国際サッカー連盟(FIFA)元副会長で、2002年のワールドカップ(W杯)日韓大会の実現に貢献した鄭夢準(チョン・モンジュン)氏の発言が論議となりそうだ。日韓大会で韓国が4強入りしたのは、審判の買収によるものだったと匂わせるような話をしたのだ。
冗談だったとみられるが、一方で同大会では韓国戦に絡んで誤審が頻発していた。FIFAの要職にあった人物だけに、単なる放言では済まない恐れもある。
鄭氏は、2014年6月4日に投開票が行われたソウル市長選に与党候補として出馬した。問題の発言は6月1日、市内の遊説先で数百人の支持者を前にした際に飛びだしたようだ。韓国の日刊紙「国民日報」系のオンラインニュース「KUKIニュース」が6月2日付で伝えている。
「秘密の話をしよう」と切り出した鄭氏。2002年W杯で韓国代表は大躍進を果たしたのだが、それは鄭氏が審判を全員買収したからではないかと、FIFAの責任者が話したというのだ。これについて鄭氏自身は、自分自身に力があれば大丈夫だろうといった趣旨を口にしたそうだ。
当時、鄭氏はFIFA副会長の地位にあった。韓国の旧財閥のひとつ「現代(ヒュンダイ)」の創業者の六男で、現代重工業の社長も務めた大物だ。強力な政治力と資金力を発揮して、韓国代表に有利な判定が下されるように審判を手なずけた――鄭氏の発言から、こう読み取れなくもない。
だが、市長選のさなかに大勢の有権者を前にして、わざわざ自らがインチキを主導した「秘密」を暴露するだろうか。「韓国のための行為」と強調したかったのか、あるいは、そんなことが取りざたされるほど自分には力があるということを見せつけたかったのか、いずれにしろ、これではダーティーなイメージが染みつくのは明らか。記事では「冗談のつもりだっただろうが、軽率」との見方を示し、野党からも「失言」だと攻撃はされたが、買収話を本気としてとらえている雰囲気はない。
ただ日韓大会では、韓国の試合でいくつもの「疑惑の判定」が起きたのは事実だ。FIFA設立100周年を記念して製作されたDVDの中には、W杯の歴史に残る「10大誤審」が紹介されているのだが、このうち4件はこの時の韓国の試合がエントリーされている。決勝トーナメント1回戦の対イタリア、準々決勝の対スペインで、それぞれ2件ずつ選ばれている。
まずはイタリア戦。韓国陣ペナルティーエリアでイタリアの選手が韓国の選手に倒されたとも見えるシーンで、主審は「わざと転んだ」と判断し反則を宣告した。これで2枚目のイエローカードとなったイタリア選手は退場となる。それでもその後、別の選手が素早い飛び出しでゴールを決めたかに見えたが、今度はオフサイドとして取り消された。
この試合で主審を務めたモレノ氏は、W杯後に別の試合でも「疑惑の笛」を吹いており、FIFAから国際審判員リストから除名されている。いわば「札付き」の審判がなぜW杯の重要な試合を裁いたのか、当時は憶測が飛び交った。
スペイン戦では2ゴールが幻となった。特に後半、スペインの選手がラインギリギリのところでクロスを上げたシーンは、スロー再生を見ると「セーフ」に見えるが、線審は「ラインを割った」と判定した。
両ゲームとも韓国が勝利を手にしたが、サッカーファンの間では今も「語り草」になっている。
ソウル市長選に出馬した鄭氏にとっては、W杯ブラジル大会が近付いていることもあり、当時のサッカーの話題と絡めて「自分のおかげで勝てた」とばかりに自慢したかったのかもしれないが、いまだに判定に納得していない人たちにとっては、「やはり圧力がかかってたのか」とますます疑念が増しただろう。
韓国でも評判は悪い。KUKIニュースの記事には、読者から「冗談にしても何を言っているのか」「サッカー韓国代表と国民がつかんだW杯4強が不正行為だったという発言」「こんな人物がソウル市長になるなんて、考えるだけでも嫌だ」と批判のコメントが並んだ。
選挙戦大詰めでの失言は、多少影響があったのだろうか。市長選の開票の結果、鄭氏は対立候補の現職に敗れ、ソウル市長の椅子に座ることはできなかった。
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