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CyberZによると2013年度のスマートフォンのゲーム市場規模は5,468億円に達し、2014年には6,584億円に達する事が予想されています。既に成熟したとも言えるこのモバイルゲーム市場ではいま何が起きていて、今年から来年といった近い将来どのような動きがあるのでしょうか。また、その次は一体どのようなビジネス展開が考えられるのでしょうか。ソーシャルゲーム制作の現場から、日本を取り巻く世界のモバイルエンターテイメント市場の現在と今後、次世代のモバイルエンターテイメントの世界とその先の未来を考察したいと思います。
スマートフォン・ネイティブアプリ市場は苛烈な競争状態へ
スマートフォン・ネイティブアプリ（以下、ネイティブアプリ）市場の主要各社の決算が出揃い直近の市場感が見えてきましたが、ガンホー・オンライン・エンターテイメント（以下、ガンホー）、コロプラ、LINEの３強で月200億円を超える勢いの売上を叩き出すなど、その勢いは止まる気配を見せません。アプリ自体の配信がAppStoreやGooglePlayなどのストアを介して個人でも行え制作者にとっては参入し易い一方、これまでプラットフォームや国境によって守られていた市場の壁が取り払われることで激しい乱戦が始まっています。
リッチな表現ができるようになったことで本格的なゲームも実現可能となりこれまでの「家庭用ゲーム機＋モバイル」や、「モバイル・オンラインゲーム」が実現しやすくなり、可能性は大きく広がりました。技術的にも家庭用ゲーム、オンラインゲーム、モバイルゲーム、ブラウザーゲームの企業がワールドワイドで同じ土俵で争うことになり、今後ますます性能、品質と費用対効果の高い企業が世界的に選別されていくことになるでしょう。
全てのユーザーはネイティブアプリへシフトしたのか
一方で全てのユーザーがネイティブアプリへシフトしてしまったのかというとそうではないようです。DeNA、GREEの決算書から概算すると、まだフィーチャーフォンで月50〜55億円程度の市場は残っており、スマートフォンのブラウザーゲームも月120〜135億円と同じブラウザーゲームを一緒に遊ぶ層として、減少はしつつも月に170億円前後の市場は維持されています。スマートフォンへ移行したユーザーもこれまでブラウザーベースのRPGやバトルゲームといったプラットフォームのコミュニティ機能を中心として遊んでいた重課金ユーザー層はネイティブアプリへその活動の拠点を移してはいないことがうかがえます。
スマートフォンの契約数が半数を超え、シフトが更に加速しているとはいえ、まだしばらくはフィーチャーフォンからスマートフォンの移行に時間がかかることを考えると、この傾向は今年の間は続くことが予想されます。今年については、特に後半にかけてフィーチャーフォンも含めた自社の残存ユーザーを自社のネイティブタイトルへいかにシームレスにシフトさせるかが各社大きな課題となってくるでしょう。
今年のネイティブアプリ戦略の柱
今年のネイティブアプリ戦略を考えるうえでは、こうした激しい競争を乗り越えるために以下の４本の柱を念頭に置くことが重要となります。
１．いかに見つけてもらうか
２．魅力あるコンテンツ
３．ストレスなく繰り返せる
４．広めたくなる
以降では、ブラウザーソーシャルゲームからネイティブアプリへ至るここ数年の流れも含め、順を追ってこれらの柱を見て行きましょう。
ブラウザーソーシャルゲームからネイティブアプリへの流れ
2012年にパズル＆ドラゴンズ（以下、パズドラ）がガンホーからリリースされるまで、スマートフォンのネイティブアプリはその話題性とは裏腹にビジネスモデルが成り立たず、各社本格投資には及び腰の状況でした。フィーチャーフォンを皮切りにモバイルブラウザーソーシャルゲームが一気に盛り上がりを見せる裏で、フィーチャーフォンになかったネイティブアプリの表現力に可能性を見出した人々は大きなリスクを避けつつも次の一手を模索していました。そのきっかけを掴んだのがパズドラと言えるでしょう。
当時はソーシャルゲーム市場が3,000億円を超えると予想される一方で、スマートフォンのネイティブアプリ市場は（ゲーム以外を含めても）100億円に満たないほどでした。あれから２年、各社の決算数字を紐解くと、既にスマートフォンのネイティブアプリゲームで四半期13,00億円に達する急成長市場となっています。
そもそもブラウザーソーシャルゲームが大きく躍進した理由として、mobage、GREEといったソーシャルゲームプラットフォームの果たした役割は非常に大きいと考えられます。ゲームコンテンツが収益をあげていくうえで必要な、ゲームユーザーの集客手段と決済手段をセットで、しかも大規模に提供することで、ゲーム制作者が良いコンテンツを創ることに集中できるような環境を提供していたからです。
しかし当時、AppStoreやGooglePlayといったOS主導のプラットフォームでは、巨大なソーシャルゲームプラットフォームでさえも足場を築けていませんでした。ネイティブアプリに参入するゲーム制作者は、自らユーザーを掘り起こし、ユーザーにマッチする（と思われる）ゲームを手探りで研究し、保守運用するという大きなリスクを持つことを求められたのです。
2012年から2013年にかけては各社がプラットフォームに依存しないユーザーベースを確立するために独自の手法を研究していた時期といえるでしょう。2010年にはスマートフォンのUIや物理演算を活かしたAngry Birdsが世界的に大ヒットし、国内でも2011年にはおさわり探偵 なめこ栽培キット（以下、なめこ）が空前のなめこブームを巻き起こすなど大ヒットが出てはいましたが、まだまだ安定した市場を形成するにはコンテンツもユーザーも少なすぎました。
いかに見つけてもらうか
市場が形成され、コンテンツが充分な利益をあげることができるようになると、参入企業が増え競争が増すため、集客・広告がより重要となります。ユーザーが目新しさを感じてくれていて、市場にタイトル数が少なかったこれまでは、単純に目立ったり、良いプロダクトを提供できればユーザーが見つけてくれて勝手に人気が出るということもありました。
しかし最近ではそれがまったく望めなくなってきています。いかに知ってもらい、いかにまず遊んでもらうかがまず最初に必須となり、そういった意味では2014年は広告市場が一段と盛り上がり、有力な新しい集客方法なども開発されるでしょう。こうなると大きな市場を念頭にリリース初期から一定のリスクをとってTV-CMをうってくるタイトルも現れ、ますます目立たなくなってしまいます。
仮に制作費に２億円、初期のプロモーションに３億円、月々の運用に月5,000万円かかるとしてもストアで売上20位の上位タイトルに食い込むことができれば、半年でリクープできる勘定とあればリターンの規模を考えた時に投資リスクとしては悪くないと考える企業も大手には少なくないでしょう。
３強となるガンホー、コロプラ、LINEについてはリスクをとって市場への先行参入を果たしており、既に一定のユーザーを確保できていますので、そうした企業は自社タイトルからの誘導が最も有効な集客ポイントとなります。ボリュームの限られるネット広告だけではなくTV-CMも多用するのは彼らの規模ではマスへ訴えかけるほうが費用対効果が相対的に高く、効率が良くなるからにほかなりません。
一方で、広告のニーズが高まるに従い、広告費が高騰を始めることを見越した企業はいち早く自社の集客手法の確立を目指して、多くの実験と失敗を積み重ねてきています。セガネットワークスの進める「Noah Pass」もネイティブアプリ向けにユーザーベースを確保する試みとしてはとても興味深いもので、相互送客プラットフォームとして大型のタイトルも導入するなど普及段階に入っています。
今は３強となったコロプラも成長過程では様々なチャレンジを積み重ねています。ネイティブアプリ自体は収益が成り立たなかった時期から注目度は高かったため、慢性的な制作人材不足に悩まされてきた分野でもありますが、技術研究や人材育成、人材採用も見越したカジュアルアプリの量産をすることで自社のブランド構築とユーザー確保を試みていました。一定の成果が出て安定したヒット作が産み出せるようになってからは方向をやや修正し、星の島のにゃんこに見られるような新たな形の安定したDAUベースを確保しようと模索しているように見えます。
魅力あるコンテンツ
パズドラとドラゴンボールとのコラボや、モンスターストライク（以下、モンスト）へ鳥山明氏のイラスト採用が発表されたのが耳に新しいですが、昨年末から今年初頭にかけて大型のアニメやゲーム版権もののタイトル発表が相次ぎました。有名で誰でも知っているようなビッグネームをゲームに採用できることはTV-CM以上に大きな認知につながり、試してみよう、続けようといったモチベーションを掻き立てるきっかけになります。ゲーム単体の魅力を創りあげることはもちろんですが、特に今年はエヴァンゲリオンやワンピースといったビッグネームでないと勝負ができないような市場環境となることが予想されます。
逆に言うと、ユーザーベースも持たず広告費用も投下できないタイトルがビッグな版権を獲得できないとなった場合、それに準ずるほどの強力な（社会現象となるような）認知施策を生み出す必要があるかもしれません。こういった意味では、大型の投資が可能な企業か、またはリスクテイクが前提の小型のベンチャー企業でないと参入が難しい局面に入ったと言えるでしょう。
ストレスなく繰り返せる
こうなると後発での市場参入はますます大変になりますので、コンテンツも刹那的な利益を追うものを連発するこれまでのやり方では採算がとりづらくなるでしょう。長く愛されるもの、繰り返し楽しめるコンテンツを志向することが経済合理性を帯びてきます。とはいえまったく新しいもの、これまでにないものは例えどんなに素晴らしくても理解され、受け入れられるまでに時間がかかります。特に市場の参加率から推し量ると、ネイティブアプリの多くのユーザーはこれまでのゲームファンではないため、コアなゲームを受け入れるには全体的に興味もリテラシーも低い傾向にあります。
慣れ親しんだユーザーインターフェイス（以下、UI）やゲームシステムは一種のOSやプラットフォームととらえ踏襲することも必要となりそうです。サウザンドメモリーズのゲームシステムを活用して、テイルズシリーズの版権で横展開を狙ったテイルズオブリンクのように、ゲームシステムの継続性や収益性を確認した上で強力な版権との組み合わせを狙ってくる戦略も増えてくるのではないでしょうか。
広めたくなる
では従来のコアなゲームファンを狙っていくのはどうでしょうか。もちろんそれもあるでしょう。コアゲームの制作が得意であればそれを活かすのが戦略の基本でもあります。しかし、ミリオンアーサーがPS Vitaで一定の成果をあげたことを考えると、全ての家庭用ゲーム機のユーザーが必ずしもスマートフォンでのゲーム体験を好んでいるわけではないのかもしれません。コアゲームを思考する向きにはマルチデバイスも検討すべきで、それなりのコスト負担も念頭に置くことになりそうです。
一方で、最近の売上げランキング上位を見ると、老舗のドラゴンリーグXをはじめとしたチーム戦主体のゲームも増えてきました。これはプレイヤーが互いにチームを組んで戦う要素があるバトルゲームで、普段はそれぞれのメンバーがRPGなどで自分のキャラクターを強化していますが、バトル開催時にはチャットや掲示板などでリアルにコミュニケーションをとりながらチーム同士で戦うという一種のコミュニケーションゲームです。相手は人間ですから何が起きるかわからず、そのハラハラ感や事前の戦略が奏功したときの興奮といったチーム戦の醍醐味にはまると非常に白熱していくことが特徴です。
MMO隆盛の頃からコミュニケーションゲームには一定の強い需要があり、一度開始すると比較的長く深く遊ぶ傾向にあることからブラウザーソーシャルゲームにおいても市場拡大の一つの大きな柱でもありました。ただ、やはりコアなゲーム体験であることから、ユーザー人口のキャップがあると考えた方が良いでしょう。ブラウザーゲームのこうしたユーザーがネイティブアプリへシフトしてしまうと基本的にはユーザーの奪い合いとなることが予想されるため、他のタイトルからいかにチーム丸ごと引き抜いてこれるかといったタイトル戦略が求められるようになりそうです。
こうして、スマートフォンというデバイスが多くの人々の手に渡り、これまでのゲームファン以外が手軽にゲームを楽しめる環境が整いつつある中で、今後若年層のスマートフォン所有が本格化していくことを考えると、よりライトでソーシャルなゲーム体験を入り口とした戦略が必要となります。特に女性や若年層は非常に伝播力の強いことが予想されますから、誘いたくなる要素や人に話したくなるような要素をストレス無く組み込むことで爆発的にユーザーを増やしていくのがソーシャルでインターネットでモバイルな強みを最大限活かすことになるでしょう。
モンストでV字回復を果たしたmixiは、この点を良く理解している１社といえるかもしれません。次回、機会があればこれらの点についてより考察を深めていきたいと思います。
＜参考文献＞
各社決算資料
CyberZ社リリース
http://cyber-z.co.jp/news/pressreleases/2014/0325_1497.html
ファミ通OGCレポート（Noah Pass）
http://app.famitsu.com/20140423_362379/
| 【著者】
井手勝也 （ソーシャルゲームプロデューサー）
立教大学大学院ビジネスデザイン研究科修了 修士（経営学）。大手メーカー系ソフトハウスのシステムエンジニア、株式会社ドワンゴ 研究開発部門マネージャー／情報セキュリティーマネージャー、上場企業子会社のEC事業部長などを経てモバイル系企業2社を創業。12年にわたる大手ゲームメーカーへのオンラインゲームコンサルティングやソーシャルゲームの企画、制作を経て現在に至る。 |
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