山の向こうのワンナイトリゾート
辞めるときに色々言われたけど僕の中で情状酌量の余地はなかった。大雪で止まりかけた山手線と、スーツケースに使っていたHDDとマウスとMacBookを詰め込んで上野発の夜行列車に飛び乗った。ちなみに津軽海峡・冬景色とはわずか8小節で上野から青森まで移動する、世界最速の演歌である。青森駅で降りたけど何もなかった、くしゃくしゃになったパーラメントに火をつけながら海を見たりした。そのままスーツケースを持ったまま素泊まりできる宿を探した。クレジットカードが使えるかと聴いたら女将っぽい人に面倒くさそうに断られたりした。なんとか部屋を借りると、部屋のデリバリーでお湯入りの魔法瓶と安っぽいボトルを頼み、くだらないペイチャンネルを見ながら、その後も意識は持続して、いくつかの悪夢や楽しいシーンを脳内で経た。徐々に意識はフェードアウトしていって、何もない眠りへと落ちていった。
上野発の夜行列車飛び乗ったわボケ pic.twitter.com/heRq1OMLOh
— おさんぽみるく (@MILKWALKEE) 2014, 2月 10
アルコールのおかげでめちゃくちゃ頭が痛くて5時頃起床。不思議にとても心は穏やかだった。 荷物を残したまま駅まで歩く。すき家で朝食を摂ろうとするも財布を忘れる。朝食断念。部屋に戻り半分以上余った焼酎ボトルに悩ませる。ロビーで新聞を読んだり、小汚いホテルの喫茶店でバカ高いコーヒを頼んだりしてリゾートを満喫していた(気温2度)寒いし、何もすることがなかったし、年金の手続きとか色々面倒くさそうなことを残して出てきたので帰ろうと思った。なんと情けない。
転職活動した
瞬間的にQOLが爆アガリした先日から、気づくと千葉の実家に帰っていた。親戚が死んだり生き返ったりしてかなり忙しい感じだったので「仕事辞めました」なんて言える状況じゃなかった。仕事に行くフリをしながらいつもどおり8時に地元の駅から通勤快速東京行きに乗り、千葉駅のカフェでMBAを開いてネットサーフィンをしながら遊んでたり、パチンコ行ったりしてかなりクズな感じで生活してた。半年ぶりに研究室に遊びに行ったりして会社辞めた話とかして盛り上がった。僕が大学に顔を出す度に仕事が変わってることにかなりご執心だった、半年間殆ど会社ではかまってもらえなかったので、弄られる分には面白かったりした。
2週間位経ってパチスロ化物語でボロ負けして仕事しようと思った。転職活動の段取りもESの書き方も面接も驚くほどスムーズだった。ただ今度は「完全週休2日・残業なし・ボーナスがある」仕事に就こうと思った。また広告会社とかデザイン事務所とかいくつか受けたと思う、内定も5,6件でたりして余裕綽々だった。景気は良くなったのだろうか。止まった時間は少しずつ動き出した。勢いで葛西に部屋を借りたりした。前がオフィスか何かでクロスも張り替えられてリフォーム済みでカッチョ良かったので即決めた。後から聞いた話だと元ラブホらしい、壁が厚いので良い。雨が降ると下水臭い。もちろんオフィス可なので自営もできる。
AV会社に転職した
憧れて入った広告代理店を辞め、30歳までにマセラティを買うという俺の密かな目論みは脆くも崩れ去ったけども、年間休日は140日を超え、残業時間は90時間から0時間に、惜しくも会社まで20分の距離に部屋を手に入れ、本来の転職の目的の点からみれば十分に達成された。アダルトビデオの会社思ったより真面目でドン引きする。風俗映像業であることに変わりはないんだけれど、自社で撮っているわけでもなければ、S◯Dみたいな社員兼AV女優みたいなのは居ないし、まして「ヤ」とかそういう関係は一切ないクリーンな業界であると傍目から見ても分かるくらい普通。最近「おさんぽみるくさん汁男優っすか!?」みたいな感じで弄られるけど残念すぎる。
入社当日にiMacを突き出されイラレとフォトショをインストールしてパッケージデザインとかやったりした。大体どこの会社でやってもデザインの仕方とか入稿方法もセオリー通りなので何も困らなかった。アダルトビデオのパッケージ、とにかく文字情報の多さが半端無いので文字組みが売れ行きを左右するというくらい重要、A0版とかバナー印刷とかやってる時に比べりゃA4の紙にデザイン組むのなんてイージーモードだけど、文字詰めだけで半日掛けたりとかしてヤバい。業界でもAVのジャケットの作り方みたいなのはある程度定義化されてるっぽい、あと社内にデザイナーが僕しか居ないのがヤバい。営業も外回りでサボったりして校正取ってくれなくてウケる。あとパッケージに「プロダクトポエトリー」 とかモリモリ使ったりしてオモロイ。
あとは片手間で広報用のツイッター書いたりとか、サーバの管理したりとか、WEBデザインやって、お茶汲みしたりしてる。大体毎日18時過ぎには帰ってるしQOL爆アガリしてる。
あとがき
ここ1年間でこんなことありましたみたいなのを備忘録っぽく稚拙に書いてみた。23歳で胃潰瘍とか痛風やったりして体重は20kg増えたので痩せようと思った。今まで居た2社は客観的に見ても、けっこう良い会社だと思っていた。従業員の補助や社会貢献とかも形だけじゃなくてちゃんとしている感じだった。ただ同時に、その場所と空気に触れた皮膚感覚として、「駄目かもしれない」という感覚もあった。その重圧は、会社からきっぱり手を切ってしまった今も消えてはくれない。会社に就職した皆が、自己実現とか、表現社会とか、そんなことを思っているわけじゃないだろう。しかるべきプライドと、自分が何かしら意味のあることをしているという実感があれば、それなりにはやっていける。もちろんそれには諦めが伴うのだが、それこそが就職をするということではないのだろうか。しかし「自分は何ができるのか?」ということを考えた時に、確信を持てることなんてほとんどない。23歳でこの解答が導き出せる日本人が国内に何人いるだろうか。僕はもう少し探してみようと思った。落ち着いたらニーソックス屋さんでもやって静かに暮らしたいなあ。