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娘が6歳になり言葉の働きに興味を持ちだしたころ、こんなことを言い出した。
「私は大きくなったら、犬と猫を飼うの。そして、犬に『ネコ』という名前を付けて、猫に『イヌ』という名前を付けるの」
言葉は指し示す対象をもつ。人は「イヌ」という言葉を耳にすれば当然、動物の犬を思い浮かべる。他方、固有名詞は任意だから、飼い猫に「イヌ」という名前を付けても誰も文句は言えない。言葉はそれに固有のイメージを喚起するが、そのイメージ通りの対象が実在するとはかぎらない。
日本は今、戦時中に日本の軍隊や警察が、朝鮮半島から20万人もの若い女性を強制連行し、戦地で性奴隷として虐待したとして国際的に非難されている。米カリフォルニア州グレンデール市には、慰安婦の像まで建てられてしまうありさまだ。
なぜ、こんなことになったのか。その原点にあるのは「強制連行」という言葉のマジックだ。この言葉、初めは「朝鮮人強制連行」という言葉として造語された。作者もハッキリしていて、ルポライターの藤島宇内氏が、1960年に岩波書店の『世界』という雑誌に書いた。
当時は北朝鮮への帰国事業が開始したばかりであった。運動を推進した朝鮮総連は、60万人の在日の人々は「強制的な集団移住」と「徴兵徴用」の結果であり、「日本に来たくて来たのではなかった」と言い出した。彼らの主張を総括するキーワードとして日本人によって発明されたのが「朝鮮人強制連行」という言葉だった。