真夜中のコンビニで男性客が若い男の店員に文句をつけている。客は六十歳前後。会社員のようだ。酔っている。何があったのかは知らぬ。客は「おまえはだめなんだよ」「正社員じゃないだろう」と絡んでいる▼「オレは国立大学を出て、会社でも出世した。おまえは何なんだ」。一方的な説教を耳にしてこっちの腹が立ってくる。不景気、就職の難しさ。この世代にはこの世代の苦悩と事情がある▼青年は黙ってレジを打つ。品物を袋に詰め終え、会社員に渡す。お客さん、と声を掛ける。「お客さんの言ったこと、おれ、全然悔しくないっすから」▼悔しくないの裏側の悔しさはいかばかりだったか。空(むな)しい一夜の忍耐。あの青年に読ませたい記事があった。米宅配大手UPSの最高経営責任者(CEO)にデビッド・アブニーさんが昇格する▼おもしろいのは経歴。荷役アルバイトとして入社した。立身出世がすべてではないが、四十年間の努力が報われた。悔しいこともあっただろう▼『里山資本主義』のエコノミスト藻谷浩介(もたにこうすけ)さんに聞いたことがある。「客として来店した誰かがあなたの仕事ぶりに感動し、うちに来いというかもしれない」。そんなことはまずない。それでも可能性はある。時代を嘆き、ふてくされているよりは、可能性は大きい。アブニーさんが証明した。続ける。努力する。そこに道ができる。