療業界では問題視されていた。

青山学院大学教授古荘純一(医師)が中心となった臨床医チームが、ドイツでつくられた「生活の質」判定尺度「Kid-KINDL」の日本版を適用し、「身体的健康」「情動的健康」などの項目と合わせ、若者の「自尊心」の在り方を2004年から調査研究している。
(「日本の子どもの自尊感情はなぜ低いのか」古荘純一/光文社新書に詳しい。)

この研究においても、冒頭の白書と同様、諸外国との比較では日本の若者の自尊感情のスコアは際立って低い。

また、身体的健康や情動的健康、人間関係など他の項目と比べても、自尊感情のスコアはかなり低く、しかも、小学校1年生から高校1年生に至るまで一貫して低下している。(スコアは小1が一番良い。)

古荘らが特に重点的に調査したオランダとの比較では、身体的健康度がオランダ78ポイント、日本73ポイント、精神的健康度はオランダ86ポイント、日本78ポイントに比べ、自尊感情のスコアはオランダ73ポイント、日本46ポイントと大きな隔たりがある。

古荘らはポイントの開きの原因の第一に家族の問題、第二に教育の問題を挙げている。

家族の問題の原因は単純で、子供が家族と過ごす時間がオランダに比べ、日本は圧倒的に少ない点が指摘されている。
(背後には日本男性の会社中心主義や男女の労働条件の差が見て取れる。)

教育システムの問題は、家族の問題ほど単純ではない。

日本とオランダの教育システムの大きな違いに、授業形態が生徒の進度や特徴によって学校や授業が選べる個別教育(オランダ)か一律に共通した教育を受ける一律教育(日本)か、という点がある。

その違いをオランダ側の条件を並べて検討する。(日本はその逆)

・移民が多く、学校の設立条件が緩いので、特色を持った学校(オルタナティブ・スクール)が数多くある。

・先生は教室に常駐し、職員室はない。(教師は教育に専従し、基本事務仕事はしない。)

・国の教育理念「インクルージョン」(=社会の成員が互いに受け入れあう)に沿って、教師ー生徒の垂直的な関係ではなく、受け入れあう関係を指向する。

最後の「インクルージョン」のイメージがわきにくいと思うので、具体例をひく。


生徒が体育の時間に「こういうゲームをやったらどうでしょうか」と提案したところ、先生の判断で「それでやろう」という結論に至った。この出来事を生徒は絵に描いて、ファイルに残し、後で皆に説明する機会が与えられた。

オランダでも今の日本のように一斉テストを課して、平均点を上げるような教育指向を70年代まで堅持しており、小中学生で多くの留年者を出していたが、大議論を経て、現在のようなシステムに変わったらしい。

日本の教育システムと欧州のそれを比較するために、哲学者の中島義道氏の子息がオーストリアの日本人学校(半年在籍)とアメリカン・インターナショナル・スクール(5年間在籍)で得た体験を記す。

日本人学校
・教室に入るとき「失礼します」と言わねばならないと教えられ、「なぜですか?」と尋ねると、先生に叱られた。

・「ボランティア活動をしたい人?」ときかれて手を上げなかった理由をきかれ、「ボランティアはしたい人がすればいいと思ったから。」と答えたら、とがめられた。

・放課後に1人でサッカーの練習をしていたり、1人で給食を食べたり、共同運航のスクールバスを利用しないと、問題視された。

アメリカン・インターナショナル・スクール
・放課後に1人でサッカーの練習をし、1人で給食を食べ、スクールバスを利用しないでいると、「面白い子ね。」と先生に言われた。

・人種差別的な発言をした(らしい)生徒を殴ったが、謝らずに、自分が正しいことをしたと主張した。殴ったことに対しては罰が与えられたが、校長先生は「ヨシは強い男だ。」褒めた。
(「非社交的社交性」中島義道/講談社現代新書より)

日本人学校での生活は半年でパニックになり、辞めて移った先のアメリカン・スクールの生活を気に入った彼は、もともとそういうタイプで、多くの日本人に該当するわけではないだろうが、導き手としての教育の方向性はやはり日本の今の一律型一斉型ではマズいのではないか、と思う。

OECDによる学習到達度調査(PISA)の成績が近年下がっているという結果を受けて、日本の教育システムはより一層一律型一斉型を促進しようとしているが、そういった「競争力」を上海やシンガポールと競うより、いかにして多くの日本の若者が健全な自尊心を持つことができるのか、に照準を合わせた方が良いのではないか。

なぜならば、当のPISAの報告書が指摘する通り、日本は「多くの国の労働市場からすでに消えつつある仕事の種類に適した人材育成を主に行っている、というリスクを冒している」、その元凶が一律型教育システムだと考えられるからだ。

前述の古荘らの研究では、「自尊感情スコア」は低所得・低学歴層と高所得・高学歴層との間に差はほとんどない。
彼らの多くは小中学生時に自分の限界を悟って(思い込んで)しまい、見えない未来に挑戦する気概を失している。

「自尊心が低く」「将来に対する希望がない」。

これでは、(子供の時点で)いくら読解力や科学的リテラシーが高くても、伸びシロには期待できないし、何より子供の人生にとって良い影響を及ぼさない。

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