2014-06-08
「隅の老人」作者のオルツィが「ミステリーなんて小銭稼ぎよ、私は真の文学を…」とかと思って書き飛ばしたら、思わぬしっぺ返しをくらった話。
この前、ちょっと話題にさせてもらった「隅の老人」完全版。
ここからちょっと、とある挿話の引用を。
契約はとてもよかった。しかしそのときすでに心の中では、雑誌に扇情的な小説を書くのは、私自身のためによくないのではないかという葛藤があった。私はそれ以上のことを成し遂げたかったのだ。もっと大きな成果を打。私の名前を国中に知らしめるような本を書き、それを皆が繰り返し読んで議論をし、さらに私はその意見に傾聴するというようなことだ。
(略)
私は鷹のような大物を狙っていた。しかし一方で一、二羽の雀を撃ち落せた。
そういったささやかな成果の中で最も重要だったのは、(私のプライドはそれらを成功と呼ぶことをよしとはしない)…「隅の老人」シリーズ…(略)さて、私はこの作品に将来をかけるほどの馬鹿ではなかった…自分の最高傑作になるであろう作品のノートを、心の奥底の一番大切だけれども今すぐ必要ではないものをしまっている場所に押し込めて新しい連載作品に気持ちよく取り掛かった。
明敏な警察を手玉にとる、謎いっぱいの殺人事件の舞台は、グラスゴーに決めた。もうすでにアイデアはできていた。検死審問、数人の証人、相反する証拠…(略)
ところが思いもよらないことになった。小説は発表されたのだが…3日もしないうちに、編集者も助手も不運な著者も、山のような投書に埋もれてしまった。何十通、何百通の投書が…国中、特にスコットランドから殺到した。怒り、あざけり、悲しみの投書などいろいろだったが、その内容は同じだった。スコットランドには検死審問の制度は無いという意的だった。
(略)
幸いなことに「ロイヤル・マガジン」編集部のみなさんはユーモアのセンスがあった。…この騒動も笑い飛ばして、250通の投書をゴミ箱に放り捨ててしまった。
(略)
私は厳しい教訓を得た。そして、それは私の人生に大いに貢献した。その後、自分の作品については、きちんと調べずには書かないようにしたからである。
以上、「隅の老人」完全版で、上に話題になっているグラスゴーの謎」という作品が単行本に収録されなかった経緯についての解説文から。
- 作者: バロネス・オルツィ,平山雄一
- 出版社/メーカー: 作品社
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この記述から分かること
・ホームズのコナンドイルにしてからそうだったんだから無理も無いが黎明期の自分から、いやだからこそ?「推理小説なんて…金のためにこんなのを書くより、文学史に名を残すものを書かなきゃ」的な人は大勢いて、「隅の老人」の彼女もそうだったと。ドイルと違うのは「紅はこべ」という後世に残る傑作を確かに書いたことか(笑)
・当時から、わざわざ小説の間違いを指摘するために投書するような人はいたのか。それも250通も(笑)。炎上In 19th Century。
・そして編集部も作者も、設定ミスの指摘なんてだいたい無視する(笑)
まあ、最初の「ほんとは純文学がやりたい、推理小説なんて本意じゃないんだ」というのを聞くと、正直がっかり感はあるけど、これはその本意じゃないのが自分の好きなジャンルというだけで、一般的な不正義とかじゃない。
だって逆に「自分は推理小説が書きたかった!!余技の純文学で芥川賞なんかつい取っちゃったけど、本当に力を込めたのはこの推理小説」とかだったら個人的には拍手喝采だもんな(笑)。
作者が力を込めたとか、本当に書きたかったとかはあくまでも相対的な話で、絶対値で読者は評価する。ホンキで書けば人気が出るものだ…みたいな精神論は、「男坂」の二文字で反証できるだろう。
そんなことも感じました。
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