【第1回】あなたは「ズレ」ているという認識がありますか?:古市憲寿『だから日本はズレている』

古市

JFNラジオ版 学問ノススメ」の2014年6月第一週放送分よりピックアップ。

今回のゲストは、先日新潮新書から出版された『だから日本はズレている』の著者であり、社会学者である古市憲寿さんです。このラジおこしでは『ラジオ版 学問ノススメ』6月第一週放送分を4回に分けて連載という形で全文掲載します。

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第1回の今回は、古市さんがこの『だから日本はズレている』を書いた経緯と、そこから現実的なズレの例としての「リーダシップ」についてのお話です。

 

【しゃべるひと】

  • 古市憲寿さん(社会学者、慶應義塾大学SFC研究所訪問研究員
  • 蒲田健さん(ラジオパーソナリティ)

 

まずは「ズレ」を認識してほしい

蒲田健:新潮新書から『だから日本はズレている』が出版になっています。古市さんが考える、この国そして大人たちの「ズレ」について書かれているという感じなんですけど、古市さんは1985年生まれということで今年で29歳に?

古市憲寿:そうですね、29歳になりました。

蒲田:おめでとうございます。でも、まぁギリギリまだ20代ということで。ということは、冒頭で「大人たちのズレ」という言い方をしたんですけど、古市さんご自身は「若者」というカテゴリに入ってる人なんですか?

古市:たぶん、そうだと思います。『だから日本はズレている』という本も20代の「若者」と呼ばれるうちに書いておこうと思って書いた本です。

蒲田:じゃあ、ぎりぎり間に合ったくらいの。

古市:そうですね。『絶望の国の幸福な若者たち』という本を2年半くらい前に出したんですけど、その本を出してから若者についての意見を求められることがすごく増えたんですね。

蒲田:「若者」の論客の代表格みたいな言われ方をすることも多いですよね。

古市:はい。こういうラジオに呼ばれたり、政府の会議に呼ばれたり、いろんなおじさんに出会うわけですね。

蒲田:ははは(笑)

古市:そこで、日本の「大人」たちに出会って、「最近の若者ってどうなの?」て聞かれて、むしろ「日本の大人たちの方がいろいろ不思議なんじゃないかな?」って思うことがすごくあったんですね。

蒲田:ほぉ〜。

古市:そういう、ぼくと大人たちに感じた「ズレ」みたいなのを本にできないかな?と思って始まった本です。

蒲田:じゃあ、「若者」の一人として言いたいことがいっぱいある状況だったと。

古市:そうですね。例えば、去年に夏に「消費税をどうするか?」って会議に呼ばれたことがあるんですけど、そこで社会保障の話題になったんですね。

で、ぼくは現役世代に対する子育て保障みたいな社会保障がすごく少ないことが少子化の一因になっているという、ぼくがもともと思っていたことを発言したんですよ。

蒲田:はいはい。

古市:で、その会議が終わったあとに結構高齢のおじさんが寄ってきて、「すごく話分かるよ」と言って同調してくれて。で、分かってくれたのかな?と思ったあとに何を言うかというと「君たちにもっと頑張ってもらわないとね、若い子は性欲もないから少子化も進むんだよね」って。

蒲田:(笑)

古市:「そこか…」って、思って。社会保障の話をしてるのに、なぜか「少子化=性欲の弱さ」と思い込んでいて、かつ「若い子が性欲が減っている」と思い込んでいて。

蒲田:既定事実として。

古市:えぇ。実際、統計を見てみると初体験の年齢は下がっていますし、恋人がいる割合も上がってるんですね。なのに、いろんな決め付けだけで若者を見ていて、そういう偉いおじさんたちが政策とかを決めてしまう。「そりゃぁ、ズレていくなぁ」って思ったことがあったんです。

蒲田:はぁ。じゃあ「ズレ」というのはいろんな認識とか考え方とか、の「ズレ」ということですね?

古市:そうですね。逆に「若者」がズレている事例もあると思うんです。

だから、「ズレ」って相対的なものだと思うんですけど、ただ大人たちはどうしても「◯◯はこうだ」みたいに思い込んでしまっているんですね。だから、「実はこれくらいズレているんじゃないですか?」ってことを丁寧に書いたつもりです。

蒲田:「ズレ」っていうのはどっちかが「良い、悪い」ということではなく、とりあえず「離れてます」という位置関係の問題なんですね。

古市:はい。だから、ぼく自身も会社員をやったことがありませんし、いわゆる「既得権益」の中に入ったことがなくて、ぼくの方がズレているということも往々にあると思うんです。

それも当然、分かってはいます。分かってはいるけども、だからこそ見えてくるような大企業とか日本の政治家の不思議さってものがある気がしたんですね。

蒲田:なるほど。少なくとも「ズレている」ということをまずは捉えましょう、と。

古市:そうですね。まさにタイトルの『だから日本はズレている』っていうのもそういうわけで。誰が悪いというわけではなくて、まずはお互いに違うということを認識した方が、社会や企業はうまくいくんじゃないか?ということを言っています。

蒲田:なるほど。でも、往々にして大人たちは「ズレていない」と思っている、そういう前提になっている、と?

古市:そうですね。やっぱり自分たちが生きてきた環境を当たり前と思ってしまう人がすごく多いと思うんですね。

本の中で、何度か「おじさん」という言葉を使ったんですけど,別にこれ中年男性みなさんのことを言っているわけではなくて、既得権益の中に居座っているにも関わらず、そこにいることにさえ気づかなくて、その価値観が当たり前になって染まりきっている自分を疑わなくなった人のことを「おじさん」と呼んでいるんですけど。

蒲田:なるほど。

古市:自分のことを疑わなくなった「おじさん」に向けて書いているし、その「おじさん」

を批判した本ではあります。

 

リーダーなんて要らない

蒲田:後ほど詳しくお伺いしたい部分ではあります。例えば、古市さんが捉える「おじさんたちのズレ」ってどういう感じのものが具体例としてあるんですかね?

古市:例えば、本の中で書いたのは「リーダシップ」の話ですね。

蒲田:はい。

古市:日本では、スティーブ・ジョブズみたいな「強いリーダー待望論」がときどき盛り上がりますよね。

「松下幸之助すごい」とか。そういう強いリーダーに期待するおじさんってすごく多くて、それはぼくは不思議だなって思うんですね。

蒲田:不思議?

古市:はい。特に年配の方でお金も権力もある方は、自分がリーダーになればいいのに「強いリーダー」に期待してしまう、そういうリーダー待望論ってすごく無意味だなって思うんですね。人任せというか。

蒲田:既得権益とか、人脈も持っているだろうから自分でやろうと思えばできる人たちが人任せにしちゃうと。

古市:そうだと思うんですよ。そういう人って不思議で、「若者に期待するよ」とか言うんですけど、別に若者じゃなくて自分がやればいいじゃんって思うんですよ。なのに、人に期待してしまう。

蒲田:なるほど。それが、「ズレている」ということすら認識していないおじさんという。

古市:一例としてそういうことも書きました。

蒲田:逆に言うと、若者の方はそういう意見がコンセンサスになっているんですか?

古市:いや、でも若者も人によって違うとは思います。ただ昔と違って、誰もが大企業に入れるわけでもない、専業主婦になれるわけでもないのである程度自分のことを疑っていかないと生きていけない時代になった。

だから、若い世代の方が「ズレ」を認識している人は多いと思います。やっぱり年長世代の人はそこまで考えなくても会社に入って、日本経済が成長していって、勝手に自分の給料も上がっていって、家族も作って…、っていうのを自然にできた方が多いと思うんですね。

蒲田:はい。

古市:だから、上の世代の人ほど疑っていなくて、いろんな幸運が重なってそうなったはずなのに、さも自分の手柄だと思っていて。ただ、若い人はそうはいかないので「ズレ」を認識せざるを得ない、とは思います。

実はいまの日本の反映ってすごくラッキーな要素がすごくたくさんあるんですね。戦後の高度成長も日本人が頑張った、というのもありますがそれ以上に若い人口が多くて労働力が安かったから世界の工場になれた、とか。

中国も未発達で、韓国も軍事政権で、アジアの中で日本だけがものづくりの国になれた、みたいないくつもの偶然が重なって成し得たことなのに、さも当然で、自分たちの努力のおかげで成り立った、今そうじゃないのは努力が足りないからだみたいな精神論に陥っている方は多い気がしますね。

蒲田:なるほど。もちろん、努力は一因ではあるけどそれが全てではないと。

古市:そうですね。

蒲田:そういういろんなところから『だから日本はズレている』ということですけど、いろんなところで「ズレているな」ということを古市さん自身が感じて、まとめようということになってきたと?

古市:もともとはいろんな雑誌に書いたものを1つのテーマで編集し直したものなんですけど、どうしても若者と大人たちのズレが気になってしまって、「世代論」ってぼくは必ずしも意味がある議論だとは思ってはいないんですね。人によって立場は違うし。

でもそれでもやっぱり、なんらかの断絶、特に「偉いおじさん」と「それ以外」にあるんじゃないかな?という思いが消えなくて、このようになりました。

蒲田:構成もユニークな感じで、裏のところもそういう経緯もまとめてありますけど、これはどこら読んでも読めるようなスタイルの本ですね。

古市:そうですね。意外と章の数も多くて、一章あたり6~7000字で「読みやすい」という声はいただきますね。

蒲田:いろんな章立てがありますが、前半部分は?

古市:前半部分がおじさんについてのツッコみ、「リーダー待望論」、「クールジャパン」、「オリンピック」、「憲法改正案」とかそういう大きい話ですね。

後半はむしろ、おじさんに翻弄されている若者たち、「就活」とか、「新社会人がんばれ、みたいな話ってどうなの?」とか。一番最後の章に、2040年のシミュレーションを書きました。

蒲田:おじさんたちがどうズレてるのか、若者がどういう現状なのか、そして近未来にどうなっていくのか。

古市:はい。

蒲田:まぁ、どこから読んでも分かりやすいですし、いろんなツッコミを入れながらね。

古市:ツッコミを入れながら、どこが自分がズレていて、逆に本がズレているのかを認識していただけたら嬉しいですね。

蒲田:先ほどのお話にもあったような「リーダー待望論」って至るところで聞きますが、リーダーって要らないですか?(笑)

古市:、と思うんですよ。この章を書いたきっかけは以前出たNHKスペシャルでまさに「リーダー」がテーマの討論会に呼ばれたんですね。

蒲田:はい。

古市:「日本にはなぜ強いリーダーが生まれないか?」っていうテーマだったんですけど、ぼくの答えはシンプルで「リーダーなんて要らないでしょ」というものだったんです。

蒲田:だから、要らないと。

古市:はい。

蒲田:えっ、なんで要らない?

古市:日本って首相がコロコロ変わるってよく言われますけど、

蒲田:すごいネガティブな言われ方をしますよね。

古市:はい。逆に言えば、日本って首相が毎年変わっても回っていけるくらい豊かな国ってことだと思うんですね。

蒲田:あぁ、たしかにそういう言い方もできそうですね。

古市:例えば、東京都知事も去年から今年にかけていない時期があったですよね。でも、全然普通に回っていて。

蒲田:うーん。

古市:もちろん、すごい政情が不安定な国とかこれからの舵取りで国の方向性が変わっていくような時期だったら、当然リーダーは必要だと思うんです。

でも、日本ってある程度成熟していて、例えリーダーが一時期いなくても回ってしまうような国に本当にリーダーは必要なのかな?っていう疑問からこの章を書きました。

蒲田:で、要らないと。

古市:リーダーが一切要らないと言っているわけではないんですね。小さいプロジェクト単位では、その場その場でリーダーが必要になると思うんです。

でも、日本全体とか会社を何もかも変えてくれるようなリーダーは多分、要らないし、むしろそういう存在を期待してもしょうがないと思うんですね。

蒲田:うんうん。

古市:例えば、昔だったら国ができることってすごい多かったと思うんです。

50年前なら、外交をどうするか?アメリカに付くか付かないか?そういうことで、日本の未来はすごく変わった。

100年前なら、軍事を増強するかどうかで植民地になるか、ならないかが決まって。そういう政治の力がすごく大きかったと思うんですよね。

蒲田:そこはやっぱり強いリーダーが必要だった、と。

古市:ただ、今の時代でそのような形で国が動いているか?と言われたらそうではないと思うんですよね。

未だに、国の力は大きいと思うんですけど、それと同じようにグローバル企業とか、アルカイダのようなテロ組織、ウィキリークスみたいな集団がたくさん出ているなかで、国家ってものが有象無象のひとつに過ぎなくなってきていると思うんですよね。

蒲田:はい。

古市:だから、その中で一人のリーダーが国を変えるということはたぶんありえない。あまりにもアクターが多すぎて、一人のリーダーを待望して期待してもしょうがないんじゃないかな?って思うんですよ。

蒲田:でも、やっぱり待望論がいつも出てくるというのはそのズレがあるから?

古市:やっぱり「リーダーが日本を変えてくれた」みたいな、過去の認識に囚われすぎだと思うんですね。たとえば、スティーブ・ジョブズにしても彼は成功するまでに何回も会社を潰しているわけですよね。

しかも、人格的にもトリッキーな人だったらしくて、社員を何人もうつ病にしたりとか、決して理想の上司とは言えないにも関わらず、彼の一番いいとこころだけを切り取ってきて、「強いリーダーがいればいい」と。

蒲田:うん。

 

【第2回へ続く】

 

【本に寄せられた感想】

 

古市憲寿さんのプロフィールはこちら。

1985年東京都生まれ。
東京大学大学院総合文化研究科博士課程在籍。
慶應義塾大学SFC研究所訪問研究員。


専攻は社会学。
現在は、大学院で若者とコミュニティについての研究を進めるかたわら有限会社ゼントでマーケティングIT戦略立案にかかわる。
著書に、『だから日本はズレている』、『僕たちの前途』、『絶望の国の幸福な若者たち』などがある。

ゲスト:古市憲寿さん

古市さんのTwitter アカウントはこちら→@poe1985

 

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