June 9, 2014
ハワイのオアフ島とカウアイ島に生息するオスのコオロギたちは、10年前から不思議と沈黙するようになった。今回、その理由が研究で明らかとなった。
原因は、オスのコオロギの鳴き声に引き寄せられる寄生バエの一種(学名:Ormia ochracea)だった。ハワイでは比較的新しい種類のハエである。スコットランドにあるセントアンドリューズ大学の進化生物学者で研究を率いたネイサン・ベイリー(Nathan Bailey)氏は、ハエの到来後、二つの島のコオロギの翅に遺伝子変異が生じ、鳴く能力が失われたとしている。沈黙を守ることで、ハエのディナーと化すのを防いでいるのだ。
「Current Biology」誌オンライン版に5月29日付けで掲載された今回の研究によると、この変異はオアフ島とカウアイ島でそれぞれほぼ同時期に生じたもの・・・
原因は、オスのコオロギの鳴き声に引き寄せられる寄生バエの一種(学名:Ormia ochracea)だった。ハワイでは比較的新しい種類のハエである。スコットランドにあるセントアンドリューズ大学の進化生物学者で研究を率いたネイサン・ベイリー(Nathan Bailey)氏は、ハエの到来後、二つの島のコオロギの翅に遺伝子変異が生じ、鳴く能力が失われたとしている。沈黙を守ることで、ハエのディナーと化すのを防いでいるのだ。
「Current Biology」誌オンライン版に5月29日付けで掲載された今回の研究によると、この変異はオアフ島とカウアイ島でそれぞれほぼ同時期に生じたもので、結果として珍しい急速な収斂進化が起きたという。
「このような現象を現地で目の当たりにすることは稀だ。まさに今起きている進化を目撃していることになる」と話すのは、デンバー大学でコオロギを研究する進化生物学者ロビン・ティンギテッラ(Robin Tinghitella)氏。同氏は今回の研究には参加していない。
◆歌から沈黙へ
コオロギは、ハワイを含む南太平洋一帯に移住した古代ポリネシア人によって持ち込まれた。
オスは末端が鋭いやすり状になった一方の翅を、もう一方の翅の筋にこすりあわせて音を発する。
翅の特殊な構造で音が共鳴し、メスが魅力的なオスに引き付けられるという仕組みだ。オスの鳴き声には、攻撃性の誇示といった別の機能もある。
ところが、正確な時期は不明だが、コオロギがハワイに持ち込まれた後のある時点で寄生バエが到来した。
ハエの幼虫は、鳴き声を頼りに見つけたオスのコオロギの体内に潜り込み、内側からコオロギの栄養に満ちた体を食べて成長する。1週間もするとコオロギは死に、成長したハエは飛び立っていく。
◆新たな戦略
ベイリー氏の研究チームは、オアフ島とカウアイ島のコオロギの翅に見られる形の変化を調べた。すると、個体群によって変化の仕方がわずかに異なり、ゲノムの異なる箇所に変異が起きていたため、ベイリー氏は変異が二つの島で別々に起きたものと確信している。
「鳴く能力の喪失は、行動力学に大きな変化が生じることを意味する」と同氏は指摘する。例えば、鳴くことのできないオスは、メスとの出会いが困難になるかもしれない。
しかし興味深いことに、沈黙したオスには戦略がある。まだ音の出るオスにたかればよいのだ。
ベイリー氏によると、「カウアイ島のオスの約5%、オアフ島のオスの約半数は未だ変異していない」という。
鳴けないオスにとっての頼みの綱は、音でメスを引き寄せるライバルたちだ。鳴くオスを見てみようとやってきたメスに、沈黙したオスは飛びかかる。
無口だが頼りになるタイプ、とでも呼ぼうか。
Photograph by Nathan Bailey