5年ごとに実施される公的年金の財政検証が6/3に公表された。内閣府の経済再生ケースに接続し、2024年度以降の実質経済成長率が0.1%以上となる場合については、現役の手取り収入と比較した年金水準の割合を示す「所得代替率」が50%以上であることが確認されたため、年金制度の改正が必須とはならなかった。おそらく、デフレ下でも年金水準の引き下げを行えるよう、マクロ経済スライドの手直しをする程度で終わるだろう。
財政検証の結果を見て、「経済前提の想定が甘い」と言う人もいるが、それで、一体、どうしたいのか。マクロ経済スライドが作動する限り、経済や出生の状況が悪くなっても、それらに応じて年金の給付水準が引き下げられるので、制度が破綻することはない。むろん、給付水準が下がれば、老後の生活は苦しくなるが、国全体が傾いているのだから、年金だけが救われるはずもない。もって瞑すべしである。
………
2004年の年金改革以降の十年は、無意味な「抜本改革」の議論に費やされた。経済や出生の向上に努力するしかないのに、「財政方式を変えれば何とかなる」という幻想に惑わされたからである。デフレ下でスライドを作動させることは、決して「良策」ではないのだが、「少子化で年金は破綻」という議論に終止符を打ち、次のステップに行くには必要なことであろうと考える。
「良策」でない理由は、年金をカットしてしまえば、ますますデフレを強めるからである。経済政策としては、その悪影響を相殺するために、別途、景気対策をしなければならない。「消費増税をしながら、公共事業や法人減税も打つ」という分裂した政策にも平気な人は疑問に思わないかもしれないが、年金だけを見て全体を考えない政策の典型である。
景気対策と両立てにするくらいなら、年金をカットせず、給付に余計にかかる分を財政から社会保障基金に繰り入れる方がマシである。最善は、年金をカットした分を、少子化対策や非正規の保険料軽減に充てることだろう。それらは経済や出生を向上させ、日本全体を浮揚させるだけでなく、年金財政も助けて将来の給付を厚くする。具体的にどうするかは、「基本内容」を見てほしい。
………
日本の年金の議論を混迷させたのは、「抜本改革」の攻撃も然ることながら、所得代替率50%を、いわば「死守」することにしたところにもある。入る側の保険料率を18.3%に固定したのだから、出る側の給付水準も約束してしまうと、経済や出生の状況によって、「守れる、守れない」で紛糾することは避けられない。これは、状況次第で仕方のないものと達観しなければならなかったのだ。
これを理解すると、またぞろ出てきた年金「支給」開始年齢の引き上げという無意味な議論を避けることができる。これに関しては、権上善一教授が誤解を解くべく説諭を繰り返しておられて、誠に頭の下がる思いだ。つまり、代替率の50%割れが嫌なら、個々の判断で「受給」を始める年齢を遅らせ、それによって給付水準を高めれば良いだけだからだ。一律に「支給」する年齢を決める必要はない。むろん、水準も時期もというのは、現役世代の負担を重くするしかないから、これは求めても詮無いものであろう。
以前も書いたが、政治家や厚労省は、経済状況が「想定」より悪かった場合、国民が「どうすれば良いか」を分かりやすく説明しなければならない。例えば、代替率が50%から48%に下がってしまった場合、受給を1年遅らせれば、給付水準を回復できる。国運が下がれば、長く働くしかないのである。また、代替率のモデルは、専業主婦の世帯なので、妻にも働いてもらって補うことも可能だ。
………
大事なことは、国民が努力できなくなるほど景気を悪化させないことである。働こうにも仕事がないのではどうにもならない。アベノミクスでせっかく景気回復が始まったのに、一気の消費増税で潰すようでは、得られるものも得られない。法人減税ができるほど自然増収が伸び、長期金利も安定している中で、増税を刻まずにリスクを犯す必要はなかった。こういう経済運営の稚拙さが日本の最大の問題なのである。
年金制度の本当の課題は、乳幼児への給付を組み入れたり、低収入者の保険料を補助することで非正規の若者や女性を取り込んだりすることである。少子化の中で、それらは一刻の猶予もないのだが、残念ながら、いわば「次の次」のステップとなっていて、今、議論できるほど、日本の社会は成熟していない。せめて、年金の「支給」開始年齢の引き上げといったムダな議論を省き、早く「次」へ進んでもらいたいものである。
(今日の日経)
法人税が最大1兆円上振れ・13年度納税額、減税議論に弾み。社説・年金の安定へ即座に改革着手を。中国景気は昨年から減速・内閣府試算。
※年金の抜本改革は、読売も朝日も離脱して、日経だけの主張となっていたが、担当の編集委員が山口聡さんに代わったこともあってか、今回の社説は「普通」の改革になったようだ。「社会全体を変えていく」観点での論説を期待しているよ。
※増税後9週目の「消費税率引上げ後の消費動向等について」は、飲食料品が前年比-3.9%とまったく戻らなかった。収入の下がり幅からすると、このままのおそれもあるね。
財政検証の結果を見て、「経済前提の想定が甘い」と言う人もいるが、それで、一体、どうしたいのか。マクロ経済スライドが作動する限り、経済や出生の状況が悪くなっても、それらに応じて年金の給付水準が引き下げられるので、制度が破綻することはない。むろん、給付水準が下がれば、老後の生活は苦しくなるが、国全体が傾いているのだから、年金だけが救われるはずもない。もって瞑すべしである。
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2004年の年金改革以降の十年は、無意味な「抜本改革」の議論に費やされた。経済や出生の向上に努力するしかないのに、「財政方式を変えれば何とかなる」という幻想に惑わされたからである。デフレ下でスライドを作動させることは、決して「良策」ではないのだが、「少子化で年金は破綻」という議論に終止符を打ち、次のステップに行くには必要なことであろうと考える。
「良策」でない理由は、年金をカットしてしまえば、ますますデフレを強めるからである。経済政策としては、その悪影響を相殺するために、別途、景気対策をしなければならない。「消費増税をしながら、公共事業や法人減税も打つ」という分裂した政策にも平気な人は疑問に思わないかもしれないが、年金だけを見て全体を考えない政策の典型である。
景気対策と両立てにするくらいなら、年金をカットせず、給付に余計にかかる分を財政から社会保障基金に繰り入れる方がマシである。最善は、年金をカットした分を、少子化対策や非正規の保険料軽減に充てることだろう。それらは経済や出生を向上させ、日本全体を浮揚させるだけでなく、年金財政も助けて将来の給付を厚くする。具体的にどうするかは、「基本内容」を見てほしい。
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日本の年金の議論を混迷させたのは、「抜本改革」の攻撃も然ることながら、所得代替率50%を、いわば「死守」することにしたところにもある。入る側の保険料率を18.3%に固定したのだから、出る側の給付水準も約束してしまうと、経済や出生の状況によって、「守れる、守れない」で紛糾することは避けられない。これは、状況次第で仕方のないものと達観しなければならなかったのだ。
これを理解すると、またぞろ出てきた年金「支給」開始年齢の引き上げという無意味な議論を避けることができる。これに関しては、権上善一教授が誤解を解くべく説諭を繰り返しておられて、誠に頭の下がる思いだ。つまり、代替率の50%割れが嫌なら、個々の判断で「受給」を始める年齢を遅らせ、それによって給付水準を高めれば良いだけだからだ。一律に「支給」する年齢を決める必要はない。むろん、水準も時期もというのは、現役世代の負担を重くするしかないから、これは求めても詮無いものであろう。
以前も書いたが、政治家や厚労省は、経済状況が「想定」より悪かった場合、国民が「どうすれば良いか」を分かりやすく説明しなければならない。例えば、代替率が50%から48%に下がってしまった場合、受給を1年遅らせれば、給付水準を回復できる。国運が下がれば、長く働くしかないのである。また、代替率のモデルは、専業主婦の世帯なので、妻にも働いてもらって補うことも可能だ。
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大事なことは、国民が努力できなくなるほど景気を悪化させないことである。働こうにも仕事がないのではどうにもならない。アベノミクスでせっかく景気回復が始まったのに、一気の消費増税で潰すようでは、得られるものも得られない。法人減税ができるほど自然増収が伸び、長期金利も安定している中で、増税を刻まずにリスクを犯す必要はなかった。こういう経済運営の稚拙さが日本の最大の問題なのである。
年金制度の本当の課題は、乳幼児への給付を組み入れたり、低収入者の保険料を補助することで非正規の若者や女性を取り込んだりすることである。少子化の中で、それらは一刻の猶予もないのだが、残念ながら、いわば「次の次」のステップとなっていて、今、議論できるほど、日本の社会は成熟していない。せめて、年金の「支給」開始年齢の引き上げといったムダな議論を省き、早く「次」へ進んでもらいたいものである。
(今日の日経)
法人税が最大1兆円上振れ・13年度納税額、減税議論に弾み。社説・年金の安定へ即座に改革着手を。中国景気は昨年から減速・内閣府試算。
※年金の抜本改革は、読売も朝日も離脱して、日経だけの主張となっていたが、担当の編集委員が山口聡さんに代わったこともあってか、今回の社説は「普通」の改革になったようだ。「社会全体を変えていく」観点での論説を期待しているよ。
※増税後9週目の「消費税率引上げ後の消費動向等について」は、飲食料品が前年比-3.9%とまったく戻らなかった。収入の下がり幅からすると、このままのおそれもあるね。