以前本ブログでも紹介したことがあり僕のお気に入りの1冊でもある「影響力の武器[第二版]―なぜ、人は動かされるのか」ですが、第三版が出るという情報を聞きつけました。そこで、第三版が出る前に復習がてら手元の第二版を7回に分けて読み解いて行こうと思います。本文中の引用はすべてロバート・B・チャルディーニ著、社会行動研究会訳「影響力の武器(第二版)」誠信書房からです。まだ本書を手に入れてない人は、第三版が2014年7月には出るので購入は待った方がいいかもしれません。書籍マニアの人は第二版が売り切れる前にゲットしておいた方がいいでしょう。
目次
- 第1回 導入
- 第2回 返報性
- 第3回 一貫性
- 第4回 社会的証明
- 第5回 好意
- 第6回 権威
- 第7回 希少性
第1回 導入
影響力の武器は承諾の心理についての研究成果を記した1冊です。この手の心理学の本はインチキなものも多いのですが、本書は実証的な研究に基づく正統派の1冊になります。そして、多くの詐欺師や悪徳商法のマニュアルは本書の基礎原理を下に作成されており、社会に多大な影響を与えている書籍です。
著者のロバート・B・チャルディーニは、承諾誘導の実践家が相手から承諾を引き出すために利用する心理学的原理を次の6つにカテゴライズしています。
すなわち返報性、一貫性、社会的証明、好意、権威、希少性です。
これらの6つの原理は第2回以降で個別にみていくことにしましょう。
第1回では、本書で登場するカチッ・サーの反応と知覚のコントラストについて確認しておきましょう。
カチッ・サーの反応
ロバートは、第1章でとある観光地のジュエリーショップでの話を引用しています。
そのお店では質のよいトルコ石を売っていたのですが、どうしても売れませんでした。しかし、手違いで普段の2倍の価格を付けてしまったところ、たちまちトルコ石が売り切れてしまいました。
ロバートは、この現象について概ね次のように説明しています。
多くの人はトルコ石の価値などわかりません。そこで、人々は手っ取り早い方法を使うことになります。すなわち「高い物=良い物」という基準です。価格が品質に比例しているということを私たちは経験的に知っているので、トルコ石の価値のようなよくわからないことに関しては、そのような手っ取り早い判断方法を使いがちになります。
このような固定的な行動パターンについて、「カチッ」とボタンを押すと「サー」とその場に適した標準的な行動がテープのように自動で現れるので「カチッ・サー」と表現されます。
このカチッ・サーの反応は、通常は上手くいくのでよくわからない場面に遭遇したときにこの反応をすることは本来は合理的です。しかし、上のトルコ石の例のように特定の場面では不利に働いてしまうことがあります。
そして、相手から承諾を得る戦術の多くは、この自動的な反応を利用します。
知覚のコントラストの原理
知覚のコントラストの原理とは、
簡単に言うと、二番目に提示されるものが最初に提示されるものとかなり異なっている場合、それが実際以上に最初のものと異なっていると考えてしまう傾向(22頁)
のことをいいます。
例えば、最初に軽い物を持った後に重い物を持つ場合と、最初から重い物を持った場合とでは、前者の方が重く感じてしまいます。
このコントラストの原理はあらゆる場面で利用されています。
10万円の高級スーツを買った直後では、普段は1万円のシャツは高いと感じる人でも、1万円のシャツがそれほど高くないと感じたという経験をしたことがあるでしょう。自動車のオプションなども同様です。普通だったら、オプションにあるような数十万円のカーナビというのは非常に高価なものですが、数百万の新車を契約した直後では普段よりも安いのではと錯覚してしまいます。
ビジネスで高い商品からお勧めするのがセオリーなのは、このコントラストの原理があるからです。逆に安い商品から勧めた場合、あとから勧められた商品は一層高い物に感じられてしまうのです。
設問にチャレンジ
本書では、章末に設問が用意されています。知覚のコントラストの原理を利用して、次のような場合どうすべきか考えてみましょう。
あなたが、デパートで骨折した婦人の代理人として、デパートを相手取って二百万円の慰謝料を請求すると仮定する。知覚のコントラストに関する知識だけを使うとしたら、裁判で陪審員に二百万円が妥当な額、あるいは少なすぎる額だと思わせるために、どのようなことを行えばよいだろうか(30頁)。
次回は、設問の答え合わせをした上で、返報性の原理の章を読んでいきます。