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「対前年」のマジックで売上増に見えるすき家だが

牛丼御三家の5月の売上速報が発表されています。ざっといえば、毎日新聞の記事タイトルどおりということになり、吉野家は勢いを失い、すき家は、閉店だのリニューアルだの、実際には行われなかった肉の日のストなどの騒動の影響を跳ね返したのかと感じさせます。しかし、発表される数字が前年同月との比較なので、前年が悪ければいい数字も出やすくなります。そこで一昨年とも比較してみるとまた違う景色が見えてきます。
吉野家:5月売上高マイナス幅拡大 すき家と松屋はプラス - 毎日新聞

さて、吉野家の5月は、既存店の売上は5.7%減、客数は15.2%減と、4月よりもさらに売上も、客数も減少し、毎日新聞記事どおりに、マイナスが拡大したことになります。すき家の既存店の売上は14ヶ月ぶりにプラスに転じて8.1%増、客数は5.4%増なので、消費税増税を機に270円の最安値を打ち出した効果がでたようです。

しかし、比較している昨年はどういう状況だったのか、振り返ってみましょう。

昨年春は、牛丼並盛りですき家や松屋よりも100円高かった吉野家が値下げを行なって、3つのチェーンが同じ価格で並んだという時期にあたります。その結果、4月~6月にかけて、吉野家の一人勝ち状態が続いていました。

吉野家の昨年の月次情報では、既存店売上が4月11.1%増、5月15.9%増、6月10.8%増と二桁増の快進撃で、客数の伸びはもっと大きく、5月にはなんと31.0%増を記録しています。その昨年5月のすき家の既存店の客数は8.6%減、松屋は11.5%減だったので、価格を合わせてきた吉野家に顧客を奪われていたことになります。

しかし吉野家は売上は伸ばしたものの、値下げが響いて、売上は伸びたものの、3月~5月の第一四半期は営業赤字に陥ってしまいます。結局は勝者なき競争だったのです。その反省があって、吉野家は高付加価値メニューの開発、牛すき鍋膳の思い切った投入にむかい、牛すき鍋膳の大ヒットへとつながっていったのでしょう。

前年がそういった特殊な状況だったので、一昨年と比較してみたくなります。それで比較してみると、決してすき家も松屋も、一昨年の売上を超えておらず、必ずしも好調だとは言えません。むしろ売上を伸ばしているのは吉野家です。グラフ化しておきましたので張っておきます。
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それよりも月次情報でひとつ謎があることに気が付きました。すき家の既存店の5月の売上は前年の8.1%増でした。また店舗数も、昨年5月は1,932店で、この5月は1,993店と61店舗が増加しています。

しかし、既存店の売上も増え、店舗数も増えているのに、なぜか全店売上は4%減なのです。変ですね。つまり、既存店の売上が落ちても、店舗数が増えて、それで全体としては売上がアップするというのが一般的な傾向ですが、それとは違う結果です。なぜそんな矛盾が生じてきたのでしょう。

すき家月次推移のページを、よくよく見ると、書いてありました。開示基準、つまり既存店でデータを比較しているのは、「リニューアル等により一時休業している店舗は含まれておりません」だそうです。つまり業績の悪い既存店の実績は除かれているので、既存店の売上の数字はよくでたということでしょう。全店で見れば、現実は悪かった昨年よりもさらに売上が落ちた、1店舗あたりの売上も落ちているということになります。

結局わかったことは、牛丼が同じ価格なら吉野家に優位で、吉野家はすき家と比べ、プレミアム価格が許されること、またすき家は、店舗オペレーションを軽視した影響は致命傷にはいたらなかったものの、結果には見事現れているということではないでしょうか。

価格ならすき家、味なら吉野家、真ん中を松屋がゆくという棲み分けは、やっと牛丼業界も、互いが異なるポジションで競争しあう健全な関係に収まってきているという感じで喜ばしいところです。
それぞれが、ライバルと価格でガチンコで叩き合うのではなく、互いが独自性を追求しあって、個性で競い合えば、その先にきっと付加価値の高いビジネスも見えてきます。

今の時代に求められてきている競争は、ライバルとの戦闘ではなく、互いがどれだけ高い価値を実現するかを競い合うレースであり、また消費者からどれだけ高い評価を受けるかのコンテストではないでしょうか。少なくとも消費者にとってはそちらのほうがよりエキサイティングです。

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