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検証されない仮説によって法律、規制をつくるべきではない~自民党橋本岳議員・法務委員会質疑書き起こし

6月5日衆議院で可決された「児童買春・ポルノ禁止法改正案」。この本案については、6月4日の衆議院法務委員会で議論が行われていた。この中で漫画、アニメ、CGなどに関する規制に積極的な態度を示した自民党・土屋正忠議員の質疑が大きな注目を集めた。一方、同じ自民党の中でも橋本岳議員は規制に対して、消極的な態度をとっている。土屋議員の直後に行われた橋本議員の質疑の一部を、衆議院インターネット審議中継から書き起こしでお伝えする。

※可読性を考慮して表現を一部整えています。審議中の法案はこちら→ 衆法 第183回国会 22 児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律案

検証されない仮説によって法律、規制をつくるべきではない

衆議院インターネット中継より
橋本議員は、本法案の作成に携わった関係者に謝意を述べて質疑をスタート。最初に法案内の用語や表現に関する質問を行い、その意味の確認を行った。その後、質疑時間の中盤から、漫画、アニメ、CGなどに関する規制ついて、自らの考えを語りだした。

橋本岳議員:漫画、アニメ、CG等について私なりの思いを申し上げさせていただきたいと思います。決して、さっき土屋先生が挙げられたような事例が繰り返されるべきではない。私もそのように思います。私も娘を持つ親でございますから、当然自分の子どもたちがそんな目にあったらどうなるか、どう思うか。こういうことは痛いほどわかるつもりであります。また世の中には、目を背けたくなるような写真だけにとどまらず、漫画、アニメ、CG等もある。あるいは、インターネットを検索すれば、そんなものいくらでも出てくる。そういうことも承知をしておりますので、これをそのままにするのはどうなのか?という問題意識は私も共有するものであります。

ただ、これは立法者の私なりの矜持の一つとして、やはりきちんと検証されない仮説によって法律、規制をつくるべきではないと私個人としては思っております。先に撤回された改正案の附則ではですね、このように書いてありました。
第二条 政府は、漫画、アニメーション、コンピュータを利用して作成された映像、外見上児童の姿態であると認められる児童以外の者の姿態を描写した写真等であって児童ポルノに類するものと児童の権利を侵害する行為との関連性に関する調査研究を推進するとともに、(以下略)
こういうことになっておりました。従いまして、この条文上、いいのか悪いのかという価値判断はしないのだと。ただ、関係性があるのかないのか、調べるのだ、調査研究をするのだ。それは政府がやるのだ。こういう規定になっておりました。

ということはですね、土屋議員がおっしゃたりたかったことというのは僕はよくわかります。そうした犯罪をした人の家宅捜索をしてみたら、児童ポルノの類の映像、漫画等が一杯あった。あることでしょう、きっと。そういうことがケースとして当然あったということは充分に承知しております。そして、もしからしたらその犯人は、そういうものを見て、「犯行をしたい」と思ったいうこともあり得ることだろうと充分に思います。

その上で、しかしながら、じゃあ児童ポルノ、漫画、アニメ等を規制をすれば、児童に対する権利の侵害が減るのか。これが減るということが立証されれば、それは「規制されるべきだ」という話になるわけですけれども、その因果関係を立証するというのは、実はそんな容易なことではないと個人的に思っております。

私も、議員になる前は調査屋さんでしたので(※編集部注:橋本議員はシンクタンクに勤務経験がある)、社会調査屋さんの一人としてですね、仮に私がそうした研究をしろと言われたときにどうするのか、ということを考えています。まずその児童の権利を侵害する行為をすること、あるいはそうしたことをした人、する人とその児童ポルノ等の漫画等が相関関係があったということが前提として必要です。

その調査はすごく難しいですね。なぜか。犯罪をした人は、家宅捜索されますから、そこに何冊漫画があったとか、こういうポルノがあったとかいうことはわかります。だけれども、それをいくら積み重ねても相関関係を立証できません。というのは、要するに「犯罪をしない人」、ごく一般の健全な方が、どのくらいそういう類のポルノ、漫画を持っているのか、という比較をして差がないと相関関係の立証になりません。

要するに、犯罪をする人のことは、当然新聞報道になりますから、「こういうことがあった」「ああいうことがあった」とみんなそういう印象を持ちます。それは間違いなく、そういう人もいると。だけれども、もしかしたら、もしかしたらというか僕は充分蓋然性のあることだと思いますが、別段犯罪を犯さない、健全な社会人として生活をしている人だって、もしかしたらそういった本を個人で楽しんでいる人というのはいるかもしれない。

別に本屋で売っているものです。成人であれば買えます。それを個人で、自分の部屋で眺めて楽しんでいる分には、なんら法規制をする社会的な害悪がある行為ではない。ということでありますから、じゃあその人たちについて、どうやって「あなたは何冊、ポルノの類の漫画を持っているんですか」、これは家宅捜索するわけにはいきません。アンケートして調査票にそんな質問を書いたって、真面目に答えるかどうかわからない。センシティブクエスチョンという言い方をしますけれど、その回答が信頼性がどのくらいあるか、ということが疑われる。

仮にここで「ふくだ峰之先生、何冊持っていますか?」と聞いて、もしかしたら正直にお答えになるかどうか、それはわかりませんけれども。いや、福田先生はきっと正直にお答えになると思いますが、ただ、それが本当に正しいかどうか検証する術が誰にもない。

従いまして、その相関関係があるかどうかの調査そのものが非常に困難だということがあります。そして、仮に相関関係があった。犯罪を犯した人の方が、例えば児童ポルノの漫画をたくさんもっている、ということが立証されたとします。だけれども、今度はこれが因果関係なのか相関関係か。そこの判別がまた一苦労であります。要は単に相関があったとしても、実は別の原因があって、その原因によって漫画も好きだったし、犯罪もしてしまうことになった。ということであれば、仮に児童ポルノの類の漫画を規制をして世の中かなくすということをしても、犯罪は減らないということになります。そうかもしれません。わかりません。

社会科学的裏づけのある有効な規制にする必要がある

橋本岳議員:ですから、そうした可能性をどうやって排除をするのか。これはじゃあ時系列的に見ていこうとか、いろいろと社会調査、社会科学の方法論の中で検討していかなければなりませんけれども、なかなか容易なことではございません。きちんと慎重な手続きにそって結論をだしていかなければならない。まさにセンシティブな問題だと思っています。したがって、私は、自民党内の議論の時に、「どういう調査を考えているんですか」ということを質問しました。

そのときには、ちょっと正確ではないかもしれませんけれども、「まだ具体的な想定をしていません」といった類の返事が返ってきました。だから、私は「この項目は削除すべきだ」ということを党内で申し上げました。自然科学においてですね、あるものが存在するかどうか、立証するというのは一例存在すればよい。「STAP細胞はある」と言っていることが、今のところ本当かどうか立証されていませんが、誰かが一例実験に成功すれば、あるということになる。それが自然科学です。

ですが、社会科学は実験ができない。その中でどうやってやるか。調査とか観察とかいろんな手段があるのであって、そうした厳密な手順を踏まないと、統計と言うものは容易に判断できない。「統計は嘘をつく」というまさにそういったタイトルの本がありますけれども、作る人も読む人もきちんともっともらしい統計だとか、そういうものというのは疑って考えないといけないと私は経験的に思っていますし、それを作るという立場になったとしても非常に慎重なことが必要です。その上で、初めて結論が出せることだと思っています。

結論が出て、それで規制をしようというのであれば、僕はもう諸手を挙げて賛成をします。しかし、現行ではそういう調査をしようと法律に書くというのが最初の提案でございましたが、その日本の社会と言うのは、パトカーが家の前に止まっているだけで、「あの家何かあったの?」と言われるようなところがございます。法律に、法律そのものにいい悪いということの価値判断は書いていないとしても、法律に書いてあるということで、まぁ創作者が萎縮するかどうかは、それは創作者の問題ですけれども、少なくとも周りの人はそう思う。

私は規制をするのであれば、きちんと社会科学的に裏づけのある、有効な規制をしなければならない。そうではない規制というのは、国会として立法府として、つくるべきではないと思っておりますので、今回そういうことをはずすべきだと申し上げました。

今申し上げた点について、どう思うか。それからもう一つ、あわせて質問をします。ただ、いままで縷々「こうした規制をはずすべき」だと話をしましたが、そうかといって、今のままずっと放置しておいていいのか、と言われると私も必ずしも、まったくもう放置したままでいいんだと断言する自信もございません。正直言って。本当に目を覆うようなものもあるということも認識をしておりますし、土屋委員のおっしゃりたかったこともよくわかります。

だとすれば、それを今後、別に法律に書かなくても調査検討すればいいのですから、されるべきかもしれませんし、自主規制という言葉でましたけれども、そうしたこともあるべきかもしれません。こういったこともあわせて、提案者から一言いただきたいと思います。

ふくだ峰之議員:橋本委員のご指摘は、まさ実務者協議における基本的な考え方と同じ方向を向いていると思います。本改正案はあくまで実在する児童の権利保護のためのものであって、仮説に基づく判断による立法は似つかわしいと思っておりません。一つの個別事件を一般論として判断するのではなく、科学的に検証された際には、本改正案の対象である実在する児童の権利保護とは別の問題としてですね、取り扱う必要があるのではないかと考えております。

あとですね、この漫画、アニメ、CGを今回検討事項からはずしたからといって、何をやっても良いということでは決してないんだと思います。「表現の自由」は民主主義国家の運営において、もっとも大切な国民の権利である事は間違いありません。だからといって、何を表現してもよいと言うこととは異なるんだろうと思います。児童ポルノに類する創作物は、創作者あるいは関係団体等のまずは自主的によって対応すべきものであると言うことを認識をしておるところでございます。

橋本岳議員: ありがとうございました。この法律によって、児童の権利の侵害の被害が一軒でも減ることを願って、質問を終わります。

出典:衆議院インターネット審議中継

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