社説:秘密法と国会 これでは監視できない
毎日新聞 2014年05月23日 02時32分
特定秘密保護法で、行政機関の特定秘密指定を監視する国会の機関について自民、公明両党が合意した。
衆参両院に「情報監視審査会」を設置し、特定秘密の指定・解除について調査に当たる。政府への勧告権などはあるが、強制力はない。
これでは、行政機関の恣意(しい)的な指定を止めるには不十分だ。両党は今国会での国会法改正を目指し22日、一部の野党にこの合意案を説明した。国民の共有財産である国家の情報が不当に隠されない仕組みにするため、野党も含めた国会の場で議論を尽くすべきだ。
両党の合意によると、審査会は常設機関で、各8人の委員は各会派の議席数に応じて割り当てる。また、会議は非公開で行われ、情報漏えいには罰則や懲罰を科す。
与党の委員が多数を占めることが想定される中で、審査会が単に政府の秘密指定の判断を追認するだけの機関となってはならない。行政をチェックする国会の役割が問われる。
合意案によると、審査会は秘密の指定や解除の状況について行政機関側から説明を聞き、問題があると考えれば特定秘密の提出を求めることができる。ただし、政府側が「国の安全保障に著しい支障を及ぼす恐れがある」と判断すれば、拒否できる。また、政府が特定秘密を提出した場合に、審査会は調査して問題があれば運用改善を勧告できるが、政府は従う義務を負わない。
この仕組みでは国会が監視の権限を十分に果たすのは無理だろう。
両党は「三権分立である以上、国会の権限を強くしすぎることはできない」と説明するが、国権の最高機関である以上、実効性をもって監視する役割を果たすのは当然だ。
欧米にも強制力のある秘密開示の命令権は国会にないとされる。だが、たとえば米国には政府内に独立性と権限が極めて強い組織がある。
わが国の場合、政府内で特定秘密の指定をチェックする組織がいまだ固まっておらず、第三者的な目での監視が期待できる現状ではない。国会の果たす役割はより大きいと言える。少なくとも、特定秘密の提出や勧告に行政側が従うことを「原則」とし、拒否できる場合を限定すべきだ。
また、「何が秘密かも秘密」というのが特定秘密だ。秘密を特定する調査力が問われる。常時監視をうたう以上は、専門性の高いスタッフを質量ともに充実させなければならない。
両党合意から重要な点も抜け落ちた。公務員が「国民に知らせるべきだ」と判断し、審査会に内部通報した場合の保護措置が、公明党案にあったが、自民党と合意できなかった。この点もしっかり検討すべきだ。