【表面的な数字操作で現実を糊塗する政府のごまかし作法のセコサ】 

 ①「ニート 60万人に減少 子ども・若者白書『支援拠点が効果』」
   (『日本経済新聞』2014年6月3日夕刊「社会1」面)

 このニュース,② でひどいブーイングを受けるものとなるが,ともかくさきにその報道内容を聞いておこう。

 政府は2014年6月3日,2014年版「子ども・若者白書」を閣議決定した。15~34歳の若者で仕事も通学も求職もしていない「ニート」は 2013年に60万人で,前〔2012〕年に比べ3万人減少したことが明らかになった。この年代の人口に占める割合は0.1ポイント減の 2.2%だった。
 補注)「ニートの定義」 --ニート(英,NEET)とは,Not in Education, Employment or Training(ノット・イン・エデュケーション・エンプロイメント・オア・トレーニング),つまり,「訓練(教育)」を受けておらず,「職業(業務)」に「従事(就業)」していない,という字義である。要するに,ニートとは本来,「教育を受けていないがために,雇用されるに至らず,職業訓練も受けていない者」のことを意味する。

 内閣府は,「景気が改善傾向にあることにくわえ,ニートや引きこもりの就業,教育の支援拠点『地域若者サポートステーション』の数が増えたことが減少の要因ではないか」と分析している。

 年代別では15~19歳が9万人,20~24歳が15万人,25~29歳が17万人,30~34歳は18万人だった。求職活動や就業を希望しない理由に関し,15~19歳は「学校以外で進学や資格取得の勉強をしているため」,それ以外の年代は「病気やけがのため」がもっとも多かった。

 この記事,あまりにも問題のあり過ぎる,政治側の恣意的な統計のあつかいが指摘される中身であった。4日後になると早くも,つぎのような強烈な批判が登場していた。

 安倍晋三政権は,経済面のみならず政治面でも問題だらけの施策を強行してきた。この首相になった人物,まさしく要注意人物であることを,ますます鮮明にしつつある。いまとなっては,そもそもアベノミクスそのものが中途半端に終わっている。それが,日本経済全体に好ましい経済政策であるのかどうかさえはっきりしない。いまでは竜頭蛇尾の展開模様を呈しているところである。

 このところやかましてく騒がれている集団的自衛権行使の問題は,この首相が高村正彦自民党副総裁や石破 茂自民党幹事長などと「軍国主義者として三馬鹿トリオ」を組んで,ひたすらその軍国主義の復活に鋭意努力中である。とりわけ若者は気をつけねばならない。

 それも自衛隊3軍に勤務している者たちは,早めに転職の道をさぐったほうが賢明である。命あっての物種という意味は,戦地で死んで〔殺されて〕からではもう遅いことを,いまから肝に銘じておきたい。

 経済政策に関する重要課題のひとつとして,若年層労働者の就業問題があり,その具体的な解決課題が「ニート人口の減少」があるわけであるが,この課題について政府当局がみかけ倒しの詐術的な統計観でもって,ニートが減少していると主張した。

 ところが,これに対してたちまち批判が巻き起こっていた。それが,つぎの ② に紹介する文章である。こちらのほうが実相(事実・真実)により接近した説明になっている。安倍晋三は自分の政権のときに,いかに自身がりっぱな仕事をやっているかの実績造りを,この方面でも詐術=ゴマカシの手法を動員してでっち上げようとしている。

 ②「政府発表『ニート3万人減少』に批判大殺到」
    (livedoor ニュース『BLOGOS』の「キャリコネ・企業インサイダー」欄,
     2014年06月07日,07:00)

 この記述は,政府が発表した「ニート3万人減少」という見解に関して,以下のように強烈な批判・非難を披露していた。「しょぼいごまかし」「手柄を捏造するな」という手厳しい指摘である。

 a) 政府は6月3日,2014年度版の『子ども・若者白書』を閣議決定した。新聞各紙は白書の内容を「ニート減少」と報じたが,若いネットユーザーを中心に「しょぼいごまかしだ」と大批判されている。

 この白書によれば,15歳~34歳の「若年無業者」は約60万人。前〔2012〕年度に比べて3万人減少したという。内閣府は日経新聞に対し,ニートが減少した理由について「景気の改善傾向」と「地域若者サポートステーション(サポステ)が増えたこと」とコメントしている。

 だが,本当のところは「高齢化による自然減」が実態ではと指摘されているのである。その結果に対して殺到しているのは,『白書』の記述が実態とかけ離れているという批判である。統計では若年無業者の集計対象が34歳までになっていることから,この基準が「自然減」をもたらしただけだという。

 ★「まず昨年まで34才だったニートの数を,勘定したらどうですか」。
 ★「(減ったのではなく)35歳超えただけだろ,いい加減にしろ」。

 たしかに15~34歳人口に占める若年無業者の割合は,2014年度(2013年度中の意味)で2.2%なので,前〔2012〕年度の2.3%と比べて0.1ポイントしか減少していない。

 今〔2013〕年度に15歳になる人口は118万人しかいないが,35歳になる人口は161万人と40万人を超える差がある。やはり「国の政策のおかげでニートが減った」といういいぶんは「手柄の捏造」といわれてもしようがない。
 補注)政府の関連統計では,女性を「15~24歳」「25~34歳」「35~44歳」というふうに年齢階級を区分しているが,いまここで話題になっているニートの数字では,35歳以上を除外しているのだから,高齢社会になっている日本社会のなかでは,これに応じた統計のとりあつかい(対応・処理)が必要であるにもかかわらず,35歳以上を無視している。つぎの図表は政府の統計で作成された図表である。
30歳未満人口統計
出所)http://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/h26gaiyou/pdf/b1_01.pdf

 --現状は若者人口が減少しているゆえ,ここから35歳以上を削除していったら,これからもニートの比率もそれに応じて減少していくという「予定・みこみ」しかありえないことになる。しかし,それでニートの問題が解消されていくわけでないことは,むずかしい説明をくわなくとも,常識次元で理解できるはずである。

 統計学(統計手法)は社会科学的な見地で利用・応用される学問であるが,ニートの統計的な観察がその足元からして詐術的に使おうとしているとすれば,これはまやかし・ゴマカシだと批判されて当然であり,以上に示されたごとき指摘・批判は回避できない。

 結局,現実を糊塗する方法として,「統計のあつかい」が故意に,特定の意図に向けて措置されているとしかいいようがない。あるいはまた,為政者が自分たちの政策のまずさを意図的に隠蔽するための統計操作をしているというほかない。

 b) さらにもうひとつ,激しい批判にさらされているのが,内閣府が改善理由にあげている「地域若者サポートステーション」の効果だ。ネットの声は,

  ★「こんなものクソの足しにもなっていない。完全な税金のムダ」。
  ★「あそこ結局,仕事は紹介してくれないし」,
     仕事はハロワ(ハロー・ワーク:職業安定所)で探せっていわれるし」。

など辛らつきわまりない。「こんな無意味な大本営発表載せた新聞も同罪」と日経新聞にまで批判が及んでいる。
カエルの面に小便画像 補注)『日本経済新聞』に対してこの種の批判は「カエルの面になんとか」で,政府寄りの姿勢は一貫している。安倍晋三の応援団の1員にあまり期待するのは禁物である。
 出所)右側のややワイセツチックな画像は,http://hoppykosey.exblog.jp/iv/detail/index.asp?s=16585500&i=201210%2F14%2F88%2Fa0163788_1374669.jpg 小さめの画像として引用。

 NPOも「バカバカしいルール」と呆れる。

 「地域若者サポートステーション」とは,厚生労働省が2007年からスタートさせた制度だ。働くことに悩みを抱えている若者に対し,厚労省が認定したNPO法人,株式会社などが全国160か所で運営をおこなっている。

 セミナーやキャリア相談などで働くことに自信をつけてもらい,就業してもらうのが狙いだ。投じられている税金は,年間30億円を超える。

 しかし致命的な問題点は,サポステでは職業紹介ができないことだ。サポステで訓練を受けたニートの人が,公的な職業紹介支援を受けようとした場合,ハローワークにいくしか方法はない。しかし職歴のある求職者が多いハローワークでは,ニート歴のある人は不利になりやすい。

 『週刊プレイボーイ』2014年6月2日号では,「サポステ」を運営するNPOの代表がこうボヤいている。

 「付き合いのある地元の企業から『求人あるけど,誰かいない?』と声をかけてもらっても『ハローワークに(求人を)出してください』と返すしかないんです。目の前に紹介したい若者と,紹介してほしがっている企業があるのに,厚労省の方針で,それが禁止されている。バカバカしいルールだと思います」。
 こうした障壁が影響しているのか,サポステの実績も芳しいとはいえない。最新のデータ(2012年4~8月)では,来所者数約20万人に対し,就職等進路決定者は5946人(約3%)にすぎない。これで「ニート減少」の手柄を主張するのは,あまりにも図々しいというものではないか。
 註記)http://blogos.com/article/87991/

 語るに落ちるような話題を,安倍晋三政権は『子ども・若者白書』のなかで空宣伝している。若者ニート層が本当に「事態が改善されている」,と実感できるような雇用改善の傾向が出てこなければ,非正規労働者は増えていくし,ニート層も実質的に減少させえず,むしろ今後においても増大する可能性のほうが強い。

 昨今の労働経済構造において,それも小手先の統計操作のごまかしでもって,ニート人口が減少していますといったところ,いったいなんの意味があるのか? そして,現実の労働経済においていかほどの好効果が具体的に期待できるというのか?

 それに,非正規労働者層をみると,世代(年齢層)を通して平均では,女性が50%以上,男性が20数%台あり(後掲の『日本経済新聞』記事から参照した図表2点,「非正規労働者の比率」「15~34歳人口に占めるニートの割合」も参照),この男女全体の総平均値として,非正規労働者の比率が38%を超えるまでの比率になっている。

 ニートの問題は実は,この非正規労働者の背景にあって,その核心にまで連なる重大な社会的な労働(者)問題である。だが,前述のようにいじられた関係の深い数値(ニート人口統計値)が,ただみかけでのみ減少させられたからといって,国民を喜ばすことができると思うのは,大間違いである。それは短見どころが,3流手品師の〈へたな詐術〉でしかない(→マジックなどにはなっていない)
非正規労働者統計
 出所)http://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h25/zentai/html/zuhyo/zuhyo01-02-09.html 
 
 この図表では,青色の25歳から34歳の範囲における「数値,女性41.0%,男性15.3%」(平成24:2012年)に注目したい。この年齢層(青線)の場所に注意すると,男性では真ん中より下のほうに位置している。女性では一番下に位置していても,この非正規労働者の比率は,まだ41.0%もある。この数値が物語るのは,非正規労働層のなかにさらに「男女の差別的な処遇」という要因も含まれている事実である。これが先進国だといわれる日本の「労働経済」の現実の姿である。
 ちなみに,『日本経済新聞』が2013年7月13日に報道していた記事「非正規社員比率38.2%,男女とも過去最高に」は,冒頭部分でこう伝えていた。

 パートやアルバイトなど非正規社員として働く人が増えている。総務省が〔2013年7月〕12日発表した就業構造基本調査では,役員を除く雇用者のうち非正規社員は全体で約2043万人となり,初めて2000万人を突破した。比率も38.2%と過去最大を更新した。産業構造がパート比率の高いサービス業に転換していることなどが背景にある。
 註記)http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS1203R_S3A710C1EA1000/
 『日本経済新聞』2013年7月13日速報1『日本経済新聞』2013年7月13日速報2
 このところ,とくに東京の都心分ではアルバイトの時給が上がり,一部の外食産業では人手(アルバイター)不足で営業を一時停止せざるをえない店舗もあった。しかし,大都市を少し離れて地方都市にいけば,たとえば日曜日に配達される新聞にたくさんはさまれてくる求人チラシに出ている雇用関条件(時給)の内容を逐一観察してみると,アルバイトやパートの時給に顕著な変化(上昇)がみられるわけではない。

 ③「結婚できない年齢層は,男性では40歳台」にまでなっている

 『朝日新聞』2014年6月2日朝刊「声」欄に,「薄給で結婚できない子どもたち」という投書が採用されていた。山口綾次(無職,埼玉県 74歳)のことばである。

 44歳の息子と39歳の娘がいます。2人とも未婚です。結婚できない一番の原因は,長時間労働と低賃金にあるのではないかと思います。

 2人とも給料の話などしませんが,偶然,2人の給料明細をみてびっくりしました。ともに民間会社の正社員ですが,基本給は10万円そこそこなのです。東京に住む息子が生活できているのは,残業代が出るのと寮に入っているからです。会社では中堅で,海外へ販売にもいきます。それなのに安い給料なのです。

 息子はこれまでに2度,結婚相談所にいきました。月給を話すと,渋い顔をされたそうです。「俺は結婚を諦めた」と息子はいいます。朝早くから夜遅くまで働いて,やっと自分の生活を支えているのが現状です。それなのに,数万円のボーナスが出ると,私たち夫婦に小遣いをくれるのです。

 娘の生活は,兄以上に大変なようです。弁当を作って生活費を切りつ詰めています。仕事の責任は重く,長時間労働なのに残業代は出ません。お金と時間,心のゆとりがあって結婚に結びつくと思いますが,娘にはすべてが欠けています。

 昔はお見合いの相手を探してくれる世話好きの人がいましたが,そんな社会は崩壊しています。妻は「2人のことを思うと眠れず,涙がこぼれることがある」といいますが,子どもたちは老いてゆく私たちのことを心配しています。

 私たち家族のような人が少なくないのが,この国の大きな問題だと思います。このままでいいのでしょうか。私たち夫婦は孫を抱けないのでしょうか。
 政治家も学究も「日本は人口減少の時代に入った」といって問題視しているが,出生率もろくに上げえないままの,いまの政府の無策(結果)である。アベノミクスや集団的自衛権行使の問題も大事なのかもしれないが,それ以上に深刻な国内の現実問題に,安倍晋三は本気でとりくむつもりはあるのか?
出生率画像
出所)http://minato.sip21c.org/maternalchildhealth.html

 2013年における日本の出生率は,前年の1.41から1.43に上昇し,17年ぶりに回復したという。けれども,その出生数じたいは,全国で102万9800人であり,こちらの数値そのものはなお減少しつづけている。

 --つぎの記事「出生率1.43 2年連続微増 昨年,30~40代の出産増」は,『朝日新聞』2014年6月5日朝刊から引用するものである。

 2013年の合計特殊出生率は1.43で,前年を0・02ポイント上回った。厚生労働省が4日公表した人口動態統計でわかった。上昇は2年連続だ。ただ人口が維持できる水準には遠く,今後も減少に歯止めがかかりそうにない。

 ★出生数は最低を更新。--出生率は1970年代前半の第2次ベビーブームまで2以上の水準が続いた後,減少傾向に転じた。2005年には過去最低の1.26になり,その後はわずかながら上昇傾向が続く。

『朝日新聞』2014年6月5日朝刊 2013年の年代別では,20代は下がる一方,30代以上は上がった。人口が多い団塊ジュニア世代が30~40代で出産する晩産化傾向が背景にある。

 一方,2013年に生まれた子の数は102万9800人で,前年より7431人減って過去最低だった。結婚したカップルの数も66万594組で戦後最少だった。

 死亡者数は126万8432人で,高齢化で前年から1万2073人増えた。出生数から死亡者数を引いた人口の自然減数は23万8632人で過去最多だ。 

 国立社会保障・人口問題研究所が2012年に出した人口の将来推計では,出生率が1.35前後で推移した場合,2060年の人口は約8600万人に減る。安倍政権はいま,人口減を食い止めようと躍起だ。経済の活力が衰え,社会保障制度の維持も難しくなるからだ。

 昨年には保育所や小規模保育の定員を2017年度末までに40万人分増やす対策をまとめた。来年から始まる「子ども・子育て支援新制度」でも待機児童解消と保育の質向上に力を入れ,子育て支援の充実を進める。

 ただ,子どもを産むかどうかは個人の生き方と密接に結びつく。内閣府の有識者会議「少子化危機突破タスクフォース」は,出生に関する数値目標を定めるかどうか話し合った。だが「国が出産を押しつけると誤解されかねない」との慎重論が出て,結局,提言には盛りこまなかった。

 経済的に結婚したくてもできない人も多い。内閣府が今年公表したアンケートでは,未婚男性の55%,未婚女性の37%が,若い世代の未婚や晩婚が増えている理由として「経済的に余裕がない」ことをあげた。

 中央大学の山田昌弘教授(家族社会学)は「経済的不安を抱える男女は子どもを育てたいとは思えない。ただ子育て支援や出会いの場を作ればいいということではなく,正規と非正規社員の収入格差をなくすことや,仕事と子育てを両立できる環境を整える対策が重要だ」と指摘する。

 ◆キーワード〈合計特殊出生率〉。--1人の女性が生涯に産むとみこまれる子どもの数。その年の15~49歳の女性が産んだ数をもとに算出する。2.07が人口を維持できる水準とされ,将来の人口が増えるか減るか見通すための重要な指標となる。

 さて,アベノミクスが出生率の増大に,まともに関心があるように映ってはいない。これだけははっきりしている。前段では「子ども・子育て支援新制度」などを充実させると強調されている。

 だが,その前にそもそも,若い男女を中心に結婚をしたくともできない・しにくい,だから子どもを儲けることにもつながらない,とでもいったらいいような,「この国においていま,若い男・女たちを囲む経済・社会状況」がある。

 この状況じたいに変化をもたらすには,10年単位での取組が必要であるが,はたして,そのために必要である「なにかの社会政策」が,具体的にとりくまれているのかといえば,これがない。そのうちに日本の総人口は目にみえて減少していく。

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