【スピーカー】
株式会社ドワンゴ 人事部長 野々垣尚志 氏
自民党 衆議院議員 小林史明 氏
【この記事のヘッドライン】
・受験料導入は、金儲けが目的じゃない
・少しでも多くの学生に会うために
・現場は猛反対だった受験料制度
・目に見えて上がった応募者の質
・次年度以降はどうする?
【動画もぜひご覧ください!】
[CafeSta]キーパーソンに聞く! ゲスト:野々垣尚志 株式会社ドワンゴ人事部長 ナビゲーター:小林史明ネットメディア局次長
受験料導入は、金儲けが目的じゃない
小林史明(以下、小林):カフェスタをご覧の皆様こんにちは。今日も始まりました「キーパーソンに聞く」ということで、今日は株式会社ドワンゴ人事部長の野ぐぁきさんに……(笑)。すみません、噛みました(笑)。野々垣さんにお越し頂きました。どうぞよろしくお願いします。
野々垣尚志(以下、野々垣):よろしくお願いします。
小林:お願いします。ニコ動を見ている皆さんはですね、今更ドワンゴさんを紹介する必要は無いと思うのですが、ドワンゴさんがどういう会社なのかということを、ちょっとご紹介していただいてもいいですか。
野々垣:どういう会社……(笑)。まあ、メインのサービスっていうのが当然ニコニコ動画で。ニコニコというプラットフォームを使って、いろんなユーザーの方のコンテンツであったりとか、そういったものを載っけていただいて、皆さんに楽しんでいただくと。エンターテイメントの会社だと私たちは思っています。
小林:はい。ということで、いつも皆さんが使っていただいている会社の人事部長さんに、今日はお越しいただいたということなんですが、今回、ニコ動初出演なんですね。
野々垣:そうです。
小林:これまで出たことは無い。
野々垣:無いです。
小林:無いんですね。とういうことで大変記念すべき1回目にお越しいただきまして、ありがとうございました。
野々垣:いえいえ。
小林:今日は何故、野々垣さんにお越しいただいたかというとですね、ドワンゴさんが今、大変注目を集めています。それは、大学生の新卒採用を一部有料化するという決断を今年されて、実施をされている段階だということで。
実は先日、厚生労働省からそれに対して行政指導が入りまして、非常に話題になりました。賛否両論あるんですけども、私は一つ、これは大切な問題提起だと思いまして、大変ご無理を言ってですね、直接お電話をして、ご登場いただいた次第です。
是非今日は、新卒採用の課題とか、企業はどういうことを思っているのかというのをですね、是非みなさんにも知っていただく機会として、何故そういうことをやったのかとか、それに踏み切った思いなんかを伺っていきたいと思いますので、是非よろしくお願いします。
野々垣:はい。よろしくお願いします。
導入の狙いは?
小林:まず今回ですね、やられた施策なんですけど、新卒採用の学生さんの一部にエントリーをする、申し込みをする時に2525円、「ニコニコ」ですね、これ。
野々垣:はい、そうです。
小林:(2525円を)支払ってください、ということを条件として課した訳ですけども。何故こういう制度をやろうと思ったんでしょうか。
野々垣:まずきっかけとしてはですね、今の就活の現状としては、皆さんネットから簡単にエントリーできる時代になっていると。今の状況でいうと、12月1日の午前0時に、一斉に皆さん、リクナビさんマイナビさんからエントリーを開始する、というような流れになっています。
多い方だとこのエントリーを150とか200とか、ある統計でいうと平均では70~80くらいされるというような時代になってます。当然倍率がそれだけ上がるわけですから、落ちる学生さんはものすごい勢いで70、80落ちていく、というような現状があります。
一方それを受ける企業側としても、当然それだけの数をさばける人的リソースも時間もありませんので、ある意味機械的な、何かの判断基準で書類を振り分けていくという作業をせざるを得ない場合も出てくる。本当に会社に入りたいと思っている学生さんと、ちゃんと対面をしてお話をして、決めていくというプロセスが、なかなか難しくなっていると思っています。
そういった所に、何か一石を投じることは出来ないかと。これは学生さんも傷ついているし、企業側も疲弊している。このような状況に、何かしら問題提起という形で出来ないかということで。今回は首都圏(1都3県)の学生さんに限りましたが、受験料というものを実際に本エントリーしていただく際に、お支払いいただくと。
まあ、一番お金というのがセンセーショナルというか、議論が起こるんではないかということで。私たちとしては、お金を取るということが目的なのではなくて、世の中に議論を起こすということが目的で、今回は受験料というのが一つの手段だという形で、導入を決めました。
少しでも多くの学生に会うために
小林:少し丁寧に説明をすると、プレエントリーというのがまず最初にあります。これが12月1日から出来るようになる。それをやると、いろんな企業から情報がやってくると。ドワンゴさんの場合、この段階でだいたいどれくらい集まるんですか?
野々垣:ここでもう数万です。
小林:そうですよね。で、実際の本エントリーということで、2月~3月くらいに履歴書と志望理由を書いてエントリーシートを出す。これが大体ひとりが100社なり150社出すというのが、現状になっていると。
野々垣:そうです。
小林:実際これ、言えないと思うんでざっくりでいいんですが、ドワンゴさんはどのくらいの本エントリーが来るんですか。
野々垣:本エントリーでいうと、数千ですね。プレエントリーで数万、本エントリーで数千。今年でいうと、2015年新卒の方向けの募集に関しては、40名くらいしか募集していないので、そこに対して数千というのはかなりのボリュームになってくると。
小林:非常に多いですよね。その中で実際に一次面接で会える方ってどのくらいいるんですか。
野々垣:実際に一次面接で会うのは数百。結局書類でそれだけの方を落とす判断をしていかなければいけない。そこは、非常に心苦しい所でもありますし。ただ、実際に数千人と会えるかというとなかなか難しいので、ある程度書類で判断せざるを得ないということですね。
小林:そうですよね。私も人事の採用担当をやってましたから、本当に現実がわかるんですが、企業としてはその数は会いきれない。でも一方で、学生さんも書類で落とされるとですね、自分の過去の歴史だけで判断されるので、何となく人格を否定されたというんですか、そういう気持ちになって、かなり精神衛生上良くないなっていうふうにも思うんですよね。
野々垣:そうですね。私たちの、これ、本当に理想なのでこれから世の中がどうなっていくかってところなんですが、本当は皆さん全員とお会いして、企業に就職するっていうのは人と人の出会いですので、しっかりと対面をした上で判断をしていきたいっていうのは、高い理想ですけれども持っています。
そういうふうに少しずつなっていくための、今回は起爆剤というんでしょうか、社会全体がそういう議論になってきて、じゃあ、大学のシステムはどうするんだ、とか、企業側も学生さんに対して、どういう判断基準で見ていくのかっていうところを、もう一度真剣に皆さんで考え直す。そういう機会になればっていうふうに思ってますね。
現場は猛反対だった受験料制度
小林:今回厚生労働省から行政指導が入ったということで、ドワンゴさんが叩かれることもありましたし、一方で厚生労働省が叩かれる場面もあったんですけども。そこは、誰も悪いわけではなくて、教育の仕組みとか、新卒採用の仕組みを作っている政治が一番問題なんだろうなっていうふうに私は受け止めていて。その本質的な議論をですね、これを機にやれればいいなと思っているんですが。
ちなみにこの制度をやろうじゃないかって、かなり勇気がいったと思うんですけど、誰が発案だったんですか。
野々垣:これは私どもの創業者でもあります、会長の川上が、本人曰く、ここ数年温めていた策だと。おそらく3年、4年前くらいから今のこのシステムは良くないなって思っていたと。で、今年実際にやろうということになったんですね。
小林:この議論になる時ですね、もちろん一番トップの方が判断されればいいんですけれども、一般企業でいくとよくあるのが人事の評価ですね。エントリーの数で評価されたりすることって多々あるものですから、要は、エントリーのハードルをあげるとエントリーの数が減る。数が減ると人事の評価が下がると。こういう悪循環が起こるんでなかなか判断できないと思うんです。今回はどういう経緯だったんですか?
野々垣:経緯というより、私も最初は大反対でした、人事部長という立場で。集まってくださる学生さんの数が減るということは、それだけ欲しい人材を採る機会が減る、ということになると思ったので私も大反対だったんですが、ここは川上含めですね、3ヵ月くらいかけて皆でいろんな話をしてきました。
当然、採用して学生さんたちに働いてもらう現場というか、事業部門。ここからも猛反対でした。人が集まらないじゃないかと、どうしてくれるんだと。
でも結局、川上が出しているメッセージですね。私が冒頭で申しましたけれども、社会全体の仕組みを変えたいんだと。その議論を生むきっかけを作りたい。うちの会社で出来るのはここまでだけれども、高い理想を持ってやろうじゃないかと。
というのを皆でずっと話し合ってきた結果、もしかしたらこれは、こういうのにちゃんと賛同してくれて、ドワンゴという企業をしっかり真正面から見てくれた人が、受けに来てくれるのかもしれないと。そうなったら、母集団は減るけれども、もしかしたら親和性の高い人たちが(割合的に)受けてくれるんじゃないかという議論になって。よし、じゃあ、やってみようという話になりました。
小林:3000人、5000人集めるじゃなくて、それが2000人になったとしても、中の人たちが濃くなればいいんではないかという判断をしたということですね。
目に見えて上がった応募者の質
小林:実際これ、面接はもうスタートされてるんですよね。
野々垣:はい。してます。
小林:そうすると実感値というのが湧いてくると思うんですが、実際影響っていうのはどういうふうに出ていますか。
野々垣:現場で実際に面接をやっている人間たちの声からすると、昨年までより格段に質が上がっているという声はすごくもらっています。
小林:質っていうのはどういうところで感じるんですか。
野々垣:私どもはITの会社なので、エンジニアというプログラミングをしたりだとか、そういった技術系の学生さんと、営業であったりとか企画物をやるような、企画職の両輪で採用しているんですが。
まず、エンジニアについては、ドワンゴの高い技術、私たちは技術力が高いと思っているんですが、そこで働きたい、技術を自分でも磨いて伸ばしていきたい、という思いが強い学生さんが非常に集まってくる。この際に技術系の学生さんについては、作品を付けて出してもらうことが出来るんですね。
自身でプログラミングをした作品を付けて、それを私たちのほうで、私は見れないんですけど(笑)、エンジニアの人間が見て「これはすごい技術だ」っていうのだと、一発で最終面接に行ったりとか。この技術作品を付けてくれる学生の割合が格段に上がったんですね。付けてくる作品のレベルも、昨年までとは格段に高くなっている。技術力のある学生が、しっかり受けてきているっていうのが、エンジニアのほうです。
企画職と呼ばれる、大学でいえば文系を出た学生さんが多く受けてくるところなんですが、そこに関しては、しっかりと私たちのビジネスを勉強した上で、それに対してどう貢献したいかっていうのを語ることが出来る学生が増えています。
まあこれは、調べるだけで喋れる学生さんもいるかもしれないんですが、そういった学生さんたちだけではなくて、しっかりと、例えば、私たち経営層が出る最終面接で同等レベルで話ができる学生さんっていうのが、非常に最近増えていて。最終面接に来る学生さんは、ほとんどが最終面接合格っていうような感じになってきてますね。
小林:相当レベル高いですよね。
野々垣:はい。その分、母集団はものすごく狭くなってるので。本当にいろいろと、ドワンゴに入りたい思いが強い、研究もしっかりしてる、ドワンゴに入って何がやりたいかも、ちゃんとビジョンを持ってる人たちが受けてくれている。というふうに、定量的なものは今のところないですけれども、実際に面接をやっている人間からはそういう意見を聞いています。
次年度以降はどうする?
小林:今回質が上がったということで、かなり良い影響が出てると思うんですが、それ以前は、むしろどういう人たちが上がってきたのかっていうのは教えていただけますか。印象値として。
野々垣:印象値ですか……。なかなか難しいですね。エンジニアの傾向は、先ほど言った、作品を付けて来たりとか、作品の出来が素晴らしい学生さんが増えているっていうのは間違いないんですが、もともと技術の方っていうのは、やりたいことがある程度はっきりしているので、そこの方向性に関してはそんなに大きく変わっているとは思ってないんですが。
企画職ってところを受けにくる学生さんたちっていうのは、皆さんがそうではないんですけど、「ドワンゴ」っていう名前で受けにくるとかですね、人気企業、大きい会社、っていう基準で受けてくる学生さんも多いので。ある意味、去年までだと最終面接まで行くような学生さんは、もちろん緻密に頭の良い、頭の良いというか、しっかりとビジネスもわかっていて受けに来る学生さんもいらっしゃいました。
一方で、私たちはちょっと一風変わったエンタメの会社なので、空元気、これでも採ってましたよね。とにかく根性。根性ある人間を採ると。
小林:営業なんかでは必要ですものね。
野々垣:あとは何か一つ、ものすごい趣味を持っているとかですね。そういった方を主に採ってましたね。
小林:そういう意味では、かなり、良かったことが多かったよねということなんですが。これをふまえて来年はどうするんでしょうか。
野々垣:来年に関しては、まだ採用活動も途中ですので……。だいたい私たちの採用活動は、例年ですと6月とか7月くらいに終わる予定ですので、その段階で。定性的な、うまくいっているところが本当にどうなのかっていうところを検証した上でですね。
あとはその時に、本当に私たちの意図しているような議論が世の中に起こっているのかとか、そういった影響も考えながら次年度のことは考えたいと思います。実際にお金を取るということが、手段として(私たちなりに)正しかったのかというところも含めてですね、検証をしっかりした上で次年度以降のことは決めていきたいと思っています。
小林:この意図の中にですね、1都3県だけにお金を絞ったじゃないですか。その意図は、要は地方から来る学生さんは金銭的な負担があるのでっていうことがあったと思うんです。これは常に、これからずっと続く話だと思うんですよね。
例えば、東北大学を出た子が東京の会社を受けようと思ったら、新幹線で来て、2週間くらいルームシェアをして受けてるっていう現実が今、起こってるわけですけど。この辺っていうのは、なんかこう、ITでですね、改善できないのかなって、漠然と思ったりするんですけど、検討したことってありますか?
野々垣:本当に漠然とした検討だけはしました(笑)。ただ、なかなか難しいなと。今年は特に、受験料を入れるというのが一つ大きなハードルでもあったので、あまりいろいろなことには手を出せないし、やってみたところで、学生さんとの就職活動というのは真剣なものなので「やってみた。失敗した」ってのは、ちょっと……。
2つも3つも仕掛けをするのはどうかと思いまして、今年はやれなかったですね。ただ、将来的にやってもいいよねっていう議論は起こってはいます。
小林:学生さんにとっては、それはやさしいですよね。せっかくネットがあるんですから、非対面であっても出来る、というのは、ちょっと未来があるのかなというふうに思いますけれども。
【続きはこちら】
後編:「つまらない人間をつくりたくない」 ドワンゴ人事部長が語る、教育制度をあえてつくらない理由