医療費:訪問診療、撤退の動き 報酬減額で

毎日新聞 2014年06月08日 19時00分

グループホームで暮らす女性を訪問診療する「ホームケアクリニック横浜港南」の足立大樹院長(右)=横浜市港南区で、中島和哉撮影
グループホームで暮らす女性を訪問診療する「ホームケアクリニック横浜港南」の足立大樹院長(右)=横浜市港南区で、中島和哉撮影
報酬はこれだけ減った
報酬はこれだけ減った

 ◇医師「採算合わない」

 4月、医師が受け取る医療費(診療報酬)のうち、老人ホームなどを訪れて診察した場合の報酬が最大75%減額された。集合住宅の入居者をまとめて医療機関にあっせんする「患者紹介ビジネス」の排除を狙ったものだった。しかし、まじめな医師の間にも「採算が合わない」と撤退する動きが出始め、厚生労働省は苦慮している。【中島和哉、細川貴代】

 2月末、大阪府の医療法人事務長が全国で数十カ所の有料老人ホームを経営する東京の業者を訪ねた。法人は、都内のホームなどこの業者が運営する2カ所の施設に医師を派遣している。対応した担当者に事務長は「専門職として患者を放り出すのは大変忍びない」と切り出し、「だが」と言葉を継いで頭を下げた。

 「この報酬では事業体として持たない。4月に遠方の施設からは撤退します」

 結局、業者には計三つの医療機関から撤退の通知が届いた。訪問診療を受ける5施設計350人の入居者は、平均年齢84歳。認知症で通院できない人、定期的な体調管理が必要な人も多い。仰天した担当者は全国をかけ回り、ぎりぎり3月末に別の医師を確保したものの、楽観はしていない。「4月分の報酬が払われるのは6月。第2の撤退の波が7月に来るのでは」

 医師が高齢者のグループホームなどを訪れると、3月までは同じ日に複数の患者を診ても1人当たり2000円の技術料を請求できた。さらに同じ患者を月に2回以上訪れると、月5万円が加算された。ところが、4月以降はこうした「一括診察」をすると技術料は半減される。そして同じ患者を月に2回訪れる場合、2回とも一括診察であれば加算は75%カットとなった。

 厳しい措置に2月以降、訪問診療からの撤退が相次いでいる。また多くの医療機関は「一括診察は月1回」「同じ施設では1日1人しか診ず、同一施設を連日訪れて患者数を稼ぐ」という防衛策に走っている。

 5月末の昼。横浜市港南区の高齢者グループホーム「クロスハート港南・横浜」に入居する80代の女性は、昼食を後回しにし、区内の診療所「ホームケアクリニック横浜港南」の足立大樹院長(44)の往診を待っていた。自ら運転して回る院長の訪問先は、午前中に6軒。4月以降「1日1患者」の往診先が増えて移動が忙しくなり、到着時間が読みにくくなった。

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