平成26年6月5日内外記者会見
【安倍総理冒頭発言】
今、世界は歴史の大きな岐路に立っています。今こそ、G7のリーダーが、一致して、今後の世界の進むべき方向を示さなければなりません。その覚悟と信念を持つ、世界の主要な先進国のリーダーたちが、この2日間、ここブリュッセルで顔を合わせ、率直に話し合いました。
何よりも、私たちには共通の「言語」があります。それは、自由と民主主義であり、基本的人権であり、そして、法の支配であります。こうした基本的な価値観を共有しながら、世界の進むべき道を議論する。これが、G7サミットです。
先月は、 ここブリュッセルにあるNATO本部で、そして、先週はシンガポールで、私は、「法の支配」の重要性を、世界に向けて訴えました。航行の自由、航空の自由こそが、自由貿易の発展、世界経済の発展のために、最も重要な前提であります。「いかなる主張も、国際法に基づかなければならない。その実現のために力を用いてはならず、平和的に解決しなければならない。」
すべての国が、国際社会の一員として、当たり前に守らなければいけないことです。こうした原則を、今回、G7として、確認できました。力を背景とした現状変更は、絶対に許してはならない。ウクライナに端を発した問題は、アジアにも影響を及ぼすグローバルな問題であります。力の横行を放置すれば、世界は混乱に陥る。その危機感を、改めて、G7のリーダーたちと共有しました。ウクライナでも、アジアでも、地域の秩序に挑戦するような拡張主義は、断固容認できません。G7が一致して、その明確な意志を、世界に向けて発信することができました。
ウクライナでは、大統領選挙が行われ、ポロシェンコ新大統領の下、新たな国づくりが始まろうとしています。日本は新たなウクライナの安定のため、できる限り支援を行っていきます。国づくりには、国際社会が、一致協力して、協力しなければならない。今回のサミットでは、その点も確認しました。
とりわけ、隣国・ロシアの協力が不可欠です。本来であれば、このサミットには、ロシアのプーチン大統領がいたはずです。ロシア には責任ある国家として、国際社会の様々な問題に建設的に関与していただきたい。世界も、それを望んでいます。そのためにも、私は、プーチン大統領との対話を続けていきたいと考えています。
現在の国際情勢は、リーマン・ショックからようやく立ち直り始めた世界経済にとっても、大きなリスク要因となりかねません。伸び悩みを見せる新興国経済も大きな課題です。新興国の構造改革を支援し、成長の大きな可能性を開花させるため、G7が連携して努力をしてまいります。
一年前のサミットでは、日本の新たな経済政策、アベノミクスに、世界の関心が集中しました。そして、今年は、その成果に注目が集まりました。「三本の矢」によって、日本は、有効求人倍率が、17か月連続で上昇し、1倍を超えています。
今年の春から、多くの企業が給料アップに踏み切りました。今や、日本は、世界経済復活のエンジンでもあります。経済セッションでは、今後も、たじろぐことなく改革を進めていく決意を表明しました。「日本が、再び世界の中心に戻ってきた。」そのことを、改めて実感したサミットでもありました。
東アジアの情勢については、私から、各国に対して、説明をいたしました。そして、G7の国々の理解を得ることができました。挑発行為を続ける北朝鮮に対しては、「核保有は断じて認められず、今のままでは未来がない」とのメッセージを、G7のリーダーたちと、明確に発することができたと考えます。
先般の日朝合意も紹介し、拉致問題の解決の必要性について訴え、各国から、強い支持と理解を得ることができました。すべての拉致被害者のご家族の皆さんが、ご自身の手で、肉親を抱きしめる日がやってくるまで、私の使命は終わりません。拉致問題の解決に向けて、関係国とも連携をしながら、全力で取り組んでまいります。
さて、ここブリュッセルでは、先月に続いて、行き届いたおもてなしを頂きました。改めて、ブリュッセルの皆様に御礼を申し上げたいと思います。このあと、私は、イタリアに向かいます。イタリアは、来月から、EUの議長国となります。レンツィ首相とは、日本とEUのEPAの早期成立をはじめ、日本とEUの将来についても語り合いたいと思っています。
ヨーロッパは、私の「地球儀を俯瞰する外交」を進める上で、欠かすことのできないパートナーです。一連のヨーロッパ歴訪の総仕上げとして、今回、バチカンを訪問し、フランシスコ法王とも会談をいたします。世界が抱える紛争や貧困といった問題も、必ずや解決できる。そのために、私たちは、絶えず最善の努力を続けていかなければなりません。そうした日本の思いを、「法王と共にできれば」、と思います。
【質疑応答】
(NHK 原記者)
今回のG7首脳宣言では、ロシア、中国に、明確なメッセージが送れたと思いますけれども、ロシア、中国とも基本的な立場を変えているようには見えません。岸田外務大臣のロシア訪問は延期されたままですし、中国との間での首脳会談の見通しは立っていません。
こうした中、今年秋には、中国でのAPECの首脳会議が開かれるほか、ロシアのプーチン大統領の日本訪問も予定されています。安倍総理としては、対中、対ロ外交を今後、具体的にどのように組み立てていこうとお考えでしょうか。
(安倍総理)
ウクライナでも、アジアでも、地域の秩序に挑戦するような拡張主義は、断固として容認することはできません。G7の首脳が一致して、その明確な意志を、世界に向けて発信することができたことは大きな成果だったと思います。
東シナ海、南シナ海における力による現状変更の試みについては、先般、シンガポールでの基調講演で述べた、いかなる主張も法に基づくべき、そして、力による威嚇は許されない、さらに、平和的に解決されるべきであるとの3つの原則について、G7においても強い支持をいただくことができました。シンガポールのシャングリラ会合においてたくさんの国々から大きな支持を得た三原則、いわば日本が世界に向けて示したこの原則について、G7において確固たる支持を得たことは、日本外交にとっても画期的な出来事だったと思います。
日中関係については、両国は切っても切れない関係であり、安定した日中関係は地域の平和と安定のためにも必要であります。現在、日中間には様々な懸案があるが、懸案があるからこそ、戦略的互恵関係の原点に戻って、首脳間の交流、会談、議論を行うべきであると思っています。対話のドアは常に開かれているわけでありまして、中国側にも同じ姿勢をとってもらいたいと切に希望しているところであります。中国が、地域の平和・安定・繁栄に責任ある建設的な役割を果たすことを歓迎いたします。
ウクライナについては、5月25日の大統領選挙が平和裏に行われたことは大きな成果であったと思います。ウクライナの安定化のためロシアがウクライナ新政権と建設的に対話するよう促すことが必要であり、クリミアの併合は決して容認できません。
同時に、ロシアをイラン、シリアといった他の国際問題にも関与させていく必要があります。ロシアとの対話が要諦であり、今後ともロシアと対話を重ねつつ、我が国の国益に資するような日ロ関係を進めていく考えであります。?
(AP通信 ダールバーグ支局長)
日本はアジア太平洋地域で、安全保障面で積極的に貢献しようとしており、また世界の平和に貢献しようとしている。日本が、ウクライナの平和及び安定確保に向けて、どのような貢献をしていくのか。また、ロシア等が隣国に対して拡張政策をとっていることにどのように対応するか。
(安倍総理)
今回のサミットを通じて、ウクライナの平和と安定のためには、経済状況の改善、そして、民主主義の回復、国内の対話と統合の促進の3つが重要であることで一致をいたしました。今回、G7で結束して対応していくことが極めて重要であるということで一致しまして、ロシアに対して、大統領選挙の結果を承認すること、東部ウクライナの不安定化につながる対応をやめること、そして、ポロシェンコ政権と話し合いを行うこと、この3つのことを求めていくことで一致をいたしました。
さらにポロシェンコ・ウクライナ新大統領には、国内の政治・経済改革を進めていくことをG7で促していくことになりました。
我が国としては、ウクライナ新政権による改革を引き続き支援するため、G7の枠組みに積極的に参加していく考えであります。
(毎日新聞 竹島記者)
国内の集団的自衛権の行使容認論議について伺います。総理は年内のガイドラインの見直しに間に合うように、憲法解釈変更の閣議決定を行うお気持ちを示しておられると思うのですが、そのためにはいつ頃までに閣議決定をする必要があるとお考えでしょうか。
さらに、与党協議ではグレーゾーン、国際協力、集団的自衛権につながる武力行使、この3類型を巡って協議が行われております。一部では、グレーゾーンの先行処理を求める意見もありますが、総理は閣議決定までに3類型すべての合意を求める姿勢に変わりはないでしょうか。
最後に、野党の日本維新の会、みんなの党が行使容認に賛同する姿勢を示しています。今後、政府の考え方を説明されて、協力を求めるお考えはございますでしょうか。
(安倍総理)
先月の記者会見においてお示したとおり、日本の近隣で紛争が発生し、避難する邦人の命が危険に晒されている時、政府は、何もできなくていいのか。内閣総理大臣としては、国民の命と平和な暮らしを守る責任を負っている訳であります。
このような問題意識に基づきまして、あらゆる事態に切れ目なく対処できる法整備を行い、隙のない備えを作っていくとの観点から、与党協議を集中的、徹底的に進めていただきたいと考えています。
日米間では昨年10月の日米「2+2」において、本年末までに日米防衛協力のためのガイドライン見直し作業を完了することで合意をいたしました。この点は、本年4月の日米首脳会談においても、確認をいたしました。それに間に合うように、本件についての方針が固まっていることが理想的であろうと思います。
大切なことは、国民の命と平和な暮らしを守るための備えについて、具体的な事例を使って、わかりやすく説明し、国会での説明などを通じて、国民の皆様の理解をいただくことだろうと思います。
今行っていることは、まさに政府として、そして内閣総理大臣として、国民の命を守るために、私たちは何をすべきか、という観点からの議論をしっかりと、そして徹底的に集中的に行っていかなければならないと考えています。その際、もちろん与党で最終的に結論を得ることがきわめて重要であります。同時に、他の党、みんなの党あるいは維新の会等が理解を示していただいている。なるべく多くの方々に理解を示していただくことは、安全保障政策について作成していく上で、決定していく上において、大変私は、大切なことではないかと考えています。
(ウォール・ストリート・ジャーナル フィドラー支局長)
リーマン・ショックによって世界経済が大きな打撃を受け、世界の多くの国は、まだ十分に回復できていないが、日本は消費税増税が消費及び工業生産の落ち込みを招いてしまったと思うが、こういった形での落ち込みは、経済成長の長期的な妨げになるとの懸念はお持ちか。そうでなければ、いつ再び成長を見込んでいるか。
(安倍総理)
私は、やっと日本が15年ぶりにつかんだと言ってもいいデフレ脱却のチャンスを決して逃してはならないと思っています。ですから、消費税増税以降の消費動向は、毎週チェックをしています。パソコンや自動車など、駆け込み需要の反動も見られますが、他方、スーパーでは、前年比マイナス幅が縮小してきており、百貨店でも、回復傾向にあるとの声も聞かれます。
外食産業では、むしろ売り上げは好調で前年よりもプラスになっています。夏のバカンスについても、昨年よりも旅行予約が好調に進んでいるようでありまして、消費の落ち込みは、一時的なものとなると考えています。
また、雇用情勢は極めて重要であります。雇用情勢に目を向けますと、有効求人倍率は17ヶ月連続で上昇し、1.08まで回復をしました。この水準は、実に7年9ヶ月ぶりの水準であります。また、この春から、多くの企業が賃上げを決断しました。連合の調査で、平均して、月給が2%以上上昇。10年間で最も高い水準であります。
夏のボーナスにつきましては、経団連の調査では、昨年より8.8%上昇しています。この数字は過去30年間で最高の伸び率となっています。雇用においても賃金においても大変よい結果ででてきています。企業収益の向上が賃金に回り、消費につながっていく「経済の好循環」に向けた動きは、途切れていないと判断しています。
消費増税は、国の信認を維持し、世界に冠たる社会保障制度を次の世代に引き渡していくため、17年ぶりの政治の決断でありました。
同時に、反動減を乗り越えるため、万全の手を打ってきた訳でありまして、5.5兆円規模の経済対策を発動中であります。成長戦略もしっかりと打ち出していきます。
IMFからも、日本経済に関し、消費税率の影響をうまく乗り越えつつある、反動減により4~6月期に経済は縮小しますが、本年の後半には、雇用増加や賃金上昇に支えられて、経済は回復する見込み、との分析がなされていることも承知しています。
7月から年度後半にかけて、すみやかに成長軌道に戻していきたいと思います。安倍内閣は日本経済の再生を必ず成し遂げていきます。
(フジテレビ 松山記者)
総理は、今回のサミットの機会でも、北朝鮮について触れられましたけれども、先に北朝鮮との間で合意した拉致被害者などの全面調査と一部制裁の解除等について説明されたということなのですが、今後その再調査について実効性を高めるために総理は具体的にどのような方策をお考えになるのでしょうか。例えば、日本から政府の要員を派遣するとすれば、どのレベルの政府要員を派遣するお考えか。また、北朝鮮から要員を派遣したいという場合、どういう受け入れ体制を整えたいとお考えなのでしょうか。
(安倍総理)
この拉致問題について、また先般合意した北朝鮮との再調査の合意について、このG7サミットにおいて説明をいたしました。オバマ大統領との立ち話において、この再調査についての日本の考え方についても、私から直接説明しました。北朝鮮側は、拉致被害者に関する包括的、全面的調査を行うことを約束しました。今後特別調査委員会を立ち上げ、調査開始までにその構成、責任者等を日本側に通告することになっています。政府としては、まずこうした情報をしっかりと把握をし、具体的な結果を得ることができるように取り組んでいきます。
調査の過程においても北朝鮮側から随時通報を受けて協議するとともに、調査結果を直接確認する仕組みを確保しています。今までの北朝鮮との様々な交渉等、今までの交渉等から学びながら、こうした仕組みをしっかりと組み入れている訳であります。
今回の調査は、我が国の主権が及ばない地域で行われる訳でありまして、北朝鮮が行う調査を日本側がしっかり確認していくことが、その実効性を確保する上で重要であると私は考えています。調査団の派遣を含め、詳細については、今後調整をしていく考えであります。いずれにいたしましても、しっかりと私たち自身が確認しながら進めていく、という仕組みになっている訳でありまして、北朝鮮も誠意を持って対応していくよう、北朝鮮側に強く促し続けていきたいと思います。