NEXUS アーティスト・インタヴュー:Base Ball Bear 「僕は真ん中でいたいとずっと思ってた」――アルバム『二十九歳』と2014年の時代を巡る対話
Base Ball Bearが約3年ぶりとなる新作アルバム『二十九歳』を完成させた。
前作『新呼吸』以降、ベスト盤のリリースを経て、2枚のミニアルバムで岡村靖幸、ヒャダイン、ライムスター、花澤香菜など多彩なアーティストとのコラボを繰り広げてきた彼ら。キャリアの総括、そしてギターロックの可能性を押し広げるようなチャレンジを経て、作り上げたのは自分たちの現時点の年齢をタイトルにした16曲入りの大作だった。バンドのアイデンティティを再び掲げるような壮大な一枚だった。
アルバムのキーワードは「普通」だという。一体どういうことなのか? 話を訊いた。
取材・文=柴那典
“光蘚”と“魔王”は自分の本心のところから来ている曲
――新作、すごいアルバムだと思います。気迫とか魂とか、そういったエネルギーがこもっている。
- 全員
- ありがとうございます。
――このアルバムの制作はどういったところから始まっていったんでしょう?おそらく、ある程度全体像があって作っていったアルバムなのではないかと思うんですけど。
- 小出
- 全体図という感じじゃなかったですね。ラストの“光蘚”“魔王”“カナリア”が決まっていて、あと頭が“何才”“アンビバレントダンサー”で始まるという、そこだけは決まっていたと思います。
――前にNEXUSでインタビューさせてもらった時、“光蘚”という曲の存在が大きいという話をしてましたよね。この曲は、実際にアルバムを作るにあたっても大きなきっかけになりましたか?
- 小出
- そうですね、“光蘚”が先にできていたから目標が作りやすかったというか、やっぱりこういう曲の有無でアルバムの濃さって決まるじゃないですか? 自分の一番芯の部分というか、すごく深い所から出てきた曲が先にできたので、そういう意味ではちょっと楽だったかも知れないですね。一つ荷物少なめで出発することができたみたいな感じです。
――となると、“光蘚”という曲がアルバムの最後に重要なパーツとしてある。そこに向けて潜っていくようなアルバムを考えたということ?
- 小出
- いや、“光蘚”がアンサーだとは思っていなくて、曲の性質として他の曲と決定的に違うんです。それは、“光蘚”と“魔王”は自分の本心のところから来ている曲で、他の曲は一歩引いている曲なんです。かといって、そこに向かって潜っていくというわけではなくて。
「説明しない」ということがコンセプト
――じゃあ、このアルバムを作る上でどういうコンセプトを目指していった?
- 小出
- それは「説明しない」ということなんです。
――説明しない。というのは?
- 小出
- まず、前作の『新呼吸』を作り終わって、あれがバンドの一つの到達点になった手応えがあって。だから、同じことをやるのもどうかと思ったし、バンドとして、僕個人として、何を歌うのか、何をやるのかということをずっと考えていて。その更新にも時間がかかったんですよ。
――だから3年経った。
- 小出
- うん。で、今回のアルバムを作っていく中で思ったのは、まずは自分たちの作品の基本的なところにある考え方として、「気持ち良さそうで気持ち悪かった」とか、どっちか一方じゃなくて二つの要素が両方あるというあり方で曲を作っていることに気付いたんです。本当はどっちかに振り切る方が楽なんですよ。音楽だって映画だって、受け取る側にとってはコンセプトがハッキリしていた方がわかりやすい。
――そうですよね。共有しやすい。
- 小出
- でも僕は最初からそれをやってきていなかったんです。そういう考え方じゃなかったから。そういう風にずっとやってきたから「Base Ball Bearってどういうバンドなんですか?」というのを説明するのが難しいバンドになっていたんです。
―−なるほど。その意識は皆さん共有しているんでしょうか?
- 関根
- そうですね。してると思います。
- 小出
- アルバムの制作に入る直前に、スタッフとメンバー総出でミーティングをして。チーフマネージャーから「そろそろ『Base Ball Bearはこういうバンドです』というアルバムを作ってほしい」と言われたんです。でも、僕の中に振り切って何かをわかりやすく示すという選択肢が無いわけですよ。ずっと中間のところにいたわけだから。表現者として振り切った方がわかりやすいと言えばわかりやすいけれど、その真ん中の揺れというのは表現しちゃいけないのか?と思ったんです。ハイな状態とかダウナーな状態って、人間誰しも一時じゃないですか? 僕は真ん中でいたいとずっと思ってたし、なぜ振り切る必要があるんだろうって。
曖昧こそが本質だと僕は思っている
――これまで、Base Ball Bearはミニアルバムをリリースしてきたわけですよね。それは、ヒャダインさんとかライムスターとかのコラボを通して、バンドの切り取った一部分を見せてきたわけで。じゃあ全体像を見せるということで、じゃあどうする?という。
- 小出
- そうですね。やっぱり曖昧こそが本質だと僕は思っているんです。表と裏だけでは表現できない真ん中がある。それって「普通」ってことだと思うんですね。でも、その「普通」ということについて考察しだしたら、それはすごく曖昧なんです。モヤがかっていて、ブラックボックスで、でも、それをみんな「普通」として片付けている。真ん中って何なの?というのを「X」として記号化しているわけです。
――なるほど。「普通」ってなんだかわからない。
- 小出
- そういう普通を普通のまま、曖昧なまま定義付けすることなく、それにフレームをはめることもなく、そのまま描写しようと思ったのが、今回のアルバムの根底にある考え方なんです。
――なるほど。それは厄介だ。厄介なものに向き合いましたね。
- 小出
- 厄介ですね。でも、それがそもそもBase Ball Bearにとっての本質だと思う。最初から“ドラマチック”とか、そういうタイプの曲だけやっていたら、そういうバンドでよかったはずなんです。でも、それは僕らの中のかけらの一つではあるけど本質ではない。僕らは最初から厄介なんですよ(笑)。
――なるほど。そういうところが、このアルバムに気迫を感じた部分なんだなって思います。
- 小出
- はい。
本当に大事なのは現実なのに
――そしてこのアルバムって、“魔王”や“光蘚”の一人称の部分と、“The Cut”や“ERAい人”のように、時代のムードを象徴するような部分とを、表裏一体としてとらえているところがあると思うんですけれど、どうですか?
- 小出
- それは確かにあるかもしれないですね。
――そこの対比はどういうところから?
- 小出
- それも全て今回のアルバムの中のレイヤーになっているんですよね。個の視点があるのに対して、全体も入っているんです。それを交互にやることで、真ん中の部分も入っていく。
――なるほど。いろんな視点がある。
- 小出
- フィクションとノンフィクションとか、現実とゲームとか、そういう風にいろんなものが挟まっているんですよね。
――それを踏まえて、小出祐介という作家は、今という時代をどう見ている?
- 小出
- 時代が全体的にどうだこうだというのは、そんなに考えてはいないんですけど、僕はいつも言っているのは、SNSへの不満ですね。“The Cut”で歌ってることでもあるんですけれど、「TwitterとかFacebookとかで情報は多く得られるようになったけど、本当に大事なのは現実なのに」という。たとえばSNSに写真をアップしたいからカプチーノ頼むとか、それってもう本末転倒じゃないですか。お前が飲みたいものを飲めよ、という。
――ですよねえ。
- 小出
- 時代が変わっていくということに関しては僕らもそこについていくし、それをちゃんと捉えていこうとは思っているけど、でも「何かおかしくないか?」という思いがある。そういうスタンスは、この作品の中でも大きいかもしれないですね。
――“The Cut”はまさにそういう曲ですけれど、他の曲で言うと?
- 小出
- “Ghost Town”とかそうですね。僕は東京の小岩というところの出身ですけど、友達はみんな基本的に地元から離れないんですよ。みんなそうでしょ?
- 堀之内
- そうだね。
- 小出
- 僕はバンドを夢見て地元を出たけど、みんな普通のサラリーマンになってるわけですよ。夢なんて叶わないという空気感がある。24,5歳のころに小学校の同級生に会ったら、なんかみんなビール腹みたいになっていたりして。最初はそれを馬鹿にしてたんですけど、でも、よくよく考えてみたら、地元を出てアーティストみたいな生活している自分の方が、よっぽどおかしいのかなと思って。“Ghost Town”って、俺は向こうが幽霊だと思ってるけど、でも生きてる俺の方がよっぽど幽霊だったという感じの曲です。
Base Ball Bear
メンバーは、G&Vo小出祐介、B&Cho関根史織、G湯浅将平、Dr&Cho堀之内大介。 2001年、同じ高校に通っていた4人のメンバーにより、学園祭に出演するために結成。10代のころから都内のライブハウスに出演し、その高い音楽性と演奏力が大きな話題を呼ぶ。2006年、東芝EMIよりメジャーデビュー。 2012年1月3日、2年ぶり2度目となる日本武道館での結成10周年ワンマンライブを大成功させる。2013年2月13日、初のベストアルバム「バンドBのベスト」とシングル「PERFECT BLUE」を同時リリース。2014年6月4日、約3年振りとなるニューアルバム「二十九歳」をリリースする。
『二十九歳』
2014年6月4日(水)発売
完全生産限定盤(CD+DVD):
UPCH-29167 / 3,500円(税抜)
通常盤(CD):
UPCH-20353 / 2,931円(税抜)
【収録曲】
01. 何才
02. アンビバレントダンサー
03. ファンファーレがきこえる(Album Mix)
04. Ghost Town
05. yellow
06. そんなに好きじゃなかった
07. The Cut feat.RHYMSTER(Album Mix)
08. 方舟
09. The End
10. ERAい人
11. スクランブル
12. UNDER THE STAR LIGHT
13. PERFECT BLUE(Album Mix)
14. 光蘚(Album Mix)
15. 魔王
16. カナリア
[DVD収録内容(予定)]
・メンバーによる初の公式インタビュー
・2014年4月4日、TOUR「光蘚」ファイナルとして名古屋ボトムラインにて敢行されたBase Ball Bearによる最新ライブ映像 (収録曲未定)
■LIVE INFORMATION
「2014年秋ツアー」※タイトル仮
09月06日(土) 高崎club FLEEZ
09月07日(日) 水戸LIGHT HOUSE
09月13日(土) 岡山CRAZYMAMA KINGDOM
09月14日(日) 米子AZTiC laughs
09月16日(火) 京都磔磔
09月20日(土) 札幌PENNY LANE24
09月21日(日) 帯広Rest
09月23日(祝・火) 函館club COCOA
10月04日(土) 高松DIME
10月05日(日) 高知X-pt.
10月11日(土) 宮崎SR BOX
10月12日(日) 福岡DRUM LOGOS
10月16日(木) HEAVEN’S ROCK Utsunomiya
10月18日(土) 新潟LOTS
10月19日(日) 金沢AZ
10月25日(土) 広島CLUB QUATTRO
10月30日(木) なんばHatch
10月31日(金) Zepp Nagoya
11月02日(日) 仙台darwin
11月03日(祝・月) 盛岡CLUB CHANGE WAVE
11月07日(金) Zepp DiverCity Tokyo
11月11日(火) 下北沢GARAGE
チケット:4,167円(税別)
一般発売:7月12日(土)10:00