このように消防官1人が勤務する「1人消防署」は、韓国に81カ所もある。ほとんどは人口密度が低く、管轄面積が広い農村・離島地域だ。昨年、ソウルの消防署の平均出動時間は3分22秒だった。これに対し、1人消防署を41カ所抱える全南消防本部の平均出動時間は7分7秒、江原消防本部(21カ所)は7分36秒、慶北消防本部(15カ所)は9分8秒だった。これらの地域の住民たちは、安全に関する限り、結果として差別されていることになる。
「1人では、どれだけ頑張っても現場で基本的な救助・救難もできない」と消防官は語る。ある消防官は「火災現場で人命を救助しようと思ったら、火の手を抑えなければならない。しかし1人で出動して、火を消しながら人命救助をするのは事実上、不可能」と語った。また「1人出動」は消防の内規違反でもある。消防が内規として定めている「標準作戦節次」は、火災など救難現場では「2人1組」を最少チームとしている。
消防防災庁の関係者は「1人消防署で勤務する消防官の場合、すぐに救助が必要な人や救急患者が発生した場合、消火を放棄してそちらに駆け付ける」「この場合、火が燃え広がるのを防ぐことはできず、さらなる被害が発生するだけでなく、消防官も危険にさらされる」と語った。
実際2008年3月には、京畿道高陽市の火災現場で1人消防署に所属していた消防官が殉職した。食寺119地域隊のチョ・ドンファン消防長(消防士長に相当)は1人で火災現場に進入し、10メートル下に転落した。
チョ消防長は遅れて現場に到着した同僚の消防官によって発見されたが、病院への搬送中に死亡した。同僚の消防官は「2人1組なら死ななかったはずの事故」と語った。
ソウル科学技術大学のキム・チャンオ教授(安全工学科)は「韓国の領土で国民の生命を守るのは、韓国政府の最も基本的な責任。それなのに地域によって救助・救難サービスの質に大きな差がある」「中央政府が地方政府にその責務を押しつけ、財源もきちんと支援しないため、こういう現象が発生している」と語った。