【社説】「法治」軽視を憂う裁判官の実定法無視判決

 旅客船の運航管理点検関連書類を偽造したとして、検察は2人の運航管理者についての逮捕状を請求したが、全州地裁群山支院で令状を担当するイ・ヒョンジュ裁判官がこれを棄却した。その理由は「海洋での安全は国の格が上がらなければ解決できない問題だから」というものだ。海運組合群山支部所属のこの2人の運航管理者は、実際は船まで行っていないにもかかわらず船内で安全点検を行ったかのように見せ掛けて書類を偽造するなど、旅客船の出港前安全点検報告書を500回以上にわたり偽造したとされている。

 イ裁判官が作成した令状棄却の理由書には「セウォル号沈没事故は韓国全体の法治主義の現状を示す事件であり、大規模な海洋事故は日常生活や業務におけるあらゆる領域で国の格が上がって初めて解決できる問題。違法行為を厳しく処罰するだけでは防止できない」と記載されていた。逮捕状を発行すべきか判断する際の基準について、刑事訴訟法には「証拠隠滅」「逃走の可能性」「犯罪の重大性」などの項目が明記されている。ところがイ裁判官が記載した理由は、これら刑事訴訟法の原則とは関係のない、いわば「でたらめ」と言ってもよいようなレベルだ。

 イ裁判官が指摘したように、数人の運航管理者を処罰したからといって、安全管理を取り巻く韓国社会の構造的な問題が解決することはないだろう。しかし韓国社会がより安全性を高め、国の格を上げるには、運航管理者は法律が定めた通りに安全点検を行うべきであり、それを行わない人間がいれば司法は断罪しなければならない。そうすることによって初めて、たとえ最初は完璧ではないとしても、少しでも安全な社会に向けた第一歩を踏み出すことができるはずだ。

 問題の運航管理者らは法律が定めた基本的な義務を守らなかった。裁判官であればこの種の違法行為に対しては当然厳しく処罰し、同じ仕事に従事する者への教訓としなければならないし、これこそまさに裁判官としての本来の使命であるはずだ。ところが裁判官が「国の格」を口実に実定法を無視するような判断を下すことは、自分が法律や国の上に存在すると誤解し、自己陶酔に陥っているのではないかと疑わざるを得ない。

 イ裁判官はソウル中央地裁の単独判事(軽微な事件を一人で処理する判事)として勤務していた昨年2月にも、スポーツ賭博サイトで30億ウォン(現在のレートで約3億円)の不当な利益を得た被告に対し「国家も宝くじや競馬など、賭け事という巨悪を行っている。その国家の手で被告の行動を重罪と見なし、処罰を行うのは正義にかなっていない」という理由で執行猶予判決を下し、大きな問題となった。このような詭弁(きべん)を並べ立てる裁判官が審理を担当しているようでは「裁判そのものが信じられない」と言われてもやむを得ないだろう。裁判所と裁判官の格を上げるには、このような低レベルの裁判官を排除する仕組みを大法院(最高裁)に設けなければならない。

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